04
「でも飯井塚、お前オリジナル武器の許可貰うの早くないか? VUしてまだ初日だぞ?」
「その前にネトゲでリアルの名前持ち出すのはご法度だぜ? 俺のことはジャックと呼んでくれ」
「似合わねー」とつい呟いてしまう。
「うっせ、それでオリジナル武器のことだけど、VUアップ前からオリジナル武器の設計だけならラボに行けば先に作る事ができたんだよ」
「ラボ?」
ケイジロウの態度に何も知らない事を読み取り詳しく説明をしてくれる。クラスではあまりケイジロウ達のグループと喋らないが面倒見はいいのだろう。
「ラボはラボラトリーの略で、BMOでは武器や機体の設計をする研究所扱いになってる。そこで事前に作っていた武器の設計図を運営に送って、今日の午後三時に返信がきたんだよ」
どうやらまだケイジロウの知らない施設がたくさん有るようだ。どんなVRMMOも同じだが、戦闘だけではなく生産、製造などを楽しみたいプレイヤーの為に色々な施設や役割が存在している。
「へー、おれ飯井……ジャックがそんな細かい事をする人種だとは思ってなかったよ」
「ああ、俺もそんなめんどくさい事はしないしできないな。実は武器の設計をしたのは俺の妹がしたんだよ」
ケイジロウのある意味失礼な言葉もジャック自身がその通りだと肯定する。だが、それよりも聞き捨てならないことをジャックは口走っていた。
なん……だと! 飯井塚の妹? ケイジロウの頭の中に飯井塚の顔をした女の子が……可哀想に。
「……お兄ちゃん? 誰か来てるの?」
そのとき少しか細い女の子の声がショップの奥から聞こえてくる。ショップの大きさは武器や機体、アイテムのカタログを置くカウンターに中で定員が休める程度の部屋が付いている。
奥に小さな部屋が付いた、たこ焼きやを連想させる作りだ。
「リン、今にーちゃんのクラスメイトと偶然会ったんだよ紹介するからお前もこっちに来い」
「……うっうん」
飯井塚の妹は俺の想像なんか吹き飛ばしてしまうほど可愛らしい女の子だった。年の頃はピスカと同年代ぐらいかな? 全体的に小さくてパッチリした瞳が印象的だ。
アニキとは違い少し人見知りするようで、ジャックの足にしがみつき体を半分ほど隠してこちらを除き見ている。
服装は何故かジャックと同じ整備士のツナギを着ていた。せめて店員の服とかなかったのだろうか……
「……あっあの、飯井塚燐です。BMOのハンドルネームはリンです」
そういってさっとジャックの後ろに隠れる。
小学生ぐらいの女の子には高校生男子は大きくて怖い存在かもしれない。
「悪いな、こいつ昔から人見知りする性質でな」
「いや気にしてないから、アニキに似ずに可愛い子じゃないか」
「だろ~~、自慢の妹なんだぜー? 俺と違って頭もいいしさ」
いきなり強面の顔をがデレデレに崩れる。飯井塚はシスコンのようだ。
暫くリンちゃんの何処が可愛くて頭がいいかを延々と喋りだす。少ししつこいのでケイジロウは話を元に戻す事にした。
「んで? 武器の設計とかをリンちゃんがしたんだ?」
「おう、リンは昔から体が弱くてあんまり外で遊べなくてな。もっぱらVR物をしてたから将来はゲームデザイナーかエンジニアになりたいって言い出して、今じゃこういうゲーム関係の物を作るのが得意になってな」
「凄いな、蛇腹剣とかのデザインもリンちゃんがしたのか?」
「ああ、どうしても俺が使いたくて頼んだ」
そういうジャックの種族はケイジロウと同じドラゴニュートだ。なるほど自分と同類かと納得して頷く。
「あーいた、ラピスねーちゃん、にーちゃん見つけたよー」
「やっと見つけた、ケイジロウあんた待ち合わせの場所に居ないで何してるのよ?」
しまった、ジャックと話していたら待ち合わせの時間をすぎてたみたいだ。
どうやら待ち合わせの場所にケイジロウが居ないので探しに来たようだ。そっとそちらを見てみるとなかなか素敵な笑顔を青筋とともに浮かべているお嬢様の顔が……
「あー悪い悪い、ちょっとショップを見て回ろうとしたら知り合いがいてな」
何とか怒りを逸らせないかと、他に人がいるよーとアピールしてみる。
すると反応は逆の方向から返ってきた。
ケイジロウの連れ、というよりラピスのことを見てジャックが色めき立つ。
そういえばあのバカバカしい騒ぎにノリノリで参加していたっけとケイジロウは思い出した。
「おっおいケイジロウ、あの人ってもしかして早川さんじゃないのか!?」
その会話にラピスもジャックがクラスメイトと同じ容姿をしているのに気づいたようだ。何かを思い出そうとして思い出しきれない。そんな苦悩の表情をしている。
「あれ? 貴方たしか……飯島君だっけ?」ラピスが自信無さ気に間違った名前を答える。
「飯井塚っすよー早川さ~ん」
「あっあはは、ごめんなさいまだ名前を覚え切れなくて」
ジャックが本気の涙を流しながら名前を訂正すると、ラピスも若干申し訳なさそうに言い訳をしてごまかす。
するとジャックの影に隠れていたリンちゃんがピスカを見つけて、
「……わっ渉くん?」
「あれ? 燐ちゃんだ、燐ちゃんもBMOしてたんだー」
人見知りするはずのリンちゃんがジャックの後ろからパッとピスカの前に飛び出して声を掻ける。
どうやらピスカとリンちゃんは知り合いみたいだ。同年代ぐらいだし学校が同じなのかもしれない。マーナがピスカに知っている子? とたずねる。
「うん! クラスメートの燐ちゃんだよ。給食で一緒の班だよねー」
「……うっうん」
ピスカが嬉しそうにしてリンちゃんに問いかけると、顔を真っ赤にしても頷く。俺でも一発で分かるぐらいの反応だが、まだピスカはそういうことを意識してないみたいだ。
そんな微笑ましい場面でただ一人能面のような表情になるジャック、視線で人を殺せるならピスカは五回ほど死んでいたかもしれない。
ケイジロウたち六人はショップ通りにいては他のプレイヤー達の邪魔になりそうなのでラウンジに移動する事にした。
「いや~早川さんもBMOやってたんすね驚きっすよ。あ、BMOのハンドルネームはジャックっていいます今後よろしくお願いしまっす」
まるで空港のようなラウンジに着くなりジャックがラピスに自己アピールを始める。このチャンスにどうにかお近づきになろうと言う魂胆が透けて見えるようだ。
「ええよろしくねジャック、私のハンドルネームはラピスよ。遠距離武器やサイ・ウェポンを製作したら教えてね」
こういう態度になれているのだろう、サラリと受け流すラピス。
ハンドルネームを教えるのは一応クラスメイトという事と、ジャックが妹思い(重度のと付くが)のいい兄貴という評価が付いたからだろう。
「むぅ、Keizirouと一緒にいるからもしかしてとは思ったけど、あのLapisさんだったんすね……」
そう、ケイジロウにホワイトファントムなんて恥かしい二つ名が付いたように、ラピスにも二つ名が付いていたのだ。
その名もずばりブラッドハンター。
最初はレッドハンター、赤い狩人だったんだが、伝言ゲームのように人から人へ伝わるうちに血に飢えた狩人。つまりブラッドハンターへと変貌してしまったのだ。
勿論ケイジロウは大爆笑して頭をはたかれた。
その後、ラウンジでケイジロウ達はラピス達が選んだ新しい機体の事や、サイ・ウェポンをどうするか、新しくいけるようになったパラサイトの本拠地【メイオフ】に行くかどうかなどを話し合っていた。
すると、途中から何も喋らず難しい顔をして、何かを考込んでいたジャックが真剣な表情でケイジロウとラピスに話しを切り出す。
「ケイジロウ、ラピスさん。二人をエースパイロットと見込んでお願いがあるんだ。どうか妹の、リンの事を手伝ってくれ!」
そう言って深く頭を下げる。
ケイジロウもラピスも、いきなりすぎるこの行動に困惑を隠しきれず、先ずはどういう事か話を聞かせてくれと、ジャックの顔を上げさせる。
「今リンがしているのはBMOの機体を一から製作するワンオフ機を作る事なんだ。設計のほうはもうほぼ終わっていて後は機体を作る為の材料集めするだけなんだけど……ただ、その材料が特殊すぎて俺とリンだけじゃどうにもならない物ばっかりで行き詰っていたんだ」
ワンオフ機? BMOを始めてから二十日は過ぎている、流石に何度も公式ぐらい見ろと叱られていたので(ラピスに)最近では端から端まで見ていた。
だがワンオフ機という単語は今まで見た事も聞いた事もない、他の三人の顔を見回すがどうやら誰も知らないようだ。
「ジャック、ワンオフ機ってなんだ? そこから説明してくれ」
ケイジロウの言葉でどうやら自分が先走りすぎたのに気づいたのだろう。ラウンジの端にいるので他のプレイヤーたちの喧騒もここまでは届かない。
そんなシンと静まり返った空気をジャックの声が振るわせる。
「ワンオフ機は……」




