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時間は一時間ほど遡る。
青陣営の襲撃を追い返し、第三降下ポイントはお祭り騒ぎになっていて、彼方此方で勝利の喝采に沸いていた。
ケイジロウの機体は随分とダメージを負っていて、激戦だった事を物語っている。再出撃するには二十分ほどの修理時間が必要で、今ようやく再出撃が出来るようになった。
「待たせた」
ケイジロウが皆の元に移動すると、なんだか妙な雰囲気になっている。
「何だ? 何かあったのか?」
どうもラピスがかなり不機嫌になっているようだ。
「あっ、にーちゃんお帰りー」
「お帰りなさいケイジロウさん」
スフィアビューの画面上には九つのディスプレイが表示されていて、そのうちの一つ、ラピスのディスプレイにはブスッとした顔が映し出されていた。
ケイジロウが、はて? と首を捻っていると、相変わらず空気の読まないお子様が余計な事を言う。
「凄いよにーちゃん、ラピスねーちゃんまた二つ名が付いたんだよ! 今度はブラッディ・クイーンだって」
「ピスカ!」
慌ててピスカを窘めるが間に合わず、間に合ったとしてもその内ばれるのだが。
ブラッディ・クイーン? と首を捻り。
「血まみれ女王? ……ぶははははははっなにそれぴったしじゃねーか!! ぶはははっはちょっやめっ悪かった、だから撃つな!」
その後五分ほどケイジロウとピスカはラピスにお仕置をされたのは言うまでもない事実だった。
「さて、いきなりの青陣営の襲撃に時間を取られたね。ケイジロウ君の友人はもう大分待っているんじゃないかな?」
そういえば、タクたちのことはすっかり頭になかった。
「あー、大分待たせてるなー」
「でも長谷部君ってたしか【ヴァルハラ】に所属してるって聞いたわよ? 今回の襲撃を知らなかったのかしら」
そういえばタクも瑞樹も青のトップギルド【ヴァルハラ】に所属してるって前に聞いた事があるな。
「兎に角行ってみないか? 長谷部や甘和さんも待ってるだろうし」
「だな、それじゃ行こうぜ」
ケイジロウの言葉を合図に移動を開始する。
待ち合わせのポイントは少々離れた場所でここからは大体二十分ほどの、パラサイトが来ない安全地帯の一つらしい。
ケイジロウ、ジャックを先頭にし、左をピスカとルイが、右をダスクとキョウジが固め、真ん中にラピス、マーナ、セイ、シーナが固まり、三角形の形を作り進んでいく。
マーナの操る偵察型のドールを先行させ、なるべく敵は避け、どうしてもぶつかる敵だけを倒していく。
そうこうしていると丁度二十分ほどで目的地が見えてきた。
安全地帯と思われる場所に青陣営のBM二機が見える。
ケイジロウが手を振って見せると、あちらも気づいたようで共通通信で返答が帰ってきた。
『ケイジロウ? やっほー』
ぶんぶんと【タートル】が大げさに手を振り回す。
「悪い、待たせた」
『遅かったね、何かあったの?』
どうやらタクたちは青陣営の襲撃事件のことを知らないようだ。ケイジロウが説明すると。
『うーん、多分強硬派が情報漏れを恐れて情報を規制したのかも。僕なんかは赤陣営とかにも知り合いが多いし』
「なるほど、やっぱり人数が多くなればなるほど纏まるのは難しくなるんだね。私はセイ、ケイジロウ君たちとは少し縁があって一緒に行動させてもらっている者だよ」
『こんにちわー、【ヴァルハラ】でサブマスターしてるタクっていいますよろしくー』
『ミズキです、よろしくお願いします』
セイの挨拶が呼び水となって全員の自己紹介がスムーズに進む。
「よっしゃー、それじゃさ早速NM退治にいかね?」
「だな、やっぱりMMOをするならPTでNM退治だな!」
「おおっし、やるぞー!」
キョウジ、ジャック、ケイジロウの脳筋トリオがはしゃぎだす。
『それならさー、さっき赤陣営の知り合いに会ったんだけど【ピュトン】てNMとやりあってる筈だから見に行かない?』
「ああ、それはいいね。参考に出来るならありがたい」
タクの提案にセイが賛同する。他のメンバーも特に反対意見はないようだ。
『それじゃ見に行こうかー、こっちだよ付いてきて』
タクの【タートル】に先導され十分ほど移動した先に、赤陣営と思われるBM八機と亀のようなNMが戦っているのが遠目に見えてきた。
「BMは豆粒みたいに小さいのに亀の方はなかなか大きいのねー」
「そうね、ここからだと十キロほど離れてるかしら」
シーナの呟きにラピスが大体の距離を測る。
「あっ亀が崩れていきますよ!」
マーナの声に皆がそちらへと注目する。
「あーあ、せっかく見に来たのにもう終わりじゃん」
「参考にならないねー」
『うーん、間に合わなかったね。まぁ【ピュトン】の倒し方なら知ってるからまた後で来ようよ』
そうだな、と誰ともなく呟き移動をしようとした時異変は起こった。
「待ってください、何か変です!」
マーナの静止に移動しようとしていた面々が何事かと振り返る。
すると先ほどまで【ピュトン】と戦っていた赤陣営の機体が白陣営の機体に囲まれている所だった。
「おいおい、なんだよアレさっきまで居なかったよな?」
キョウジが驚きマーナに確認する。
「はっはい、さっきまでレーダーにも映っていませんでした。いきなり現れたんです」
どういうことだ?いきなり現れただなんて。
「……赤陣営の機体が攻撃を受けているぞ」
「青陣営の襲撃の時にも言ったが、最近白陣営の一部のが行っている横取りや待ち伏せのマナー違反を繰り返して悪評が立っているギルド『白銀の騎士団』だ。おそらく今回はログアウト、ログインの穴を利用した待ち伏せだろう」
青陣営の襲撃の原因でもあるギルド『白銀騎士団』の行為に皆義憤は覚えるが、かといって迂闊に手を出す事は躊躇われる。
「んなもん助けに行くに決まってるだろ!」
その中でケイジロウだけがいち早く答えを出す。
「まっ待つんだケイジロウ君、相手は同じ白陣営の、しかもメンバー三百人は居る『白銀騎士団』だ、ここで勝てたとしても後々めんどくさい事になるぞ!」
「知るか!!」
「んなっ」
セイの言う事は尤もだ、狙われているのは敵である赤陣営。狙っているのは味方であるはずの白陣営、しかもその中でも最大数を誇るギルドの一員たちだ。
確かに後々何かされるかもしれない。しかし、そんなことはケイジロウの知った事ではない。
人の努力を踏みにじるような事をする奴が許せない。ただそれだけ。
「行くぞ!」
その一言だけ残しペダルをフルスロット、最大速度で『白銀騎士団』のど真ん中へと狙いを定める。
「はぁ……しょうがないわね」
「ですね」
「よーし、いくぞー!」
「ラピスさんお供します!」
ラピスがマーナがピスカがジャックが、ケイジロウの後に続く。
「きっ君たちまで!」
セイの咎める声が聞こえる。それにラピスが応える。
「ごめんなさい、でもあのバカはきっとリアルで同じ事が起こっても今と同じようにする奴なの。だったら、こんなゲームの世界だけでもあのバカに付き合うのも悪くないと思うのよ」
そう言ったラピス顔は楽しそうに笑んでいた。
『僕らも行こう』
『うん!』
それにタクとミズキが続く。
「どうするのセイ? 私たちはセイの決めた事なら従うわ」
シーナの言葉に【トライデント】の他の面々も頷く。
それを見てセイはため息を一つ付き。
「はぁ……君たちの顔も一緒に行きたいって書いてあるよ。こうなったらやけだ、たまには何も考えずに行くのも悪くない」
その言葉に皆の顔に喜びが浮かぶ。
「よしっ、私たち【トライデント】も行こう!」
「「「「応!」」」」




