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『ははははっそろそろ止めを刺してやれ。これ以上苛めるのは可哀想だ』
四方八方から攻め立てられた『黒猫の尻尾』メンバーが一機、また一機と数を減らしていく。
残りはあと四機、それに比べこちらの被害は一機のみ。
このまま予定通り全滅させ、落ちているドロップアイテムを回収する事が出来るだろう。
そう、意外な乱入者が居なければ。
『リーダー! 南南西の方角から凄い勢いで何かが迫ってくる!』
探索系BM【エアリエル】に乗った警戒兵から要領のよく分からない報告が入る。
『何かじゃ分からない、もっと詳しく報告をくれ』
『確認してる暇なんかねーよ! もうそこまで来てる!』
え? と呟きほんの三百メートルほど離れた自陣のど真ん中に真っ白なカラーリングを施した【スワーロゥ】が突撃してきたのを見て固まる。
【スワーロゥ】? なら味方じゃないのか? と言うかあのシルエットってホワイトファントムの真似なんじゃ? なぜ攻撃を受けているんだ!?
次々と浮かび上がってくる疑問に答えを出す事が出来ず、数秒間思考が止まってしまう。
その間に次々と【スワーロゥ】に味方が撃墜されていく。
いや、それだけじゃない。何処からか正確無比な射撃が【スワーロゥ】の周囲に叩き込まれ、相乗効果でも起こしているのかその破壊力は圧倒的だった。
『ちょっと待てちょっと待て、なんなんだいったい。こっちは白陣営だぞ! なぜ味方から攻撃を受けているんだ!』
訳が分からず取り乱すリーダーに、もう一つ報告が入る。
『同じ方向から更に十機ほどの機体がこっちに攻めて来てるぞ! リーダー何とかしてくれ!』
見れば報告通り十機ほどのBMがこちらに攻撃を加えながら突き進んでくるのが見える。
ちくしょー、一体何者だよ!
そうしてよく見てみると、そのうちの一機が自分とフレンド登録している機体だということに気がつく。
レーダーにフレンドマークが付いているマーカーが、ここから六キロ離れた場所から遠距離射撃を繰り返している機体に付いていた。
Lapisと。
何を考えているのか分からないが、フレンドTELで通信が繋がるはず、何か勘違いがあったのか知らないがここで貸しを作れるかもしれない。
『待ってくれラピスさん、僕だ、カリスです。攻撃をやめてください!』
ケイジロウが一番機体が密集している場所へと降り立つ。相変わらず何処を最初に叩けばいいのかを本能のような物で嗅ぎ取り実践するのが旨い。
素早くケイジロウに反撃しようとしている機体のうち、ケイジロウの攻撃範囲から外れている物を見分けてラピスが狙い撃つ。
相手はいきなりの事で混乱しているようだ。
順調に数を減らしていき、ジャックたちも今戦場へと突入を開始した。
五倍の戦力差がある、奇襲で得たアドバンテージを何処まで旨く使いこなすかが勝負の肝だ。
そう考え、淡々と狙いを定め撃ち続けているとフレンドTELで通信が入る。
『待ってくれラピスさん、僕だ、カリスです。攻撃をやめてください』
カリス? ……だめ、思い出せない。まぁそれはいい、それより話し合いで治めれるならそちらの方がいいかも?
「先にあなたたちが赤陣営にしている攻撃を辞めなさい。そしたらこちらも退くわ」
こちらの目的は赤陣営への横取り行為を防ぐ事、これで向こうが退くならそれでいい。
しかし、返ってきた言葉はまったく思ってもいなかったことだ。
『何故です? もしかしてラピスさんの知り合いですか?』
「違うわ、ただ貴方たちのやり方が許容出来ないだけよ」
『許容できない? 何が許容出来ないんですか? それが分かりません』
本気で言っているの?
「貴方たちは人が仕留めた獲物を横取りしようとしているでしょう? 幾ら相手が他陣営だからってマナー違反よ!」
『何を言っているんですかラピスさん、別に僕たちはルール違反を犯している訳じゃありませんよ。マナー違反に入ると言うなら運営がちゃんと取り締まるはずです。だから僕たちのやっている事は間違っていない、横取りされる奴らが間抜けなだけじゃないですか』
ああ、これは駄目だ、価値観が違うとかそういう物じゃない。
絶対に相容れない種類の人間だ。カリス、思い出した。初めて会ったときから何故か理由も無く嫌いだった奴。
今回は間違いなくケイジロウが正しい、こんな奴らは同じ空間に居るだけで我慢できない。
「貴方の言っている事は家の中にお金置いて出かけるのが悪い、だから盗んだんだと平気でそう嘯くこそ泥の言っている事と同じよ。そういうのを盗人猛々しいって言うのよ!」
距離六八〇〇メートル。【スナイパーモードⅢ】発動【集中Ⅲ】発動!
目標、数機の護衛らしき機体に囲まれている屑!
何か喚いているようだけど、段々とそんな物は聞こえなくなる。
早川流弓術の極意に止水となれと言う言葉がある。一切の波紋を立てず、何処までも静かに、射る。
三連射、一撃ごとに跳ね上がる銃身を素早く固定。針の穴のような、距離六八〇〇メートルにある護衛の穴を一撃も外すことなく通す。
コクピットに突き刺さった三つのビームがカリスの乗る【コンダードゥ】を破壊する。
「皆! こいつらは全員ろくでなしよ! 殲滅しなさい!!」
ラピスの声には逆らいがたい圧力のような物があり、皆自然と従ってしまう。
「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」
何時の間にか塹壕から飛び出していた赤陣営の機体四機を加え、『白銀騎士団』殲滅戦が始まった。




