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Brain Marionette Online  作者: まるいもの
ステージⅡ
61/67

23~赤~

とりあえず迷いましたが投稿する事にしました。

激しい戦闘が目の前で展開されていく。

白い【スワーロゥ】縦横無尽に駆け回り、正確な射撃が【スワーロゥ】を的確にフォローする。

他の機体のプレイヤースキルはそれほどでもない、自分達『黒猫の尻尾』の方が数段上だろう。

しかし、あの二機がずば抜けている。


「何よあれ、凄すぎる……」


自分たちも戦闘に加わっていながら、それでも目が放せない。

激しく、荒々しい、野獣のような動きなのに、まるで一流のダンサーのダンスを見ているような錯覚に陥ってしまう。

自分では無理だ相手にならない。そうエリナは考え、だったらコウはどうなのだと思いコウの顔が映るディスプレイを盗み見る。

笑っている。

今まで見たこともないような楽しそうで、それでいて酷薄な印象を見るものに与える笑顔だった。

ゾクリとする。


「ん? どうしたんだいエリナ」


エリナの視線に気づきコウが不思議そうにエリナに笑いかける。

先ほどまでのゾッとした生々しい笑顔ではなく、今まで何度も見た笑顔……

何故か急にその笑顔が作り物めいて怖くなる。


「なっなんでもないわ、それよりアレがホワイトファントムなのかしら」


先ほど思った事を口に出す事で誤魔化す。


「そうだね、アレがホワイトファントムだ。少しは追いついたかな、と思ったんだけどね。まだまだ遠かったな」


そうしてまたあの笑顔を――いやそれよりも深く濃い笑みを浮かべる。まるでそこに求めて止まない物があるようなそんな笑みだ。

それから約十分ほど戦闘が続き、残り十機ほどになった時『白銀騎士団』は撤退を開始した。

どうやらホワイトファントムのPTは撤退を許す気がないらしく、半数の機体が追撃を開始する。


「だーー、何とかなったな。ドロップアイテムは回収出来たぞ」


アキラとミチェがドロップアイテムを回収してコウとエリナの居る場所に移動してくる。


「アキラ、頼みがあるんだ」

「ん? なんだコ……ウ」


アキラがコウの浮かべる笑みを見て、顔が引き締まる。


「――――――――――できるか?」

「だーーー、また最初から設計のやり直しかよ! いや、今のフレームを使って――――」

「それとできるだけ赤陣営のトップギルドと交渉がしたい」

「ああ、そっちだったら直ぐにでも出来る」

「頼む」

「分かった分かった、それじゃ俺はあちらさんにお礼を言いに行ってくるから先に船に戻っていてくれ。ミチェとエリナもそれでいいな」

「ええ、それじゃ先に戻らせてもらうわ」


そういってミチェとコウが移動アイテムを使い船へと移動する。しかし、エリナだけが動こうとしない。


「ん? どうしたんだエリナ」


エリナは迷っていた、コウのあのゾッとする笑顔が頭から離れない。

だけどそれをアキラに言っていい物か、言って何かが変わるのか分からない。

そう思っていると、アキラの方から話を振られる。


「それにしてもコウの奴、とうとう本気になっちまった」

「……どういうこと?」


まるで今まで本気じゃなかったような言い方だ。


「さっき見せたコウの顔、見たか?」


少し戸惑った後頷く。


「あの顔を見るのは俺も三年ぶりだ。コウ自身は自覚してないけどな、あの笑みを出した時あいつが本気になったときだ」

「今までは本気じゃなかったって事なの?」


少し悩み、


「この際だエリナには知っていて貰うか。どうもエリナはコウに嵌りすぎてるからな」

「んなっななな何言ってんのよ!」


またからかわれている。そう思ったがアキラの顔は真面目な表情を崩さない。

そして徐に語りだす。


「コウのあの顔を初めて見たのは三年ほど前、まだ小学六年の時の剣道大会の試合の後だった」


当時から何でも出来、天才だと周りからちやほやされていたあいつの事を俺は大嫌いだったな。

だけどコウの友人というポストは魅力があった、だから俺は長い事あいつの友人として付き合っていたんだ。

まっそんなことはコウも承知の上だったんだろうけどな、知っていて放置していたんだ。

そんなとき優勝は確実だろうと周りから思われていたコウを叩きのめした奴がいた。

確か前田慶次郎って名前だ。あの時は気分がスッキリしたから今でも覚えている。

相性が悪かったんだろう、前田って奴はそこまで強いわけじゃなかった。ただ、野生の動物みたいな奴だったなって記憶している。

それが小学五年の時の事だ。それからコウは今までより熱心に剣道の練習をするようになった。

周りはあの一度の敗北が天才に火をつけたと思ったらしい。

そして小学六年の剣道大会。

前田慶次郎と準決勝で再戦したんだ。結果は一本も取れずストレート負け。

俺はその時初めてコウの泣き顔が拝めれるんじゃと思ってあいつの顔をじっと見つめていたんだ。

だけどコウは笑っていた。楽しそうに、そして子供が欲しがっていた玩具を見つけたような笑いを。

それからの練習量は凄まじいの一言だ、知っているか? 過度な練習をすると血尿が出るんだぜ?

どばどばとそりゃ凄かった。


「そしてそんな一年が過ぎ、俺たちは中学生になって初めての大会が始まった。もちろん前田も参加していた」

「それで、どうなったの?」

「勿論完封勝利、三年間一度も掠りさえさせなかった」


ゾクリとする、今の話は何処にでもあるような努力をして勝てなかった相手に勝った。ただそれだけのはずなのに。


「それからだな、俺がコウのことを本当の友人になりたいと思ったのは、まっあいつからしたらどうでもいい事なんだろうけどな」


何か気に食わない。先ほどから気になる言い方だ。


「どういう事よ」

「コウにとって俺たちなんて本当はどうでもいいって事だよ。別段好きでも嫌いでもない、それどころか興味すらない。路傍の石ころだ。だからあいつは皆に優しく、平等なんだよ」

「何よ……それ……」


エリナの顔は蒼白になり、今にも崩れ落ちそうな表情をしている。


「あいつにとって周りの人間なんて殆どどうでもいいんだよ、ただそうした方が良いから皆に優しく接する。そして利用できるのなら利用はする。それだけだ」


嘘だ、そう思いたい。これはマスターの嘘なんだと信じたい。だけど見てしまった、あの笑みを。

ゾッとした、恐怖した、それ以上に魅了されてしまった。

ただ笑んでいただけなのに。


「何で、そんな事言うのよ」


知らなければ今までと同じように居られたのに。


「前にも同じ事があったんだよ、コウに嵌りすぎて色々滅茶苦茶になっちまった奴がな」


何よそれ、私のためだって言いたいの?


「ならマスターは何故一緒に居るのよ」


ニヤリとアキラが笑う、それは悪魔に魅入られた人の笑み。


「楽しいから。コウが本気になればどんな事が出来るのか見てみたくなる。コウの本性は人でなしだと俺は思っている」


それで話は終わり、アキラは白陣営のこの場に残った人へお礼を言いに離れる。


「何よ、それ……今までのことが全部演技だったとでも言うの?」


違う、演技なんかじゃない。ただ、そうした方が良いからそういう行動をしただけ。

考えてみれば出来すぎだ。何でも出来て、優しく、平等で、人に嫌われる要素が今までまったく見られなかった。

最初の出会いだって、マスターが無理を言っただけでコウ自身が行動していればもっとすんなり事は運んだかもしれない。

騙してなんか居ない、騙す必要もない。私たちはただの路傍の石。


「ふざ……けるなっ!」


カッと胸の奥が熱くなる。今までの気持ちが全てひっくり返った感じだ。


「興味がない? 路傍の石ころ? 絶対に見返してやる!」





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