20~赤~
「ブレスが来るぞ! 全員防御体勢を取れ!!」
アキラの指示に従い雪で作った塹壕に潜り込む。
巨大な亀のNM【ピュトン】の広範囲攻撃ブリザードブレスが当たり一面に撒き散らされる。
【ピュトン】の攻撃はブレスと雑魚召喚の二種類しかなく、あとはダメージによって甲羅の中に潜り込み核を守る障壁の耐久値を回復させる事しかしてこない。
動かないので楽に倒せると思われがちだが、時間が経つにつれ雑魚の召還数が増えていき、今ではブレス攻撃が来るまでに倒しきれるかどうかギリギリになっていた。
「ちくしょー、まーた増えやがった!」
「文句言わないの! ダンゴ虫が六、スライムが八、バードが六よ!」
ミチェが素早く沸いた雑魚の種類と数を報告する。
「コウ、レイ、バードを頼む。トカゲ、エリナがダンゴ虫を抑えててくれ! クマさん、ミチェ、スライムを処理するぞ!」
「「「「「「了解!」」」」」」
空を飛んでいるバードタイプはパペットを使いこなしているコウとアレックスの次に射撃が得意なレイが相手取り、ダンゴ虫は近接のトカゲ、近距離のエリナが押さえ込む。
その間にアキラとミチェ、クマさんがスライムを殲滅する。
そしてアレックスが【ピュトン】の核の障壁を削る。
この繰り返しがすでに三十分ほど続いており、皆の精神力は限界近くまで来ていた。
「ちょっとまだなの!? そろそろ弾も残り少ないわよ!」
ある程度の弾丸や推進剤、ビームライフルのエネルギーなどはイベントリにアイテムとして入れることが出来るが、無限に持てる訳でもない。
三十分間戦い続ければ弾薬などもそろそろ尽きる頃だ。
「分かってる! あと少しがんばってくれ!」
アレックスの方もすでにギリギリ一杯になっている。【ピュトン】の頭部についている的は小さく、しかもランダムに顔が動くので簡単には当てれない。かなりの集中力がいるはずだ。
「スパークは走ってるんだ。あと少し、このっ! いい加減死んでくれ!!」
更に召喚される雑魚パラサイト。今だ先に召喚されたパラサイトを殲滅しきれていない。
「だぁぁっ、やっぱり【クイーン】を八人で倒すのは無茶じゃないのか!?」
「くそー、俺の考えが甘かったか? いや、がんばれ皆もう少しのはずだ!」
弱音を押さえ込みアキラが皆を叱咤する。
「アキラ! もうこの数を捌くのは無理だ。無茶でもいいから遠距離武器を持っている機体は核を狙った方がいい! このままジリ貧になってやられるよりはマシだ!」
コウの言う事も一理ある、すでに対処できるキャパシティは超えている。なら賭けに出るしかない!
「分かった、クマさん一斉射でパラサイトを足止めしてくれ! トカゲとエリナは残ったパラサイトを抑えてくれ。他は核を狙って撃て!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
クマさんのミサイル一斉射が放たれる。激しい爆音と破砕音が響き、パラサイトたちを爆発と爆風が蹂躙する。
生き残ったパラサイトにトカゲが突撃し、エリナが援護する。
残りの五人が【ピュトン】の核を狙い撃ち続ける。そして!
「いい加減に落ちろっての!!」
アレックスのスキル【トリプルショット】が障壁を破砕し、核に痛烈な一撃を叩き込んだ!
『GOOOOOOOOOOOOOO!!』
二度、三度と前足で地面を激しく叩き、そして【ピュトン】の巨大な体は全身をひび割れたガラスのように亀裂が走り、そして粉々になって地面へと消えていった。
「よっしゃー、みたみた? 今の俺が止め刺したんだぜ?」
「おう、みてたぞ。アレックスにしてはよくやったな。がははははっ」
「よーし、これで先ずは一つ目だな。甲羅は確実に出るからあとはなにかユニークさえ出れば――」
アキラの声をミチェの緊迫した声が遮る。
「ッ!! 皆! 周りを白陣営の機体が囲んでいるわ! 数は十、十五、二十、だめっどんどん増えていく、どうなっているの!?」
まるでワープでもしてきたかのように忽然と白陣営の機体群が辺りに展開していく。
数にして約五十機もの機体に囲まれていた。
「ちょっと、これどういうこと? 何か移動系アイテムで出たの!?」
「違う! これは移動してきたんじゃない、最初からここでログアウトして落ちてタイミングを見計らってログインしてきたんだ!」
コウの言葉に全員の息を呑む音が聞こえる。
「おいおいおい、こいつらもしかして」
「チィッ、エンブレムを見ろ! 『白銀騎士団』のくそったれどもだ!」
『白銀騎士団』、アイテムの横取りや特定のプレイヤーを執拗に狙ったりする悪質なギルド集団。
『あーあー、こちらは『白銀騎士団』である。君たちは包囲されている。大人しく降伏し、アイテムを放棄したまえ』
リーダー格らしきプレイヤーの勝ち誇った声が共通通信で送られる。
まるで目の前ににやけ面が浮かんでくるぐらい分かりやすい声と態度だ。
「ふっざけんじゃない! 誰がお前達なんかに降伏なんかするか!!」
アキラの切れ気味の声を聞いても相手は何も揺るがない。五倍以上の戦力差が相手を強気にさせている。
それは決して相手の勘違いではなく、『黒猫の尻尾』はいきなりの窮地に立たされていた。
『そっ、それじゃ死んどけば? はい、皆攻撃開始ー。ちゃっちゃと終わらせようぜ』
バカにしたような物言い、それだけに悔しさも倍増する。
「くそっ! 皆塹壕に潜れ!」
すかさず行動を開始する。少数精鋭を歌うだけあって『黒猫の尻尾』メンバーのプレイヤースキルは高い。
無駄なく塹壕へと潜り込み、散発ながら反撃を試みる。
しかし、数の差はいかんともし難い。徐々に塹壕自体が削られていき、既に勝敗は決していた。
「くそがぁぁぁ!」
吼え声を上げトカゲが塹壕から飛び出し、敵リーダーが居ると思わしき場所に突撃を敢行する。
「待てトカゲ! 無理だ!!」
アキラの静止も耳に入らず、【シックスセンス】を発動させ突破を試みる。が、百メートルほど進んだ所で無常にもトカゲの機体は幾重の閃光が突き刺さり、爆発四散した。
「「「「トカゲ!」」」」
『あははははっなにあれ無様ー』
敵リーダーからバカにした笑いが漏れる。
「ちくしょう!」
「くっ、このままでも結果は同じだ。アキラ、アイテムは諦めようその代わり一矢報いよう」
アキラが全員の顔を見回す。ディスプレイに映っているどの顔も嬲られるより玉砕を選んでいるようだ。
「分かった、せめて敵リーダーだけでも討ち取るぞ!」
「「「「「応!」」」」」
全員が覚悟を決め、塹壕から飛び出そうとしたとき。
「ッ! 後方からプレイヤーが十機ほど、陣営は白!」
「くそっ、まだ増えるのかよ!!」
ミチェの報告を聞き、相手の用意周到さに歯噛みする。
「だとしても、やる事は変わらない。皆行こう!」
コウの言葉に全員が頷く。そして塹壕から飛び出し――その真上を白い機体が猛スピードで抜き去って行った。『白銀騎士団』のど真ん中へと。
「なっんだ……?」
そのまま白い機体が『白銀騎士団』を襲いだした。
その動きは荒々しく、激しい。そしてコウの目を釘付けにしてやまなかった。
『こちらタクマ、アキラ聞こえるか? これから援護を開始する。僕たちは味方だよ!』




