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赤陣営の話を一部削除してケイジロウたちの話を入れました。
「ワンオフ機か~、チャット仲間がそんな事言ってたけど本当に有ったんだねー」
ケイジロウと瑠璃は昨日飯井塚と偶然会い、彼の妹が機体の製作をしている事をタクと瑞樹に話していた。
今の時間はお昼休み。
雲ひとつない青空の下、何時ものようにケイジロウ、瑠璃、タク、瑞樹の四人が屋上で昼食を取っている。
タクは相変わらずパン食で瑞樹のお弁当はピンクの小さな二段タイプ、上が唐揚げとミニハンバーグ、プチトマトに芋サラダ、下が白ご飯になっている。
瑠璃の今日の一品は赤いニャンコうどん。やはり熱湯が入った魔法瓶持参である。
「相変わらずインスタントラーメンかよ……」
「あんたバカ? 今日はうどんよ!?」
「変わんねーんだよ!」
昨日に続き今日も同じような口論をする二人を今日もまた瑞樹が仲裁に入る。
「まぁまぁ、ケイも早く食べなきゃ時間がなくなっちゃうよ? 早川さんのそれは一つの個性として見れば……うん、無い事も無いじゃない?」
「褒めてるように聞こえないわよ……」
もちろん褒めてはいない。
「学校の昼飯でインスタントラーメンってありえねー」
しつこくぶつぶつ呟きながらも自分の弁当を空ける。するとそこには何処までも続く真っ白な平原がお弁当箱という空間を埋め尽くし、その中央には燃える様な真っ赤な太陽が映し出されていた。
「…………」
固まったケイジロウを不審に思い、三人ともその原因であろうお弁当箱を覗き見る。
「ケイ、見事なまでのザ・日の丸弁当だね」
「そうね、日の丸の部分が梅干ですらなくて紅生姜の丸めた物というのが前衛芸術みたいで素敵ね」
タクと瑠璃がまるで人事のように、実際人事なので適当な事を言い放つ。
「ごっごめんねケイ、私もお弁当全部食べちゃって分けてあげられなくて」
ケイジロウの顔があまりにも悲壮な表情をしていたので瑞樹は気を使ったのだが、現物がない状態では効果は全くなかった。
「あっあんのババァ! 朝飯は塩ムスビ二個で昼はこれかぁぁぁああぁあ!! 夜中まで戦国武将伝ナゥとかやってんじゃねぇぇぇ!」
怒りのあまり吼えるが、そんな事をしたところでオカズが沸いて出てくるわけでもなく、渋々紅生姜をオカズにして白米を食べるが一口で紅生姜はなくなってしまった。
オカズなしでご飯だけ食べるのはあまりにもきつ過ぎる。
「ふんふふんふふ~~ん」
瑠璃が鼻歌を歌いながらごそごそとカバンの中をいじっている。カバンの中から取り出した物は――緑のワンコそばだった。
ニタリと笑いケイジロウの顔の前でワンコそばをひらひらとさせる。
「欲しい?」
まさに悪魔の誘惑! この誘惑に負けてしまっては今後昼食でのケイジロウの地位は最下層へと落ちてしまうだろう。
しかし! お腹は空いているが白米だけのお弁当はもはや拷問に近い。ワンコそば、蛋白質に蛋白質だが味さえ変わればもう関係ない。
「欲しい」
あっさりと堕ちた。
「何か言う事は?」
ただであげるとでも思っているの? と瑠璃の顔は悠然と語っている。
それに対しケイジロウは、
「昨日、今日と数々のご無礼申し訳ありませんでした!」
この日学校の昼食時における瑠璃とケイジロウのヒエラルキーは決定的なものとなった。
追記、ワンコそば美味かった。
◆ ◆ ◆ ◆
何時ものように四時前にBMOへとログインする。
今日からジャックを少佐へと上げるために新規のミッションをする事になっていた。
昨日ジャックから聞いた話ではワンオフ機の材料を全て集める為には第四の惑星【メイオフ】へと行かなければ駄目らしい。
そして【メイオフ】にいく為には最低でも誰か一人、宇宙船の船長になる為に少佐以上の階級にならないといけないのだ。
そしてケイジロウたち四人は全員中尉止まり、大尉になっているのはジャックだけなので自然とジャックが少佐になるという事で話は付いたのだ。
「おーいジャックは居るかー?」
「おう、ケイジロウか少し待ってくれ。ショップの販売を今NPCに任せる所だ」
今居る場所はジャックが出しているショップの前だ、集合する目印には丁度よかったのでここで全員が集まる事になっている。
「あれ? リンちゃんは居ないのか?」
ショップからみえる顔は相変わらずゴツイ、ジャックの顔一つしか見えず、花のように可憐な少女が見えない。
「ああ、リンはワンオフ機の設計が終わるまで来ない事になった。所々設計をやり直したいみたいなんだよ」
「あれ? まだ完成はしてなかったんだ?」
確かほぼ終わったって聞いたんだけどなと首を傾げる。
「ちょっとな、昨日寝る前にリンと話し合って、機体性能を変えることにしたんだ、まぁ楽しみにしててくれ」
まぁ詳しく教えられても分からないだろうから別にいいかと気楽に考える。ケイジロウはあまり深く悩まない性格をしているようだ。
「あっにーちゃんとジャックさんはもう来てるよ」
ピスカの声が聞こえる、マーナも一緒に来ているようだ。
「ケイジロウさんジャックさんこんにちわ」
「二人ともこんにちわー」
マーナが礼儀正しく、ピスカが生意気な挨拶をする。
「よう」
「おう、二人ともこんにちわ」
ケイジロウが片手を上げて、ジャックがにこりと笑い挨拶を交わす。
ただし、ジャックのピスカを見る目は未だに剣呑な光が宿っていたが。
「あとはラピスだけだな」
その呟きにまるで待っていたかのようなタイミングでラピスも歩いてくる。
「お待たせ」
リン以外の五人が揃う、昨日と同じようにショップ通りでは邪魔になるのでラウンジに移動。そこで今日の予定を話し合う事になった。
「ソロで出来る事は昨日の内にに終わらせた、あとはIDの討伐ミッションだけだ」
階級を少佐に上げるには大尉になり、複数のミッションをクリアしなければいけない。
その内アイテム集めの方はジャックがソロで終わらせたようだ。
メインミッション専用アイテムをショップで売っているプレイヤーたちが居るのでそこから買い集めたらしい。
「んじゃ次はボス戦か、IDは何処にあるんだ?」
ケイジロウの質問にジャックは指を下にし示す。
「場所は地上、東基地の更に東。【マシリアヌ】のパラサイト本拠地、流砂の洞窟だ」




