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VUで変わったこと、増えた事はまだ沢山ある。
一つはPVPでの機体の耐久度が大幅に上がった事だ。より長く戦えるように、より戦略性が出るようにVU前の約二倍ほどは攻撃を食らっても撃墜されないように変わった。
これでカラー赤の遠距離から一方的に火力で潰される事が減ることになる。
それに伴い、近接戦が注目されるようになった。今までは近づけないからとゴミ扱いだったが元々接近戦が好きなプレイヤーは多く、今回のVUで近接戦中心の兵装に変える者がかなり多くなったのだ。
ただ、特殊兵装の適正が高いヒュームで近接戦をするプレイヤーが多く、ドラゴニュートは未だに人気があまりない。【クイックアップ】も【STアップ】も使えるスキルなのだが。
近接戦の武器も種類は増えたが、ケイジロウが使いたいと思うような武器は無かった。ピスカはビーム長刀を振り回して遊んでいるのだが、どうも長物はあまり性に合わないようだ。
他にヒートランス、スタンナックル、中には棘つき鉄球グローブなんてネタ物まである。
次に大きく変わったのは機体カスタムのリストが全て使えるようになったことだろう。
今までは外装パーツを取り替えることしかできなかったが、これからは電子カートリッジの取替え、機体の設計(設計図が必要)が可能となった。
電子カートリッジは起動サポートAI交換や能力アップなどができ、機体の設計は機体の外見の変更、フレーム素材の変更、それに伴う機動力や耐久などの数値が変えることができる。
【スワーロゥ】のフレーム素材は七割が【変質したエボニー材】でできている。これを【変質した鉄】に変えると耐久や武装が大幅に上がるが、機動力や特殊が大幅に下がってしまう。
これが【変質した鉄】ではなく、同じ木材系のより上位な素材に変えると機動力や特殊は変わらずに、耐久や武装が上昇するらしい。
次にサブスキルというものが新しく選べるようになった。まずはガンスミス(機匠師)BMOでは機体の設計図を元に材料を五つのパーツ別に工場で作って組み立てることができる。
次にデザイナー。プレイヤーの衣服からNスーツのデザイン、機体のペイントなどができるようになった。
三つ目はウェポンマスタリー。BMO内に存在する武器の製作などが出来るほか、自ら考えた形や性能を運営にメールで送る。すると合否が判定されて合格すればオリジナル武器として製作する事ができるのだ。
最後はコック。BMOは味覚も正確に再現されているので長くゲーム内にいると食事などの嗜好品が欲しくなってくる、ただ今のところ何かのステータス補正があるわけでもなく、おまけスキル的な物になっているみたいだ。
一通り今配給される量産品のウェポンを試し終えたのでケイジロウたちは【アリウム】のロビーへと戻ってきていた。
今ケイジロウたちの階級は四人とも中尉になっている。そこでラピス、マーナ、ピスカの三人は機体を新しく乗り換えることにした。
ケイジロウはというと機動力A以上の機体がBクラスの機体に無いので【スワーロゥ】のままで行く事に決めたのだ。
さて、三人が戻ってくるまでにブラブラとショップ巡りでもするかな。
そう思い立ち【アリウム】のショップ通りに足を向ける。
【アリウム】ロビーはその中心に【軌道エレベーター】の出入り口があり、そこから半径五百メートルほどのかなり広い作りになっている。
その円形になっているロビーをグルリと回るように、プレイヤー達が出展できるショップスペースが設けられていた。
プレイヤー達はそこにある程度の資金を投入して自分の店を出し、商品や素材などの売り買いをする事が出来るようになっていた。
ただ、数百とあるショップの中で自分の興味がある物を探すのは骨の折れる作業になってしまう。
そこで様々な電子看板がどんな物を中心に売っているか書かれていた。
『機体設計図買います、売ります値段交渉はメールよろ』
『ウェポン製造していますレア物多数あり』
『Nスーツや軍服、そのほか衣類売っています』
確かスーツや服のサイズは自動で合うようになるんだっけか。
『ハンバーガー、フライドポテト、各種ジュース販売。美味しいよ!』
ファーストフードか、後で皆と一緒に食べるのもいいかもしれない。
と考えつつそうやって色んな電子看板を眺めていると、一つ目に留まるものがあった。
『オリジナル武器製作しました。お気軽に見ていって下さい』
おお? もうオリジナル武器の許可貰った奴いるんだ? 速いなーどんなの作ったんだろう。
興味が惹かれたのでどんなものなのかカタログを見てみる。何とそこには、
「じゃっ蛇腹剣だと!」
武器のネームにはスネークソードとなっているが、どうみても蛇腹剣だ。
「まじこれ、すげーほしー!」
「おっお客さん分かってるね。蛇腹剣だけじゃないぜ? これなんてどうよ? 火薬式パイルストライク。アーム部分にシールド状の機構を取り付け二本の杭が火薬で高速射出され相手の装甲を打ち貫く! く~~!! ロマンじゃね?」
「わははははっすげーどっちも欲しい!」
どうやらショップにマスターがいたようで中から声をかけられる。
服はまるで歴戦の整備士といった出で立ちをしており、所々整備汚れのようなものが雰囲気を醸し出していた。なかなかこだわりのあるプレイヤーのようだ。
どうやらアバターは自身の生態データーを使っているようで、強面な顔をしているが笑うとなかなか愛嬌のある表情をしている。
そこでふと気がつく。あれ? この顔どこかで見たような……
「「あっ!」」
「お前、前田か?」
「もしかして飯井塚か!?」
二人同時に相手がクラスメートだと分かり、お互いの顔を指差して驚く。
ショップのマスターはケイジロウのクラスメートの柔道部員、ヒャーハハハッの飯井塚だった。
「なんだ前田、お前もBMOをしてたのかよしかもアバターはそのまんまで」
「そういう飯井塚だってそのままだろ? ごつくて怖いぞ」
ケイジロウも飯井塚もこんな所でクラスメイトに会うとは思っておらず、少々テンションが上がり気味になっている。
「喧しい! しかし、俺自分のクラスにはBMOしてる奴居ないと思ってたぜ」
「なんだよ、コンビの井伊田はしてないのか?」
「コンビいうなよ、あんときはノリでやっただけだろう? それよりフレンド登録しようぜ。色々情報交換とかしたいしよ」
「ああいいぜ…………送ったぜ」
これでようやく四人目のフレンドである、その事実は少々――いや、かなり寂しいものでもあった
「ああ来た来たネームはKeizirouか……え? Keizirouってまさかホワイトファントムか!?」
「は? なにそれ」
「お前のことだよ! ホワイトファントム! VU前の戦争イベントで赤を三十三機も落としたAAAの二つ名だよ!」
え? 二つ名ってホワイトファントム? なにその痛い名前。
ケイジロウの知らない間にどうやら二つ名という、ものを付けられていたらしい。それにしても何だよホワイトファントムって恥かしい名前は!




