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Lapis―――
大型宇宙戦闘艦【ジュピター】から九時の方向へ約六〇〇〇に、直径二十メートル前後の岩が数多く漂う暗礁宙域がある。
私は今や愛銃になった【シェブロSR】一つをもって射撃に適した場所を探す。
時間的猶予はもう余り無い。
岩と岩の間に隠れ、距離六八〇〇メートル先の戦場を睨む。
今から私はこの場所からチームS・Jの遠距離型BM【ゴースト】四機を撃ち落さなければいけない。
心臓がドクッドクッと早鐘を打っている。これだけ緊張するのは何時ぐらいだろう。
三歳の時初めて弓術の稽古を始めた時か、それとも中学の弓術県大会(全国は無い)決勝の時以来か……
外しはしない。たとえ道具は違っても私は早川の娘なのだから!
「【スナイパーモードⅡ】! 【集中Ⅱ】!」
視野が二十度まで狭まり倍率が跳ね上がる。システムのサポートが入り、集中力が増していく。
獲物は距離六八00メートルの彼方。スコープの丸い点が距離が離れれば離れるほど小さくなっていく。
まるで真っ白なノートにペンの先を軽く突いたような大きさの敵機、さらに小さくなったスコープの点。
私はその点と点を結びつけて【ゴースト】のコクピットを狙い打つ!
「一つ!」
【シェブロSR】から破壊の熱線が六八〇〇メートル先へと解き放たれる。一機撃墜!
「二つ!」
点を確認し、スコープの点と重ね合わせる。ミリ単位の、いやさらに僅かな誤差を勘で修正しさらに撃つ。
「三つ!」
三機目も撃墜! あと一機。
「四つ!」
四機目の撃墜も確認! ミッションクリアーそして私は猟犬を解き放つ。
「GO! GO! GO!」
すでに十分以上動きの無かった【ジュピター】から一つの軌跡が解き放たれた。
さあここからが第二ラウンドだ。
ケイジロウの進む道を私が切り開く!
Snake―-―
アメリカ海軍として日本に派遣され二年が立つが、このゲームに参加できた事が一番の収穫だな。
『ヘイ、スネーク。獲物がそっちにいったぜ、まるで虎から逃げ惑う小鹿だな。ハハハハハッ』
「ジョズ、油断はするなよ? たとえゲームでも俺たちは戦闘のプロだ、ハントは確実に速やかにするのが俺たちの流儀だ」
『ハハハハハッ、スネークは慎重すぎる。これだけ大勢が決してたらあとは鹿狩りを楽しむぐらいしか……』
「ジョズ? どうした、返事をしろ!」
いきなり線が切れたようなブッという音を残してジョズからの応答が切れる。
『スネーク! 後方の【ゴースト】四機が全て沈黙した。どこかにスナイパーが潜んでいるわ!』
「バカな! レーダーの監視はどうなっている。サ二ー!」
『今探している! ちくしょーそんな反応全く無い。範囲を八〇〇〇まで広げて見る』
『! スネーク、敵戦艦から一機ハイスピードで接近してくる機体がいるわ!』
「ちっ、どうせまた神風だろう。落としておけ、それよりもスナイパーは見つかったのか!」
あれからさらに五本の熱線が俺たちのPTを襲い二機が当たり中破している。かなりの腕だ一体何処から。
『いたっ! 距離六八八七メートル、三時の方向にある暗礁宙域だ!』
「んなっ!」
約七〇〇〇だと……いくらゲームだとはいえ単純に考えればリアルで六〇〇~七〇〇メートルのスナイプを成功させる腕があるということだぞ! 相手もプロか、それとも競技者か!?
『うそっ! あたらない、スネークたす……』
「どうしたキャロ……!」
キャロルがいた場所に、真っ白なカラーリングを施した特殊な形状の武器を付けた【スワーロゥ】がそこにいた。
単純な丸いヘッドに人の目に当たる部分に二個のアイ・カメラの顔が白というカラーリングによってまるで亡霊のような雰囲気を出していた。
目が合った、そう感じた瞬間ソレは信じられないスピードで目の前へと迫る。
「ウオオオオォォォ! 【クイックドロウⅢ】!」
鍛え上げたスキルは神速といってもよい抜き撃ちを実現する。コクピットを捉えた、落とせる。そう思った瞬間。
「なっ消えた!」
『スネーク、右だ!』
いつの間にか、そう、いつの間にか亡霊は俺の右手に回っていた。
特殊な形状の武器をクロスさせ、今まで見たこともないスピード迫ってくる。
「ホワイト……ファントム!!」
ソレが俺が残したこの戦場での最後の言葉だった。
Lapis―――
S・Jチームの全機撃破確認! 次は敵本隊左端の一団!
スルスルと岩と岩の間をすり抜け次の射撃ポイントへと移動する。
距離は先ほどよりも少し近い六二〇〇メートル。
ケイジロウが進む先へ牽制の射撃を繰り返す。当てる必要はない、ケイジロウだけに集中させなければそれでいい。
撃って撃って撃ちまくる。甘い狙いは敵機を捉えはしないが、誤差十~二十メートル付近の熱線は相手を萎縮させる事に成功している。
ケイジロウが敵のど真ん中に突っ込んだ。自分で行けと言っておきながら本当に突撃を成功させるケイジロウの事が素直に凄いと思える。
暫く援護射撃を続けていたら、ゾクリと普通ではありえない感覚が! 咄嗟に機体を右に動かす。
私がいた場所にビームライフルのビーム通り過ぎる。
「【スナイパーモードⅡ】、オフ」
いつの間にか十機近くのBMが近づいていた。先走った一機のおかげでまだ囲まれていない。
「ここまでね。あとは任せたわよケイジロウ」
私はケイジロウの援護射撃を止め、包囲しようとしている敵機に立ち向かう。
「簡単にはやられない。一機でも多く道連れにしてあげる」
唇を舌で濡らす。さぁ、どちらが狩られる獲物なのか教えてあげるわ!
終わりまで行きたかったのですが、間に合わず今回はここまでで。
最後まで書き終わり、見直しが終わり次第続きを投稿いたします。




