04
俺は今基地にあるシミュレータールームに来ている。
昨日【ポーン】クラス五匹を倒した後レノックス大佐に報告をした。
それで任務はクリア、IDカードと軍曹の階級を貰い次はシミュレーションルームで訓練の続きをするように言い渡された。
そこで一日目は終了、今日は二日目という事だ。
「うーん、シミュレータールームに来たのはいいけど人が多いなー」
シミュレータールームにはかなりの数のプレイヤーがいて賑やかだ。進捗スピードが同じぐらいなんだろう。
仕方ない、俺はどこか開かないかと探しながらウロつく事にする。
「ねぇきみ」
ウロウロしていると不意に声をかけられる。振り向くとそこにはワイルディーの少女がにこやかな笑みで俺に話しかけてきた。
「きみはもう鉱山のクエスト終わらしてる? 今行く人を募集しててあと一人なんだけど」
どうやらPTメンバーを集めてるみたいだ。
「あーごめん、俺まだシミュレーション終わってないんだ」
そういうと少し残念そうに、
「そっか、もし終わってもまだ集まってなかったら声をかけてもいいかな?」
「ああ、その時は頼む」
それじゃといって分かれる。なかなか可愛らしい子だった、緑色の髪に猫耳と尻尾、身長百五十五センチぐらいで整った顔立ち。
ただなんていうか、うそ臭い。
顔の表情や体の動きにどこかズレがあるんだ。
他のプレイヤーも見てみると殆どが美形だ、なかにはむさ苦しいオッサンもいるがどれも筋肉ムキムキだったりする。
ただ、性別は変えれないので女より男のほうが多いみたいだ、7対3ぐらいかな?
そう考えてる間に一番端っこのシミュレーターが開いたみたいだ。誰かに取られる前に急いで入る。
シミュレーターの中に入ると自動的に起動して画面に光が灯り、右下にIDカードを入れてくださいと文字が浮き出ていた。
IDカードをカードスロットに差し込むとシミュレーションが始まる。
『機体を確認いたします 機体名【エキューセン】 機動力D 命中補佐D 耐久力D 特殊兵装D 武装D この機体で宜しいでしょうかYes/No』
機体選択という画面には 【ダンデリオン】と【エキューセン】の二体しか登録されていない。俺は迷わずYesを選ぶ。
『それでは、ステージⅠを始めます』
画面が一瞬暗くなり次の瞬間広大な草原を写しだしていた。
大きな入道雲が大空に広がり春の陽気をかもし出している。ここで昼寝をすれば気持ちいいだろうな。
のんびりとした気分に浸っていると激しい衝撃が機体を揺さぶる。
「なっなんだ?」
あわててレーダーを確認、敵と思われる赤いマーカーが二つ。
やべ、ぼけっとしてたら攻撃されちまった。
敵機は見た事がない形状のBMが二機、単眼のカメラアイに細い首、寸胴な体躯をしていてアームは細く華奢な作りだ。レッグは逆に太く大きい。
どちらもバズーカーのような筒を背負って回りをグルグル回っている。
「速いっ」
マシンガンを撃つが、ロックオンしてから射撃に入るまでにロックが外れて一発も当たらない。
そのあいだにどんどんバズーカーを打ち込まれる。
そして……これまでで一番激しい衝撃と共に機体が火柱を吹き上げ爆発した!
「うわぁぁ!」
はげしい振動と爆発音、俺は両手を顔の前にクロスして身を守るように縮こまる。
振動が収まり顔を上げるとそこには、GAME OVERの文字が爆炎を背景にデカデカと踊っていた。
俺の額に青筋が一本浮き上がる。
カードスロットから飛び出してきたIDカードをもう一度突っ込む!
約束事のように繰り返す機体選びをYes連打ですっ飛ばし、ステージⅠをもう一度始める。
今度は油断しない!
レーダーを確認、距離一000メートルほどに赤いマーカーが出現した。
やはり速い、どんどん近づいてくる。どうやったらあんなスピードが出せるんだ?
ふと、画面右端にフットレペダルを踏み込め! という文字が目に入った。
瞬時に理解、フットペダルを踏み込む。機体の背中についているスラスターが【エキューセン】の巨体を吹き飛ばす。
操縦桿はスラスターの向きを変えるためにあるようだ。
「おおぉぉ、はっ速い!」
約三秒で最大時速百二十キロに到達、急激なGが体を襲うが痛みや眩暈など体に起こる変調は何もない。
変わりにとばかりに左上に見える黄色のSTバーが減っていく。
黄色いSTバーに桃色のSPバー。
スタミナは激しい機体の動きで課せられる、急激なGの衝撃を肩代わりしてくれるシステムだ。
STバーが尽きてしまえば何の訓練もしていない人間では、急激なGには耐えれず安全値を超えた場合意識をシャットアウトされる事になっている。
スピリットはサイ・ウェポン(超能力兵器)を使用するのに必要な精神エネルギーで、特殊兵装がこれに当たる。
後で調べたのだが敵機は【アンディカ】の【バンダス】という機体で、三十年前の古い機体という設定だ。
こちらのマシンガンも【バンダス】のバズーカーも当たらない。こちらは単に俺が下手糞なだけ。
このままじゃまた二機に囲まれちまう、STも大分減ってきた。
俺はマシンガンをなおしヒートロッドを構える。接近戦に持ち込んだほうが当たる気がする。
ヒートロッドを構え、フットペダルを最大まで踏み込み全速で【バンダス】に突っ込む。
速度はこちらのほうが速い。
「そこぉぉ!」
【バンダス】の喉元に片手突きが突き刺さる。首の細いフレームを突き破りヘッドを吹き飛ばす!
そのまま回り込みをかける。無茶な機動、【高速機動】が発動しサポートをしてくれる。
ほぼ百八十度をスラスターを全開にしながらグルリと回り。ふらつく【バンダス】の胴をすり抜けざま打ち払う!
機体全体にスパークが迸り轟音を立てて四散した。いや……派手すぎだろ。
それにしても高速機動すげー、あんな無茶な動きができるとは。ただ、STバーが物凄い勢いで減ってしまった。
「ん?」
レーダーに赤いマーカーが進入してきた。二機目の【バンダス】だ、俺は右手はそのままヒートロッドを握り左手でマシンガンを装備する。
動かずとまっていればSTバーはもりもりと回復してくれる。八割ほど回復した所でフットペダルを踏み込み敵機に突っ込む。
マシンガンをでたらめに打ち込み、左右に機体を揺らしてバズーカーを避ける。バズーカーを持っている右腕を狙いすり抜けざまに打ち上げる。
激しい打撃音と共にはじけ跳ぶ右腕。そのまま【高速機動】で反転、コクピットをヒートロッドで突き破り撃破した。
『ステージⅠ、クリアーおめでとうございます。ステージⅡを始めますか?Yes/No』
たしかステージⅠをクリアしたら大佐に戻ってくるようにいわれてたな……けど今でたらまた順番待ちだしこのままいくか。
Yes
『それでは、ステージⅡを始めます』
次のステージは荒野だ、俺は時速六十キロで前進する。
レーダーに赤いマーカーが二つ。今度はパラサイトかっ、狼のような形をしたパラサイト【ダストウルフ】が二匹、いや三匹となって襲い掛かってくる。
左手のマシンガンで牽制しつつ近づいた一匹をヒートロッドで迎え撃つ。
頭部にあたりそのままガラスが崩れるような音を奏で消滅する。
これならいけるそう思ったが、次々と湧き出る狼に段々対処できなくなり、急加速に急制動の繰り返しでSTバーが切れた。
さらに【高速機動】を繰り返し、激しいGに揺さぶられ耐え切れず岩にぶつかり自爆。
狼どもに貪られ爆発大破。躍り出る GAME OVER
シュッという音と共にシミュレーターのハッチが開く。激しいGで揺さぶられ、三半規管がぐだぐだになった俺は床に崩れ落ち青い顔をしていた。
「きっきっつー」
ぐだぐだになった三半規管を休ませる為に床にへたり込んだまま息を整える。すると、隣のシミュレーターからシュッとハッチが開く音と共に一人の女性が出てきた。
俺と同じグレーのダサイスーツとヘルメット。だけど、ヘルメットをとった瞬間、俺は大輪の花が咲いたのを見た。
サラサラと流れる艶やかで瑞々しい黒髪、見た瞬間吸い込まれそうな深く黒い瞳、整った鼻、蕾のような唇はいったいどんな音を奏でるのだろう。
ダサイはずのスーツが、彼女の見事なプロポーションを引き立たせる小道具にまで昇格している。
長く横に尖った特徴的な耳。エルフィン族の美少女がそこに降り立った。
俺は床にへたり込みながらポカーンとした間抜け面をさらしてしまう。
先ほどであった緑の髪の少女も可愛らしかったが、どこかズレた印象を覚えた。だけど目の前の少女は違う。人の手で作り出せる存在じゃない。
その少女が横を向いて、そして俺を見る。
少女の口が開き、鈴を転がしたような澄んだ声で、
俺は……少女に……鼻で笑われちまった。
「ふふん」
……えっ?…………なんで?
にま~と嬉しそうな顔をする。特徴的なエルフィンの耳が上下にぱたぱたと動いていた。
そしてそのままヘルメットを被り、シミュレーターに入っていく。
どういうことだ? なぜ鼻で笑われた?
ボーゼンとして彼女の入っていったシミュレーターに目を移すと一つの事に気がついた。
シミュレーターには外からでも今どのステージにいるか分かるようになっている。
そして、少女のいるステージはⅢ……
俺が使っていたシミュレーターはⅡの文字……
自分がクリアーしたステージで、へたり込んでいる俺を見てにんまりと笑う。
理解という文字が俺の頭に沁みこんでいくにしたがって、熱い塊が体の中で暴れだす。
「あっいたいた、きみ、シミュレーション終わったなら鉱山にいっしょにい……」
グルリと振り返り、血走った目で言い放つ。
「パスだ!」
「ひぃっ」
俺はそのままシミュレーターに入る。久々に入っちまった俺の厄介な性格のスイッチが。
「なっなによ、人がせっかく誘ってあげたのに、信じられないばっかじゃないの!」
誰かが何か騒いでいるようだが今の俺には関係ない。頭の中にはふざけるなの五文字のみ。
IDカードをいれ、ステージⅡを始める。さっさとクリアして追いつき追い越してやる!
◆ ◆ ◆ ◆
途中六時に食事でログアウト、本当はしたくなかったのだが、しなければ母親に無理やりログアウトさせられたうえ、あとにお説教が待っている。
急いでご飯を詰め込んで五分で食べ終わる。
そして午後九時前、ステージⅢをクリアーしてステージⅣに、流石に途中で大破して今日はここまでだ。
うーん意地になってがんばったけど、相手がいなかったらただの馬鹿だなーと少し冷えた頭で考える。
シミュレーターをでると、丁度隣からも人がでてきた。
女性だ……もしかするのか? ばっとステージを確認する。Ⅲだ……
ヘルメットをとったその姿は、彼女だった、俺を鼻で笑ってくれた。
なにか納得できない、といった顔をしている。
「くっくくくくっくくくくくっ」
俺の押し殺した笑いに気がついたのだろう、訝しげに見つめてはっと思い出したようにステージ数を見る。
愕然とした表情で俺の顔を見る少女。
「ふっふっふっ、あーはっはっはっはっはっ」
いやなにこれ、すげー気持ちいい。
お隣の美少女ちゃんは両手を握り締め、尖った耳は上に吊り上り、ぎりぎりと歯軋りまでさせてすごい目で睨んでくる。
なまじ綺麗な顔をしているだけにその迫力は段違いだ。
さーてと、意趣返しもできたし今日は落ちるかな~
「あっあんた、ちょっと待ちなさい」
ん?
「何か用か?」
「私は明日もこのシミュレーションを使うわ、直ぐに追い抜く、だから逃げるんじゃないわよ!」
なるほど、明日には俺を追い抜きリベンジするというわけだ。
はっきりいえば無茶苦茶な理論、しかし、スイッチの入った俺は挑まれれば拒む事なんて頭にない。
「面白れー、返り討ちにしてやるよ」
「く~~、ぎったぎたにしてあげる、首をあらって待ってなさい」
暫くにらみ合っていると、九時になるのでログアウトしてくださいというメッセージがくる。
「「ふんっ」」
今日はこれでログアウトだ。
起動力は機体の最大速度と敏捷性の総合評価。
命中補正は射撃時の集中力増大やスコープの大きさに補正。
耐久力は機体の装甲やエネルギーフィールドの総合値。
特殊は超能力兵器を仕様するときの威力や運用性へのサポート。
武装はどれだけの武器を装備できるかの目安。