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「うっし終わったー!」
全五日間に渡る苦行の末にめでたく中間テストなる悪の権化を打ち倒し、テスト休みという褒美を手に入れることに成功する事が出来た。
後に赤点なる死神の影が忍び寄る危険もあろうが、今はただこの開放感に打ち震えるのみである。
要するにこれで心置きなくゲームに没頭できると言う事だ。
「ケイ、今日からBMO再開するんだろ?」
「おう、これで心置きなくどっぷり嵌れるぜ」
別段テスト勉強をしている時間以外でフルダイブしてもよかったんだけど、中途半端になるからつい遠のいてしまった。
ちなみにタクは毎日やっていたらしい。そのため幾つか赤点の気配が漂っているみたいだ。
「ケイも早川さんも【メイオフ】にいけるならさ、一緒に行動しようよ。PT組んでさ」
「あれって他陣営ともPT組めるのか?」
一応建前は戦争中だよな?
「一応ね【メイオフ】だけはフリーフィールドで戦おうが共闘しようがプレイヤーの自由だよ」
「へー、分かった早川には俺から言っとくよ。あと他に七、八人ほどいるけどいいか?」
マーナたち全員でいけば十人の大所帯になるはずだ。
「OK、こっちは瑞樹と二人で合流するね。えっと一応座標はX-Y-でいいかな?」
「ん、分かりそうな人に見てもらう」
それじゃ帰るか、と言って瑞樹を交えて久しぶりに三人一緒に帰る。瑠璃の姿は見えず、すでに帰宅している。
さて、久しぶりのBMOだ、楽しみだな。
◆ ◆ ◆ ◆
BMOへフルダイブし【アリウム】へと移動する。いつも皆で利用しているラウンジに行くとすでにセイたちを含めた全員が揃っていた。
「あっ、にーちゃん久しぶりー」
「よう、久しぶりだな」
「ケイジロウさんお久しぶりです」
ピスカ、マーナと続きセイたちとも挨拶を交わす。
「よし、これで皆揃ったね。それじゃ宇宙港へ移動しようか」
「あっ、皆、今日俺の友達が【メイオフ】で一緒に行動しないかって言われててさ、陣営は青で二人なんだがいいかな?」
「二人? もしかして瑞樹たちのこと?」
ラピスの問いに頷きで答える。
「私は構わないよ、他陣営と共闘するのも【メイオフ】での醍醐味だし流石にリアルの友人が罠を仕掛ける事もないだろうしね」
セイの言葉に他のメンバーもなるほどと納得し、全員が了承してくれる。
そしてケイジロウたちは今度こそ宇宙港へと移動する。目指すは惑星【メイオフ】。
セイたちが購入した宇宙巡洋艦に乗り込みパラサイトの本拠地へと飛び立った。
◆ ◆ ◆ ◆
時間にしてたった五分で全ての道程を終え【アリウム】から【メイオフ】第三降下ポイントにたどり着いた。
巡洋艦の中はBMを固定する格納庫と艦橋の二箇所しか移動する場所が無く、ケイジロウたちは艦橋で巡洋艦が第三降下ポイントに着陸する様を珍しげに眺めていた。
「宇宙港って感じじゃないな」
冬と死の惑星【メイオフ】には人類の為の施設は無く、降下ポイントといってもパラサイトが居らず、かなり広い大地をプレイヤーたちが暫定的に降下ポイントとして使っているだけで、実際はただの雪原だった。
「そうね、それにしてもプレイヤーの数が多いわね、三百人ぐらい居るんじゃない?」
ラピスの言うとおり、降下ポイントには白陣営の宇宙船が整然と並ばれており、三百名ほどのプレイヤーたちが思い思いの事をしている。
「惑星【メイオフ】にある降下ポイントのうち数十単位で宇宙船を並べる事が出来るポイントは四つしかないんだ。赤、青、白、ともに一つずつ占拠していて、最後の一つは毎回取り合いになっている」
セイは眼鏡の位置をくいっと直し、説明を続ける。
「降下ポイントは多ければ多いほどいいし、他の陣営の降下ポイントを潰せばそれだけ自軍が【メイオフ】のNMを狩るチャンスが増える。だから今ここに待機している機体の半数以上の数が降下ポイントの護衛をしているんだ」
「へー、でも護衛してるプレイヤーは何か貰えるのか?」
流石にただでやっているとは思えない。
「ああ、駐車場みたいな物かな? ここを守って貰う代わりに一定の料金を払うシステムになっている。ちなみに護衛専門ギルド【イージスの盾】がここの護衛を引き受けてくれているんだ」
ズゥゥゥン
という地響きに似た音を立てて船が無事着陸する。ケイジロウたち五人とセイたちギルド【トライデント】の五人は早速【メイオフ】の大地へと機体に乗り込み降り立つ。
「おー、ここがパラサイトの本拠地惑星【メイオフ】かー」
「にーちゃんにーちゃん、ここって雪が触れるんだよ! しかも冷たいんだよ!」
「まじで?」
ピスカが機体から降りて大地に積もっている雪を救い上げばら撒く。
「おーまじだ、冷たっ。これシロップあったら食えるんじゃないか?」
「あっ俺持ってきたぜ、苺シロップとメロンシロップしか売ってなかったけどよ食う?」
どうやらキョウジがケイジロウと同じ事を考えてわざわざショップを回りシロップを探して買ってきたようだ。
「いいな! 入れ物とかスプーンとかあるか?」
「あっ俺持ってきたぜー、キョウジー俺も食わせろよー」
「僕もー僕もー」
お子様ズが紙コップのような物とスプーンを人数分持ち寄る。さっそく紙コップに雪を詰め込みシロップを掛けて試食会を開く。
「おっこれ結構いけなくね? 旨いってこれ」
「あっ、キーンて来た。こんなのまで再現するなよな!」
「キョウジーお代わりのシロップくれよー」
「僕もー苺とメロン両方掛けてー!」
どうやら食べる事が出来るようだ。
「あいつらってよくあんな物を食べれるわねー」
「本当ですね、ピスカったらお腹壊さないかしら」
「大丈夫っしょ、流石にリアルに影響はでないよ」
こちらは女性三人組が固まり、男子のバカっぷりをしょうがないなといった顔つきで眺めている。
セイ、ダルク、ジャックの三人は護衛ギルド【イージスの盾】に必要な料金を支払いに行っていてここには居ない。
七人はセイたちが料金を払って戻るまで待っていると、いきなり警報のようなサイレンが辺りに鳴り響く。
まるで敵襲でも来たかのような――いや、敵襲が来た!
『敵襲!! 相手は青! 数約四百! 降下ポイントにいるプレイヤーは迎撃を頼む。相手はヴァルハラとその他多数だ!!』
つい先ほどまで平和そのものだった第三降下ポイントは青陣営の敵襲によって一気に緊張高まる戦場へと変わる。
「敵襲って、青陣営とやりあうのか!?」
「まっじっでっ!! ついてねー」
どうやらケイジロウたちが惑星【メイオフ】で初めて戦う相手は、青陣営のプレイヤーたちによる集団戦になるようだ。
「皆! どうやら青陣営がここを奪取しに来たようだ。私たちも迎撃に向かおう!」
セイたちが戻ってきて自分達が受け持つ場所を皆に伝える。
「数は向こうの方が百機ほど多い、しかも相手はヴァルハラだ。青陣営の中でもトップクラスのギルドで腕の立つプレイヤーも多い。ここを取られたら暫くは【メイオフ】に来られなくなる!」
いきなり修羅場になりそうだ。
「面白い! やってやるぜ!!」
「ふふふふっ、二度と刃向かえないように徹底的に潰してあげるわ!」
ケイジロウが全身から覇気を撒き散らし、ラピスが獰猛な笑みを浮かべる。
そして白陣営VS青陣営の降下ポイント争奪戦が始まった!




