03
六歳の誕生日に母親からもらった物は剣道具一式だった。
母いわく、前田慶次郎ともあろう者が武道の一つや二つたしなむもの! らしい。
幼心ですらなんで? と疑問に思ってしまうほど無茶をいい、無理やり剣道場に通わされた。
しかし、性に合ったのだろう。人一倍負けず嫌いな性格も合わさって、中学三年までやめることもなく、それなりの実力を身につけてはいた。
しかし、中学の三年間一度として勝つことができない奴がいた。
石田光成。
女顔の繊細な立ち姿に見合った、流麗な剣道。同年代に天才がいたことで、俺は自分の限界を感じ剣道をすっぱりとやめることにした。
◆ ◆ ◆ ◆
「「「いただきます」」」
今日は五月三日水曜日、GW五連休の初日だ。
俺の家は母親の香苗、父親の俊正、そして俺の三人家族。
今日の晩飯は豚の生姜焼きに和風サラダの盛り合わせ。
塩、味の素、胡椒、摩り下ろした生姜で味付けした豚ロースをカリカリに焼き上げ醤油でさっと色付けした豚の生姜焼き。
サニーレタス、カイワレ大根、薄くスライスした玉ねぎに千切り大根を添え、ごま油を少量かけた後ポン酢を大量にかける。鰹節を振りかけて完成だ。
ご飯に合ってとても美味しい。
父さんがご飯を食べながら話しかけてくる。
「それで慶次郎、BMOはどうだ? すごいだろう」
父さんの職業はゲーム会社PIXYの営業課の係長をしている。
BMOはPIXY社の新コンテンツだ。
「すげーよあれ、まだ訓練しかしてないけど本物のロボットに乗ったみたいだった」
今まで続けていた剣道の修練は俺の生活の一部になっていて、それを急にやめたものだから今の俺はすっかり気の抜けた、ぼけっとした毎日を送っていた。
「うはははは、そうだろうそうだろう。なにせうちの社の命運を賭けたゲームだからな」
そんな俺を見かねて、父さんが気晴らしになればとBMOのテスターをコネで貰ってきてくれたんだ。
「二人とも、食事中に喋るのはいいけどご飯をとばさないで」
「「ご馳走さま」」
母さんに睨まれたので急いで食べ終わり、そそくさと逃げ出す男二人。
「まったく……私も戦国武将伝の続きをしなくっちゃ、まっててね明智光秀様~」
◆ ◆ ◆ ◆
―――【Loading】―――
俺はお馴染みとなってきた落ちるような感覚をへてBMOの世界に降りる。
さて、午後三時から九時までの六時間しかできないんだ、さくさくいかないとな。
基本ログアウトした場所から移動する事はない。
ここは先ほどログアウトした基地の入り口だ、確か大佐の部屋は左の通路奥だったな。
扉の前まで来るとシュッと金属がこすれる音と共に扉が横に開く。
中には数人のプレイヤーとその中心に、黒の古めかしい軍服を着た四十代前半の男性がいた。エルフィンだ、耳が横に長い。
おそらくあれが大佐だろネームはレノックス・デイビスとなっている。
「ども」
俺が話しかけると顔をこちらに向けイベントが始まった。
「ふむ、お前が今度配属となった新兵のKeizirouか、私が対パラサイト東前戦基地副司令官のレノックス・デイビスだ」
やけにリアルだな、VRMMOは初めてするのでこれが標準なのかBMOが凄いのか分からないな。
「さて、いきなりだがお前にはパラサイト討伐任務について貰う。基地の周りにうろついている【ポーン】タイプを五匹ほど退治してくれ。新兵用の機体はハンガーの整備長に言えば出してくれるだろう。では、急ぎたまえ」
なるほど、次は実戦か。
俺はハンガーの位置を探す為にマップを呼び出す。マップと念じると空中に基地の見取り図のような地図が現れた。
青く点滅してるのが俺の位置かな?ハンガーはどこだ? あった、ここからそう遠くない。
急ぎ足で五分ほど歩くと、一際大きい倉庫が見えてきた。あそこがハンガーだろう。
中には整備長らしいNPCに数人のプレイヤーが話しかけていた。
「うん? お前さんがKeizirouかい? 話は聞いてるよ、あれがお前さんの相棒になるRS-43【エキューセン】だ。二十年前のロートルだがまだまだ現役だぞ」
「おおぉぉ……」
俺は感嘆の声を上げていた。
きちんとした人型のフレーム、腕や脚は角ばっていて無骨なイメージだ、肩も鉄の肩当てをくっつけただけという感じ。
胴はかなりスリムで装甲は薄そうだ。頭は少し小さく人の目と同じ部分はバイザーになっている。
五本指のマニュピレーター、全高は十三メートルぐらいか?
少し不恰好だが、これこそまさに人型機動兵器という雰囲気をかもし出していた。
俺は早速機体に乗り込むことにした。
「搭乗」
降りてきたワイヤーを掴みコクピットに素早く乗り込む。速く動かしたい。
中は【ダンデリオン】と同じ構造だ、機動スイッチを押して機体を動かす。
スフィアビューが景色を三百六十度映し出し、まるで自分が巨人になったような感覚を覚えた。
俺は歩くイメージをしっかりと持ち、基地の外にでるポータルに入り込んだ。
◆ ◆ ◆ ◆
基地の外は荒れ果てた荒野になっていた。元は森林豊かな大地だったが、パラサイトたちによる侵略のせいで、惑星のエネルギーが吸い取られ荒廃した土地になってしまったらしい。
うーん、結構プレイヤーが多いな、敵がいないし少し奥にいくか。
人が少ないほうへ移動すること十分、周りに三十メートルほどの巨大な木がぽつぽつと立ち並ぶ場所に出た。
ようやくパラサイトを発見。樹木でできた蜘蛛【アッシュスパイダー】だ。
プラント・パラサイト。大きさはだいたい人間と同じ大きさで、自身を核として自然物や人工物などを取り込み巨大化する。
十数メートルから巨大な物では五十メートル以上の物もあるとか。
その星にいる生態系の情報を取り入れ形を作り出す。蜘蛛の形をしているという事は、蜘蛛の生態系データーを取り入れて形を作ったということだ。
大きさ十メートルの蜘蛛が襲いかかってくる。
「ショートーレンジ」
右手に持ったマシンガンを撃ちまくる。マズルフラッシュと共に吐き出される弾丸が【アッシュスパイダー】を打ち据える。
距離にして約一00メートル、弾丸を食らいながらも距離をどんどん詰めてくる。
かなり速いぞ、レーダーの計器が数字を減らしていく。くそっなかなか死なない。
ついに目の前まで詰められた。
振り上げる前足を横移動で何とか避ける。威力が弱いのか? マシンガンはあまり効いていない気がする。
「ゼロレンジ!」
マシンガンをしまい腰につけているヒートロッドを取り出すまで約一秒。
その間に蜘蛛野朗の体当たりをもらい機体が激しく振動する。
「くそっ、食らいやがれ!」
近接戦はイメージが全て、ゲームによる補正が少ない。
小手を打つ感じで攻撃を仕掛ける、先ずは一撃!よろけた所をさらに連打していく。二撃、三撃!
巨大蜘蛛と巨人の殴り合い、ダメージを食らいながらもどうにか倒す事ができた。
『キシャーーー』
【アッシュスパイダー】が悲鳴を上げ崩れ落ちる。
「はぁぁ、倒せた」
随分と強かったな。【ポーン】をあと4匹か~九時までには終わらせたいところだ。
ちなみに、パラサイトはチェスにちなんだ階級がつけられている。
【ポーン】一番多く一番弱いクラス。
【ナイト】雑魚よりは強い一対一だと勝てるかどうかギリギリらしい。
【ルーク】IDなどで中ボスクラスとしてでてくる。
【ビショップ】一個小隊(五人パーティー)で挑むボスクラス。
【クイーン】一個中隊(三~五パーティー)の大人数で挑むNMクラス。
【マザー】最後はキングではなくマザーらしい、パラサイトをどんどん生み出しているとか。
それから二十分ほどかけて四匹の蜘蛛型パラサイトを全てヒートロッドで倒す事ができた。どうやら近接兵装は威力が高く設定されているみたいだ。
パラサイトは倒すとエネルギーの結晶であるクリスタルを落とす。惑星から吸い取ったエネルギーを結晶化したものだ。
それと自身の体にしていた樹木や鉱石なども、パラサイトに一度変質されることで新しい物質に変わり、何かの材料となる。
【変質したアッシュ材】×3
どうして材木なのかは不思議だがゲームだから仕方ないか。
まだ製造系は未実装なので直ぐに必要というわけでもないけど、俺はクリスタル5個とアッシュ材三個を手に入れて基地に帰ることにする。
機体ダメージを表すグラフィックもほぼ真っ赤だ。せめて修理アイテムとか探してから来るべきだったな。
道中メッセージが点滅しているのに気づいたので見てみると、近接戦の熟練度が121になっていた。
どうやらスキルを一つ覚えたらしい。
【高速機動】0
どんなスキルかよく分からない、なにまだ始めたばかりだ、ゆっくりとやるさ。
少し遠くに行ったのでパラサイトも強めがでてきました。