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白い戦闘機らしき機体から深紅の機体が滑り降りる。
つるりとした美麗な曲線を描くヘッドに血よりも赤いモノ・アイが音を立てて次々と標的をロックしていく。
がっしりとした基本フレームに大小様々な隠しカメラを備えた人型のボディから、スラリと伸びる艶やかな機械の二本の腕。
今や愛銃となった【シェブロSR】を構え、両脚に付けたいく本もの筒状のスラスターと背に背負った二つの中型スラスターで機体の姿勢を保つ。
その周りには四つの蕾が旋回し今花開く。
花びらを開き、満開に咲いた花は全長六メートルの特別製サイ・パペット。
威力、射程、命中補正全てが量産品のスナイパーライフルを凌駕する。
「さぁ、ここからは私たちのターンよ、一機たりとも逃がさない! 落ちなさい!!」
画面が五分割に分かれる、一つ一つの画面中心に敵機をロック、最後の微調整をラピスが終えた時五本の赤い火線が解き放たれる。
次々と起こる爆発のエフェクトを無視。
更に獲物を求め、そのうえケイジロウの援護もこなす。
「っぅ……きっつ~~」
刻々と変化していく戦場を五つの画面で捉え、対応し的確に対処していく。
その代償は時間が経つにすれ酷くなっていく脳に直接響く鈍痛。
しかし、こんな所で痛みに負けて入られない。
勝利をもぎ取る。それがこのチャンスを作る為に囮としてただ時間稼ぎに徹してくれた仲間の期待に応えるために。
《『白銀騎士団』は確実に面制圧に出てくるはずだ。その攻撃をたとえ耐え切ったとしても甚大な被害を食らい勝負はついてしまう。だから私たちあえて正面から相対する、相手に確実に勝てると思わし油断を誘う為に》
セイたちがジャミングをした後二十個のミラージュボールを使いその派手さで相手の目をひきつける間に、リンちゃんが作り上げた二機のワンオフ機に乗ったケイジロウとラピスが相手のレーダー範囲を超えるほど大きく迂回して敵後方へと回りこむ。
勿論敵レーダーに映らない為にジャミング中の三十秒でレーダー範囲外にまで行く必要があり、更にはセイたち囮部隊が全滅するまでに回り込まなければいけない。
今確認されている最高レーダー範囲は一〇〇〇〇メートル。多少の誤差を取って半径一一〇〇〇メートルの半円をグルリと回らなければいけない。
普通の機体なら確実に間に合わない距離。
しかし、ケイジロウ専用に設計された機体には三種類の換装パーツが作られていた。
そのうちの一つ、取り付けることで戦闘機のような形に変わり、機体を一機背に乗せながら今までにないスピードで長距離を駆け抜ける事が出来る。
これが今現在取れる作戦のなかで、奇策と奇襲を同時に行える唯一の方法。
ミラージュボールで相手の目を奪い、想像の埒外にあるワンオフ機の性能を使った奇襲作戦。
激しい頭痛、しかしこれは最初から承知の上のこと。
目の奥から火花がスパークする。それでもまだ足りない。
もっと速く、もっと正確に、もっと、もっと、もっと!!
その時脳の奥深くに扉が開く感覚を覚えた。
『プレイヤーNO.7856、ハンドルネームRapisのシンクロ率95.21%を確認』
『遠距離 400オーバーを確認』
『中距離 300オーバーを確認』
『特殊 200オーバーを確認』
『【スナイパーモードⅡ】を確認』
『【集中Ⅲ】を確認』
『【シックスセンス】100オーバーを確認』
『特殊遠距離スキル【魔弾】発動条件オールクリアー』
『【魔弾】を発動します』
何かが開いた。そう思った瞬間先ほどまで襲っていた激しい鈍痛がまったく気にならなくなる。
逆に今までにないほどの集中力が高まり五つの画面を同時に認識し次々と敵機のことを捕らえていくスピードが跳ね上がる。
それだけではない、九〇〇〇メートルも離れている百機以上の機体の動きが手に取るように分かった。
なぜ? どうして? そんな疑問は全て後ろに放り投げる。
今考える事は、獲物を刈り取る事だけ。
「捉えた! 落ちなさい!!」
タイムラグの無くなった激しい射撃が『白銀騎士団』に降り注ぐ。
彼らの悪夢が始まる。
◆ ◆ ◆ ◆
ケイジロウは今回の事でかなり頭に来ていた。
やり方が気に入らない、リンちゃんに酷い仕打ちをした事が気に入らない。
人数を頼りにして威張り散らすような輩が気に入らない。
だけど、そんな事はもうどうでもよかった。
ただ楽しい。ラピスという最高の相棒と共に勝てるわけがないほどの数の差に迎い暴れまわる。
興奮のし過ぎでアドレナリンがドパドパと溢れているのが分かる。
敵の射線を敏感に感じ取り機体を左右に振り、時には回転させ、避ける。
距離九〇〇〇メートルは今乗っている新しい機体にとってたいした距離ではなかった。
「パージ!!」
言葉と同時にパージ用のボタンを叩きつける。
今まで一機の戦闘機の様に見せていたパーツ群が後方に置き去りになる。
現れたのは何処までも深く、その色以外全てを拒絶するような白。
口元にはマスクのような物が取り付けられ、目の部分は青く光るバイザー。尖った二本の短い角のような先端が後方に向かって延びているヘッド。
基本フレームは【スワーロゥ】と同じ作りだがそのボディの作りはまったく違う。
その全てが計算され洗礼された芸術品。
ただ速く、それだけを追い求めたシルエットは細くしなやかで、それなのに力強い。
機械で出来た野生の獣が宇宙という広大な草原を駆け抜ける。
背には四つの小型スラスターが同時に火を噴く。両肩と両脚に取り付けられた小型のスラスターが普通では考え付かない機動を実現する。
考えて動く事を許さない、本能で感じ取る為のピーキー過ぎる機体。
ラピスの機体を【ポリュデウケース】といい、ケイジロウの機体を【カストール】という。
双子座の由来となったギリシャ神話の双子の名前を冠する機体が『白銀騎士団』の戦列を縦横無尽に切り裂き破壊していく。
両の手に付けた【ウェルパジャマダハル】を【コンダードゥ】のコクピットから引き抜き次の獲物へと飛び掛る。
背についた特殊兵装の隠し腕が二本閃き、先端についたビームサーベルが敵機を捕らえ切り裂く。
合わせて四本の剣戟が敵機を突き、切り裂き、破壊していく。
一機撃墜していく度に深く沈みこんでいく、作られたデーターの宇宙に。
深く沈みこむ度に【カストール】のスペックが引き出され。そして入り込む、神の視点へと。
『特殊近接スキル【ヴィジョン】を発動します』




