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六月十三日午後五時。
【アリウム】のロビーには思った以上のプレイヤーが集まっていた。
そのうちの殆どが今回の騒ぎを見に来た野次馬で、『白銀騎士団』に煽られてこちらを敵視しているプレイヤーたちだ。
アレから調べて分かった事はほんの数時間でBMO関係の場所に件のSSと誹謗中傷の書き込みがされていた。
「おそらくこの一週間『白銀騎士団』が大人しかったのは、今回の為の用意を裏で進めていたからだろう」
水面下でホワイトファントムのアンチを増やし、一定数の人数が集まったので行動を起こしたというのがセイの予想だ。
このまま放置し、呼び出しに応じなければ白陣営の半数、千人を超えるプレイヤーと敵対する事になってしまう。
ロビーの中央には二人の『白銀騎士団』のエンブレムをつけたプレイヤーと、それに従う形で周りを包囲するプレイヤーたちに囲まれていた。
そこにケイジロウとラピスの二人が現れると、その場が騒然となる。
その殆どが二人の事を非難、中傷、バカにするような言葉を無造作に叩きつける行為だ。
ニヤニヤ笑いをしている二人のうち【ワイルディー】のプレイヤーが、両手で周りのプレイヤーたちを抑えるとピタリと喧騒が収まる。
示し合わせていたのだろう、自分が回りのプレイヤーたちを掌握しているのだと見せ付けたい為に。
「それで? あなた達はいったい何がしたいわけ?」
口を開き言葉を発しようとするより先にラピスの冷たい切り裂くような声に鼻白む。
何だその態度は、などと周りが騒ぎ出すが、ラピスは何処吹く風だ。
その態度に更にエキサイトするプレイヤーたちを宥めるのに、『白銀騎士団』の二人は五分ほどの時間必死にならなければいけなかった。
既に最初の余裕が見受けられない。
五百人以上の敵意に晒されていると言うのにまったく怯む様子の無いラピスに、さすがクイーンだとケイジロウは納得と感心をしてしまう。
「久しぶりですねラピスさん」
「……誰?」
勿論相手が誰かなど最初から分かっている、少しでも相手を動揺させれば良いと言う程度。
「カリスだ! 『白銀騎士団』マスターのカリスだ!!」
思った以上の効果が在った様だ。何がどうなればこんな小物が幅を利かせることになったんだろう。
「くそっ、そんな態度を取れるのも今のうちですよ、今日はあなた達二人に謝罪を要求する為に呼び出したんですよ」
用件の内容を喋るうちに落ち着いてきたようだ。おそらく自分たちが優位に立っていると思う事で余裕が出たのだろう。
「ふぅ、一応理由は聞いてあげるわ。どうして私たちが謝罪しなければいけないのかしら」
ニヤリと歪んだ笑みを見せながらカリスと滔々と語りだす。
前回の戦争イベントでヤラセをしたという事、惑星【メイオフ】で他陣営と組んで白陣営の機体を襲った事、そんな恥知らずな事をしていながら今だトップエースを名乗っている事。
「こんな事をされたら真面目にやっている僕達に迷惑がかかるんですよ、ですからここで僕達に謝罪をしてください、出なければ今後あなた達を裏切り者として制裁する事を誓います!」
カリスが語り終わると同時に回りのプレイヤーたちも賛同する声が次々と上がってくる。
要するにカリスたちに賛同する千名近くのプレイヤーたちでこちらに嫌がらせ等などをするという事だ。
ここまではセイが予想した通りになった、あとはこちらの返事を聞かせるだけだ。
「さあ! どうしますか!」
『謝罪! 謝罪! 謝罪! 謝罪! 謝罪! 謝罪! 謝罪!』
一斉に謝罪コールが巻き起こる、これだけの悪意にさらされれば普通の神経をしていたらとても耐え切れないだろう。
良く見れば手の先が小刻みに震えている、怖くないわけが無い、五百名の悪意を直接叩きつけられているのだから。
だが、我らが女王陛下は怯まない、傍らに騎士を侍らせ眼前の悪意に立ち向かう。
「黙りなさいっ有象無象!!」
決して大きくはないが不思議とこの騒音の中でもはっきりと声が伝わる。
まさかこんな場面でそんな言葉が出てくるとは思いもよらず、あっけに取られ謝罪コールがピタリと止まる。
その隙を逃さず素早く次の言葉を紡ぎだす。
「先ず一つ、先の戦争イベントでヤラセなんてしていない、アレは私とケイジロウのれっきとした実力でもぎ取った物よ! あなた達如きにヤラセだなんていわれる覚えは無いわ。それでもヤラセと言うのならきちんとした証拠を出しなさい!」
セイの予想では今回の騒動に参加したプレイヤーの殆どが妬みや嫉妬でこちらを悪者として扱いたいだけであり、なんの証拠もなしに騒ぐ事で喜んでいるだけ。
「二つ目、惑星【メイオフ】はフリーフィールドであって他陣営と共闘することが前提となっているフィールドよ、そこでマナーのなっていない小悪党を退治する事が悪い事だと思うわけ無いでしょう?」
惑星【メイオフ】はフリーフィールドであり基本リソースの奪い合いであり、他の陣営と共闘しようが自陣営のPtと争おうが自由である。
が、暗黙の了解というものがある、倒したNMのドロップ品だけ横から襲い奪うのは小悪党の所業であり、ゲーム云々の前に人として恥かしい行為だ。
「最後に私とケイジロウは別にトップエースを名乗ってなんか居ない、あなた達が勝手に騒いでいるだけ。よって私たちは謝罪なんてする気はない、それでも納得いかないならかかって来なさい返り討ちにしてあげるわ!!」
一瞬の静寂が襲い、次にざわめきがやって来る。
周りを囲んでいるプレイヤーたちは隣のプレイヤーと顔を見合わせたり、落ち着き無く目をさ迷わせる。それどころか端の方にいたプレイヤーは次々とその場から立ち去る物が出てきた。
これに慌てだしたのが『白銀騎士団』の二人だ、ここまで状況を作れば確実な勝利しかない。
そう思っていただけに簡単に状況をひっくり返されるとは思いも寄らなかった。
「ふっふざけるな、所詮ゲームだと思ってリアルで何かされる事も無いから強気に出てるだけだろう!」
未だに残っているプレイヤーたちもそれは確かにあるなどと言いはじめる。
「ふざけてんじゃねー! お前らだろうが、所詮ゲームだと思ってやりたい放題したのは! 耳の穴かっぽじって聞け、○▲県、鈴波市、私立出雲高等学校一年C組の前田慶次郎だ! 文句のある奴はかかってこいや!!」
その瞬間全員の顔が唖然とした表情で固まる。
まさかこんな所でリアルの情報を自分からばらすバカが居るとは……
「バカ……」
ラピスも掌を顔にあてて天上を仰ぎ見る。
「お前はどうなんだよ、言いだしっぺ! 何の覚悟も無いくせにいきってるんじゃねー!」
「なっなんなんだよお前ら、頭可笑しいよ、何でそんなことできるんだよ!」
顔を蒼白にしてまるで見た事もない生き物を見るような目をし、フラフラと後ろへ後ずさる。
これが勝負ならこちらの圧勝だ。
だけど、事はそれでは終わらなかった。
いつの間にか『白銀騎士団』の二人の横に禿頭に刺青を入れたプレイヤーが立っていた。
「少しいいか? 俺は『白銀騎士団』のサブマスター、ジェジって言うんだが、さっき言った戦争イベントでのヤラセの証拠は無いって言ったが、やってないっていう証拠もないわな」
「何が言いたいわけ?」
ニヤリとジェジが笑い、提案してくる。
「だったら白黒決めないか? ギルドウォーで」
「ギルドウォー?」
「そうだ、ギルド同士がが揉め事を起こした時に勝ち負けで決着をつけるためのシステムだ。こちらはメンバーのうち百五十名をだす、そっちは確か全員で十名だったよな。つまり百五十対十だ、別に逃げてもいいんだぜMAKEZUGIRAIさん?」
つまりその状態で結果を出せばヤラセではないという証明になるということか。
MAKEZUGIRAI、ラピスとケイジロウがイベントの時に使ったPTネーム。
お互い顔を見合わせ、そして楽しそうにニヤリと笑う。
「「上等!」」




