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戦争イベントまで後三日。
俺は今日も第三宙域の中心に来ていた。
【ウェパル】
異形の人魚、その名の由来はソロモン王七十二柱から取られている。
嵐を起こし船を沈め、幻で人を惑わす二十九の軍団を支配する侯爵。
宇宙という大海に解き放たれた悪魔。それが【ウェパル】だ。
宇宙では地上の時速とは計算が全く違うらしい第一宇宙速度といわれてもさっぱりだ。そこでBMOでは宇宙にでの機体速度は機動力のEからAで表示される。俺の【スワーロゥ】は【カブラカンスラスター】をつけているおかげで機動力評価はA+になっていた。
【ウェパル】がいる中心までここから一000メートル。
ほんの数秒で届く距離、深く息を吸い、そして吐く。
閉じた瞼を開き、【ウェパル】がいるであろう方向を見据える。
行く!
フットペダルを限界まで踏み込み、【高速機動Ⅱ】を最初から使い思考を加速させる。
知覚するスピードが減少する、数秒で半分の距離を過ぎ去ると【ウェパル】が動いた!
白い【スワーロゥ】とどす黒い【ウェパル】の高速戦闘が繰り広げられる。
直径二000メートルの空間を激しく動き回る。
戦闘状態に入ったことで【クイックアップⅡ】が発動し、今の知覚スピードは半分ほどだ。
しかし、ほんの少しミスしただけで機体が数百メートルは吹き飛んでしまう。
スピードはほぼ同じ、【ウェパル】のほうがやや速いか。
ミスなしでどうにか互角なのに相手は疲れるということが無い、あるときは相手を見失い後ろから貫かれ、またあるときは吹き飛んだ機体を立て直そうとした瞬間カギ爪にバラバラに引き裂かれ、更には戦闘開始した瞬間撃破されることすらあった。
【ウェパル】との対戦は今のところ零勝二十三敗で終わった。
◆ ◆ ◆ ◆
イベントまであと二日。
今日は【スワーロゥP】相手に近距離の熟練度上げに精を出す。
今のままじゃ【ウェパル】には勝てない。せめてラピスとのコンビだったら……
無いものねだりをしても仕方ない、それならばと熟練度200で覚える【瞬速移動】で更にスピードをあげて再挑戦だ。
エネルギーサーベルを外し両手にショットガンを構える。
【スワーロゥP】三機に囲まれているが【ウェパル】と比べるとまるで亀を相手にしている気分になる。
射程の百五十メートルに入ると近距離のスコープが表示される、ロックと念じて赤く染まる、がイメージを喚起している間にロックがはずれ逃げられる。
やっぱり俺は射撃が下手だな……【クイックドロウ】を使えば当てれる事はできるんだがCTが三十秒なので一分に二回しか使えない。
俺の近距離熟練度アップ作業は難航していた。
熟練度が200を越えた後で気がついたんだ、【スワーロゥP】以外の敵であげればよかったと。
◆ ◆ ◆ ◆
明日が戦争イベントだ、できれば今日中に【ウェパル】に勝ちたい。
近距離をどうにか200まであげ【瞬速移動】が使えるようになった、一00メートルのみだが最大速度を一・五倍にする事ができる。
このスキルもCTは三十秒に一回しか使えない。
三日目(もう二十三回負けているので)の正直だ、今日こそ勝つ!
そして、一昨日と同じように俺と【ウェパル】の高速戦闘が繰り広げられる。
宇宙での戦闘は地上よりも更にシビアな状態での戦闘となる。
とにかく宇宙で動くという事は全てにおいて速いのだ。空気抵抗やその他のあらゆる抵抗がない、または少ないという事はそれだけ地上よりも速く動くという事だ。
お互いが高速で動き回る戦闘ではもう見て行動していては遅すぎる。
感じるしかない、奴の動きを、攻撃の気配を。
【シックスセンス】が気配を伝える、おそらくコンマ数秒という反応速度で攻撃をかわし、反撃にでる。
かわし、かわされ、繰り返す。
すでに五時間は戦っている。何度大破しても挑戦し続けるうちに無駄な動きが削られていく。
いつの間にか時間の感覚がなくなっていき、意識が宇宙へと広がっていくような感覚を覚え始める。
それと同時に機体がまるで自分の体のように、いやそれ以上に思うどうりに動き始める。
俺は今不思議な感覚に襲われていた。まるでこの世界へ溶け込むような一体感が俺を包み込む。
右!
エネルギーサーベルを何も無い場所に振りぬくと、そこに移動した【ウェパル】の胴を切りつけた!
だが、流石にボスクラス、一撃では倒せない。
すでに【ウェパル】とは十二時間以上戦い続けている。
癖のような、ほんの僅かなパターン。普段の俺だったら気づけないほどの小さな隙を感じ取りカウンター気味に斬撃を打ち込んでいく。
一度の戦闘で使える時間は二分、それは全力で動いた時のSTバーの無くなるまでの時間。
動きを止めSTバーを回復するどころか、STポーションを使う隙すら【ウェパル】は与えてくれない。
残りあと二十秒。
右へなぎ払う、真下へ突く、【クイックドロウ】をつかいショットガンを撃つ。
斬り払い、かわし、また斬る。
【瞬速移動】で後ろに回りこみ、避ける軌道を先読みし斬り付ける
一撃、二撃、三撃と俺の攻撃をかわしきれなくなる【ウェパル】。残り八秒。
ヘッドを俺のエネルギーサーベルが捉え吹き飛ばす。あと五秒。
動きの止まった【ウェパル】を斬る、斬る、斬る、斬る!
「うおおぉぉぉっ!!」
渾身の突きがとうとう【ウェパル】のコクピットを突き破り、そこに潜んでいたパラサイトの核を貫いた!
『ギッグッ……ガッ!』
まるで人が演技をしているような、自分の敗北が信じられないとばかりに首を捻る。
そして一際激しいスパークを迸らせ、第三暗礁宙域の主、【ウェパル】は宇宙の塵へとなるべく爆発した。
「ッ! ……ハァハァハァ、 頭が だるい はぁ……」
今までに無いほどの疲労が襲い掛かってくる。倒したっという達成感よりも、早く帰って休みたいという脳の訴えを優先しドロップ品の回収をする。
【高純度のクリスタル】、【変質したクリスタル】そして【ウェパルジャマダハル】、この三つを拾って俺は要塞へと帰還した。
シンクロ率91%




