02
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プラント・パラサイト(惑星寄生生命体)。突如として現れた彼らにより人類は滅亡へと追い込まれる。
惑星自体に寄生しエネルギーを吸い取り死の星へと変える外宇宙生命体。
人類は一致団結する事によって戦いに勝利し、プラント・パラサイトを惑星メイオフに閉じ込めることに成功する。
それから二百年。軍事惑星国家【ダリス】に一人の独裁者が現れた事によって、事態は急変すこととなった。
パラサイトを駆逐する為には人類を統合しなければいけない、という思想により二国家に宣戦を布告する。
それにより引き起こされた大戦の隙をつかれ、プラント・パラサイトたちに反撃を許してしまう。
終わらない大戦、侵入を許してしまったパラサイトたち。
人類は再び破滅への道を歩みだす。それから二十年……
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―――【Loading】―――
そこはまるでどこかの航空基地のような場所だった。
長い滑走路に軍隊で使われているような迷彩柄のジープ、航空機を収容している様な倉庫群。
兵隊らしき歩哨が二人一組で見回っている。
しかし、ここがゲームのBMOの中だと強固に主張している物が直ぐ目の前にあった。
Nerve body armor 通称ブレイン・マリオネット(BM)、全高十五メートルほどの人型機動兵器。
Neuron(N)スーツを着用し、BMと直接思考を繋ぐ事により限りなく人体の動きをトレースする事に成功した人型機動兵器だ。
「すげぇ……」
あまり見栄えはよくない機体だ。特徴としては卵の尖った先を下に向け、丸太を球状の関節で幾つもくっつけたような腕と脚。
指は三本のマニュピレーターがあるだけ。
だけど……
「でけぇ……」
全長十メートルほどのBMとしては小柄だが、その巨体はまさに巨人だ。
見た目は不細工だ。だけど、これだけ大きい物体をゲームとはいえ乗り回すところを想像すると、心音が先ほどから激しく高鳴るのが分かる。
「くそっ、どうやったら乗れるんだ?どこか説明してくれる人は……」
あたりを見回すと、人だかりができている場所があった。どうやら他のプレイヤー達みたいだ。
近づいてみる。どのプレイヤーの見た目も黒のタンクトップに迷彩柄のズボン。丈夫そうなブーツだ。
男女に違いはない。
プレイヤー達の中心には髭もじゃのまさに軍曹って感じの親父が立っていた。ネームが頭上に表示されている、ということはNPCだな。
パパロス・ダイド。見た目はヒュームだ。
俺は話しかけてみることにした。
「あのぅ……」
クルリとこちらに向きを変える。
「がははははっ貴様も新しく来た新兵かぁっ!」
声でかっ、それに凄く生々しいぞ。これがデーターだなんて、俺はいつの間にか鳥肌が立っていた。
「よしっ、貴様も直ぐにこのNeuron スーツに着替えダンデリオンに搭乗し訓練を開始しろ!」
ポーンという電子音がして空中にメッセージが浮かび上がる。
『訓練用 Neuron スーツ(灰色)を手に入れた』
メッセージが点滅してその横にポーチの絵が浮かび上がっている。確かイベントリオープンだったか?
そう考えた瞬間、空中に六マスの箱をくっつけた様な物が浮かび上がった。
中には訓練用Nスーツ(灰)が一つだけ入っている。
少し迷ったがNスーツをクリックすると、俺の見た目は全身灰色のタイツの様なスーツに灰色のヘルメットを被っていた。
「ダセェ……」
俺がスーツのダサさに唖然としているとパパロスが有無を言わさず訓練開始を告げる。
「がははははっ着替えたようだな? それでは訓練開始だ。貴様の機体は右手方向に見えるダンデリオンだ、範囲五メートルまで近づき搭乗と念じるとコクピットからワイヤーが降りてくる。それを掴んで乗り込め!」
おおっ展開はやっ、こういうところはやっぱりゲームなんだな。
ダンデリオンとは先ほどまで俺が見ていた不細工な機体の事だ。
俺は急ぎ足でダンデリオンの真下に行く。
「搭乗!」
つい声がでてしまい、しかも叫んでいた。
うおっ、しまったすごく恥かしい。幸いイベント中の様で回りに気づかれる事がなかったのが救いか。
降りてくるワイヤーを掴むと、今度は上にするすると上がっていく。何か補正が掛っているのか、まったくバランスが崩れない、簡単に乗り込むことが出来た。
コクピットのパイロットシートに座ると自動にベルトで固定される。外せるのかな?とガチャガチャ動かしたがどうやら外れないみたいだ。
コクピットの中は右上にレーダーのような画面、真ん中に操縦桿のようなレバー、足元にはフットペダルがついている。左にも数個のボタンがついた用途の分からないレバーがあった。
「聞こえるか新兵! 聞こえたら貴様の正面やや左にある起動ボタンを押してみろ!」
パパロスの指示が聞こえる。これか?俺は言われたとおりにボタンを押してみる。すると微かな電子音と共に画面が外の光景を映し出す。
「おおっすげー三百六十度全部見えるんだ? これなんていうんだっけ、スフィアビュー?」
下を向けば地面が、上を向けば空が見える。
右から電子音が聞こえたのでそちらに顔を向けると、十センチ四方のウィンドウが開かれパパロスの顔が映し出されていた。
「ちゃんと聞こえたようだな」
コクピットの中はいまや多種多様な光で照りだされていた。
「ようしっ、それではこれから俺様が最低限の操作方法を貴様に叩き込んでやろう。先ずは機動サポートAIによるフルサポートでの前進だ、赤い光点のある場所まで歩かせてみろ」
歩かせるってどうするんだ?
「お前の着用しているスーツは、機体と繋がる事によってダイレクトに思考が伝わるようになっている。先ずは歩くことをイメージしてみろ。なぁにちゃんとサポートされるので簡単にできるぞ!」
パパロスの言葉が途切れると同時にダンデリオンの全体イメージがすぅと浮かび上がってくる。
何だこれは、物凄く鮮明だ。これがサポートってやつなのか?
俺はそのイメージ元にダンデリオンの歩く姿をなんとなく想像してみる。
すると、十トンは有りそうな巨体が赤い光に向かって歩いていくじゃないか!
「おぉっ……ぉぉぉおおお!」
微かな振動が伝わりダンデリオンが歩いているのが分かる。
そして、光点につくところで俺は止まれーと念じながら止まるイメージをすると、機体は俺の思ったとおりに止まってくれた。
「よぉっし、貴様新兵にしてはなかなかやるではないか!」
そっそうかな……はっ、NPCに褒められてついその気になっちまった。あまりにもリアルすぎてついNPCだってことを忘れてしまいそうになる。
「次は左九十度に向きを変えろ! ようし、次はバックだ! そうだ最後に右に九十度向きを変えろ!」
俺は次々と出される指示を順調にクリアしていく。この後も向きを変えずに左や右に移動を繰り返し基本の動きをマスターする事ができた。
「なかなかやるではないか! 次は武器を使っての攻撃だ。今から訓練用プログラムを流す、目の前に現れる敵は映像だが動きやパターンなどは本物と変わらない。それでは行くぞ!」
画面が乱れたと思ったら鉄の塊を無理やり蜘蛛の様な姿にした、ダンデリオンと同じぐらい大きな怪物が現れた。
こいつは……鉄でできているから蜘蛛の形をしているとはいえそれほど気持ち悪くはない。だけどその分無機質な嫌悪感が湧き上がった。
「こいつが俺たち人類の敵、プラント・パラサイトだ。こいつらの詳しい情報は今のお前では閲覧する事ができない。新兵はまず戦い方を覚えろってことだな! がははははっ」
うーん、そのうち色々分かってくるんだろう。今は先ず訓練を終わらせないとな。
「距離は百二十メートル、近距離ウエッポンの射程だ。先ずはショートレンジと念じてみろ。旨くいかないときは声をだすといいぞ」
俺はショートレンジと念じてみるがなんとなく旨くいきそうで旨くいかない。くそっ、仕方がない声をだしてみるか。
「ショートレンジ!」
すると一瞬ダンデリオンがアーム内蔵のマシンガンを構えるイメージが浮かび上がる、画面には十センチの白い射撃のスコープが現れていた。
「よしっ、その白いスコープにターゲットを収めロックと念じれば赤くなる。そのときに中央にあるレバーの射撃ボタンを押せばターゲットを狙い撃ちするはずだ。スコープは貴様の視線と連動している、ロックしたい敵を視線で追いかけてみろ」
言われたとおりにしてみる。確かに視線の動きと連動しているみたいだ。俺はスコープを動かし敵をロックする。こんどは念じるだけでスコープが赤くなった。
くらえっ!射撃ボタンを押して蜘蛛野朗を攻撃。するとダンデリオンが右手に内蔵したマシンガンを連射するイメージが浮かび上がる。
小さなマズルフラッシュがいくつも弾けターゲットに全弾命中。蜘蛛は断末魔の悲鳴をあげ崩れ落ちる。
「よくやった、次にミドルレンジとロングレンジを試してみろ」
「ミドルレンジ!」
俺が口にも出し念じてみると、画面のスコープが三センチにまで縮む。
「うわっ、ちっさ……」
これでロングレンジになるとどうなるんだ?
「ロングレンジ!」
三センチだったスコープが今度は小さな点になった。なにこれ、無理……
「よぅしっ、最後は近接戦だ! ゼロレンジと念じてみろ」
「ゼロレンジ!」
俺が声をだし念じると腰に挿してあるヒートロッドを取り出す。
画面には今まであったスコープがなくなっていた。
「いいか?近接戦はイメージが全てだ、敵に近づき武器を振るうイメージを持て。ではパラサイトを出すぞ」
パパロスの言葉が終わると同時に、また蜘蛛のパラサイトが現れる。
俺は機体を前進させて近づく。蜘蛛自体が赤くなる、どうやら近接範囲に入ったみたいだ。
俺は真正面からヒートロッドを振り下ろし蜘蛛に叩きつける。
ゲーム中のさらに機動兵器の中に居ても剣を振るう懐かしい感覚……
「ようし、よくやった! これでお前は基本を全てマスターした事になる。次はレノックス大佐のところに行け、基地の左端に副司令官室がある。お前の活躍を期待しているぞ! がははははっ」
―――【Loading】―――
訓練が終わりすぅと景色が暗くなるとLoadingの文字が浮き出て点滅をする。三度ほど点滅した後、どうやら基地の中に移動したらしい。
鏡のように磨かれた床と壁、正面と左右に通路が延びている。たしか、左の通路の先にれのんくず大佐とやらがいるんだっけ?
人名を覚えるのってにがてなんだよなー。
俺がなんて名前だったか思い出そうとしていると、午後六時を知らせるタイマー音が頭に響いた。
もう六時か・・・確か入ったのが三時だったからもう三時間経ったんだな。
俺は晩飯を食べる為にここでログアウトする事にした。
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