05
ピピピッピピピッピピピッと目覚ましが眠気をノックアウトしてくれる。憎い奴め。
午前五時半、いつもどおりの時間、私は布団から起き上がり早朝稽古の支度をする。
白の胴着に黒の袴姿で渡り廊下を進み離れの弓道場へ。
「おはようございます、お祖母様」
「おはよう、瑠璃さん……それでは今日の稽古始めます、先ずは……」
早川家の朝は早い、早朝六時から七時まで毎朝弓術の稽古がある。
『早川流弓術』のお家元……といえばそれらしく聞こえるが、とある田舎の県のさらに田舎町にある土地の名士なだけ。
ようするに古臭いのだ。いまや仮想世界に一般の人間が自由に行き来できるという時代なのに、わが家ときたら。
名士であるというのが逆に災いして、外でも家でも猫を被らなければいけない。十五年の人生で私は十匹ほどは猫を被ることができるようになったよ?
しかし、それももう少しの我慢。わが父上様が今度○▲県に転勤となるのだ。
お母さんが死んですでに五年、お父さん一人では心配なので私も一緒に行きますと、祖母の説得をすること二週間。何とか説き伏せる事に成功しました。
速く来ないかな~。
シャワーを浴びて汗を流し食卓につく。祖母、叔父さんに叔母さん、従兄弟の渉兄さん、お父さんと私の七人で朝餉を取る。
今日も、ナスとキュウリ、みぶなのお漬物に山菜の味噌汁。里芋の煮っころがしに筍の甘辛煮。
お肉が、お肉が恋しい……
「そういえば孝道さん、あと三週間ほどで○▲県に行くのでしたね?」
「ええ、そうです母さん」
「寂しくなりますね……瑠璃さん、あちらにいっても精進をわすれてはいけませんよ?」
「はい、もちろんですお祖母様」
それからは和やかだが肩の凝る食事が皆が食べ終わるまで続くのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
GW三日目、それはBOMを始めて三日目になるということだ。午後三時になった。
お父さんがコネで手に入れてくれた、頭に装着し視界をすっぽりと覆うヘッドマウントディスプレイ、HMDを被り仮想世界へと落ちる。
窮屈な生活からくるストレスを発散する為に始めたBMOのはずがあの男のせいで……
今日はあの憎たらしい男をキャインと鳴かせなければいけない。昨日は悔しくて殆ど眠れなかったのだ。
あーっ思い出しただけでも腹立たしい!
そして私こと早川瑠璃は、BMOの世界へ、エルフィン族のラピスへと変わる。
◆ ◆ ◆ ◆
―――【Loading】―――
すとんと落ちる感じがしてBMOの世界へ降りる。
昨日落ちた場所と同じシミュレータールームだ。時間は三時十分、まだ人は殆どいない。
さて、あの男は……いた、隣のシミュレーター前でヤンキー座りというものをしている。
ガラわるぅ。
「ちょっとあんた、ガラ悪いわよやめなさい」
きょとんとした顔でこちらを見ている、もしかして自覚ないのかこの男は。
「その座り方、物凄くわる目立ちしてるって言ってんのよ」
「まじか? そういやさっきから遠巻きに見られてた気がしたんだ」
うん、きまった頭悪い。
「まぁ別にいいか、それより昨日はよく眠れたか?」
ぷくーと血管が浮く。ゲームの中でなかったら数本は切れていたかもしれない。
「ふっふふふ、ふふふふ上等よ、今度はあんたが眠れない夜をすごしなさい!」
「返り討ちにしてやる!」
何故こうなったか分からない、おそらく相性が抜群に悪いのだろう。暫くにらみ合ってからお互い顔を背ける。
「「ふんっ」」
シミュレーターのハッチを空けて中に入る。先ずはステージⅢを素早く攻略しないと。
IDカードをスロットにいれてステージⅢを選ぶ。
『ステージⅢを始めます』
スフィアビューが砂漠を映し出す。昨日はどうしても六機同時に【バンダス】に襲われてクリアーすることができなかった。
精神を集中する、詳しい技術は分からない。だけど、この世界と私は電子的に繋がっているはず。感じろ、そして撃て!
【集中】スキル発動
システムの補佐も合わさって今できる最高の集中力。左の砂の中から飛び出した【バンダス】のコクピットにエネルギーライフルを打ち込む。お約束のスパークからの爆発、先ずは一機。
コクピットはあたればクリティカル判定だ、【バンダス】だと一撃で粉砕できる。
さらに二機の【バンダス】が砂の中から飛び出してくる。私はスラスターでバックしつつエネルギーライフルで迎撃する。
一機はコクピットに直撃、爆破四散する。もう一機は肩にあたっただけ。よろけながらバズーカーを撃つ、弾が足元で弾け跳んだ。
さらに三機が遠間から接近、体勢を立て直しエネルギーライフルをコクピットに撃ち込む。これで三機目、残りの三機はあと五00メートル。
バズーカーを撃ちながら蛇行しつつ接近してくる。高めた集中力を発揮させ三機中二機を撃破。残り一機に肉薄される。
ここで格闘武器を使われればアウトだけど、バズーカーしか撃ってこないのだから余裕を持って迎え撃つ。
狙いを定めてエネルギーライフルを撃つ! ラスト一機もコクピットに命中。
うん、やっぱり私は近接、近距離武器はいらない。近づかれる前に落とす、これを磨くべきね。
これでステージⅢはクリアー、一度外にでる。すると隣も丁度終わったらしくまた顔を合わすことになった。
ヘルメットを脱ぎにんまりと笑う。「むっ」という声をのこしてまたシミュレーターにはいった。
ふふふっどうやら追いついたようだ。このままの勢いで追い抜いてみせるわ!
それから数時間、二人ともステージⅥまで進み午後九時になった、決着は明日に持ち越しだ。
「明日、来なさいよ」
「そっちこそ逃げるなよ」
「「ふんっ」」
GW四日目。午後三時いつものようにBMOの世界へ。
今日は普通に立って待っていた。どうも結構義理堅いらしい。
睨みあったあとどちらも無言でシミュレーターに潜り込む。今日で決着をつけてあげる。
『ステージⅥを始めます』
ステージⅥは森林ステージだ。全高十五メートル近くあるBMの二倍はある巨大な木でできた森は、かなりの見ごたえがある。
ピピッという電子音、レーダーに赤いマーカーが出現。このレーダー範囲は二000メートルはある。
ピピッピピッピピッ。
どんどん赤いマーカーが増える。右から左から囲むように現れる敵機を順番にそして素早く倒すしかない。
このステージから【バンダス】は、バズーカーだけでなくヒートロッドまで使ってくる。
近接戦戦に持ち込まれたらそこでアウト、何とかそれまでに倒さないと。
次々と現れる敵機を半数まで倒す事ができたが、そこからバズーカーとヒートロッドを使い分けられあえなく大破。 GAME OVER
「あーんもうっ、こんなの無理!」
もうかなりの時間を費やしている。シートに体全体を預けてだらしなく力を抜く。
「あー頭痛い、もう九時前? うぅぅ」
仕方なしにシミュレーションから出る。すると隣からシュッとハッチの開く音。
ステージ数はⅥ、あっちも同じとこで躓いているのが救いか……
「だーなんだこれ、本当にクリアできるのか?」
随分ストレスがたまってるみたい、人事じゃないんだけどね。
「そっちもステージⅥで止まってんだな」
「そうね、半数しか倒せてないわ」
「こっちもだ」
あら以外、少しはサバをよむかと思ったんだけど。
明日でGWも終わっちゃう、また学校で猫を被らなきゃいけないのにこんな中途半端じゃやってられないわね……
「ねぇ、こうなったら直接対戦して決着をつけない?」
「直接? そんな事ができるのか?」
「あんた少しは説明とか読みなさいよ……」
まったく、呆れてしまう。
「いい? シミュレーターにはいってリストオープンって言うといくつかのリストが出てくるわ、そこで対戦を選んで時間と五桁のパスワードを入れると、同じように時間とパスワードを入れた相手と対戦できるの」
「へー、詳しいんだな」
「普通これぐらい調べるわよ、それで? 対戦受けるの? それとも尻尾を巻いて逃げる?」
「上等だぁ、ぎったんぎたんにしてやるよ」
「ふふん、プチっと潰してあげる」
がるると暫くにらみ合っているとログアウトを促すメッセージが。
「明日、少し用事があるから午後五時にここで」
「ああ、俺はかまわねぇ。首洗って待ってろ」
「冗談、悔し涙をプレゼントしてあげる」
「「ふんっ」」
そして、今日はここでログアウト。なんだかんだいってそれなりに楽しいかもしれない。




