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『はあぁぁぁぁっ!』
少女の気合とともに拳型のエネルギー弾が辺りに撒き散らされる。
一発の威力は低く、射程も精精十メートルほど。しかし、まるでマシンガンのような連射が円を作るように降り注ぐ。
「チッ!」
拳の弾幕を大きく回避し回りこむにももう一機がそれを阻止する。
『行かさないよ!』
三十メートルのビームサーベル(大太刀)を舞うように振り回しケイジロウを追い詰めていく。
攻守ともにバランスが取れている上、二機の息がぴったり合っている。
しかし、それでもケイジロウのことを捉える事が出来ない。機動力が段違いな上ケイジロウの鋭い戦闘勘がここぞという時に発揮され手痛い反撃を繰り出すからだ。
『チクショウ! あたいたちが二人がかりで倒せないだなんて!』
『この人速いだけじゃないよ! 攻撃が鋭く正確だよ!』
一進一退の攻防が続く、先に焦れたのは【シャチ】だ。
『この野郎!』
『! だめっアキちゃん!』
不用意な攻撃、今までの牽制を交えた技術ある物でなく、焦りとイラツキから出たハイキック。
「ここっ!」
ケイジロウはその蹴りをしゃがんでかわし、体勢の崩れた【シャチ】へ必殺の一撃を繰り出す。
大太刀使いの援護は間に合わない、激しいスパークを迸ながら【シャチ】のコクピットをビームソードがガリガリ削る。
『きゃあぁぁ!』
『アキちゃん!』
タイミング、威力、共にベストな一撃。それでも【シャチ】はまだ健在だった。
「かっ硬い!」
大太刀が襲い掛かる、素早く機体を翻し避ける。
大太刀使いの機体は機動力こそないが、こちらのスピードに対応するだけの敏捷性は備えていた。
『やぁぁっ!』
振り下ろし、なぎ払い、突く。あらゆる剣戟がその長大な武器から放たれる。
「やるなっ!」
半身で避け、しゃがんでかわし、紙一重で突きを避け、懐に潜り込む。
「らぁぁぁぁっ!」
相手の倍以上はある敏捷性を活かしラッシュを仕掛ける。
二振りで両手を跳ね上げもう二振りでコクピットを切り刻む。更に追い討ちを掛けるが咄嗟に戻した大太刀によって残りの斬撃は防がれる。
『こんのファック野郎!!』
【シャチ】が捨て身になって突撃してくる。それに合わせて大太刀使いも攻勢に出た。
咄嗟に右手のビームソードで【シャチ】のヘッドを貫くが、右足を拳で砕かれる。更に左手で防いだ大太刀はそのまま押し切られ腕が吹き飛んだ!
『へっざまぁ見やがれ!』
そのまま耐久値の限界を突破し【シャチ】が轟音と共に爆発する。
『アキちゃぁぁぁぁぁぁん!!』
大太刀使いがまるで戦友が死んだような悲痛な声で叫ぶ。
『よくもアキちゃんを殺ったな! 許さない!!』
先ほどよりも更に鋭くなった斬撃が大太刀から振るわれる。
ケイジロウもそれに立ち止まって応える。
一合、二合、三合、大太刀を弾き、逸らし、避ける。
大太刀の威力は既存の近接戦武器を大きく逸脱している、まともに食らえば一撃でアウトだ。
しかし大太刀使いもすでにコクピットの耐久値は限界近い。
お互いあと一撃で勝負が決まるということを感じ取る。
『やぁぁぁぁぁっ!!』
「うぉぉぉぉぉっ!!」
大太刀使いの上段の構えから繰り出される打ち降ろしの一撃!
スラスター全開で懐に潜り込む!
大太刀使いの手首部分が機械的に回転し、大太刀の刃が縦から横へと一瞬で変わる。
「ッ! このぉぉぉぉ!」
スラスターを下に向け地面を蹴り付け飛び上がる。
一閃! 両脚が切り裂かれ吹き飛んでいく。機体は……上空百メートルほどまで上に!
「これで終わりだ!」
大太刀使いの真上、急直下を敢行。相手を見失っていた大太刀使いは弾かれたように上を向く。
跳ね上がる大太刀!
一瞬早くケイジロウのビームソードが大太刀使いの機体に突き刺さる。
『ひゃぁぁぁぁぁ!』
大太刀使いの機体が爆発炎上する。ついにワルキューレの三姉妹を全員討ち取った。
その瞬間白陣営から歓声が沸き起こり、青陣営に動揺が走る。
「今だ! 反撃! 反撃ぃぃぃぃ!!」
【イージスの盾】ギルドマスターの裏返った声が辺りに響く。そして、今まで押しに押されていた白陣営の反攻が始まった。
戦況はまだまだ白陣営のほうが不利だ。しかし、大将格だったワルキューレの三姉妹が三人とも討ち取られた事は青陣営にとってはかなりの痛手だったらしい。
「ははははっ、うっわすげー気持ちいい」
強敵を倒した事でかなりのエクスタシーを感じているようだ。
「そういやラピスは何処だ?」
結構前に長刀使いを倒したのは分かっていたんだが、まったく援護に来なかったぞ?
PTメンバーを表すマーカーをレーダーで探してみると、嬉々として青陣営の機体を撃ち殺している姿を見つけることが出来た。
ラピスを中心にジャック、ピスカ、ルイが回りを固め、丁度菱形の形を作っている。
近づく機体はジャックたちが相手取り、逃げいく敵はラピスが容赦なく落としていく。
「あ~あ、あれぜったいなんか名付けられるな。楽しみだ」
こうして突発的に起こった青陣営との戦闘は、白陣営が追い返すという形で決着がついたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「ちくしょう!」
真っ赤な髪を短くシャギーカットにした長身の少女が部屋に備え付けられているサンドバックを何度も何度も叩きつけ、蹴り上げている。
「アキちゃん、ホワイトファントムさん強かったね~~」
童顔で幼い雰囲気だがとても可愛らしい少女が湯のみに緑茶を入れソファーに座り、ずずずっとすすりながら応える。
「たま! お前は悔しくないのかよ!」
アキと呼ばれた少女がたま、と呼んだ少女をギロリと睨みつける。
「それは悔しいよ、だって二人がかりで負けちゃったんだもん。だから次会うまでに腕をもっともっと磨いてリベンジするんだよ!」
その答えを聞いて一応の納得はしたようだ。そこでアキは会話にまったく入ってこない少女がいることに気づいた。
いつもなら真っ先に愚痴と文句を口から発するはずなのに……
「おいメイ、どうしたんだよ何時ものクソッたれなお嬢言葉はどこ行った?」
メイと呼ばれた金髪を肩まで伸ばした少女がじっと天井を見つめて、そして一言。
「あぁ……お姉さま……」
と、うっとりとした声を零した。
「「…………」」
よく見れば頬は桜色に染まり、瞳は潤んでいる。かなり艶のある表情だ。だが!
「SとMどっちでもいけるのかよ、どこまでハイスペックな変態なんだこいつは……」
「あはっあはははははっ……」
三姉妹はリベンジを心に刻み、再戦を果たす事を臨む。一人違う意味の少女もいるのだが……




