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「それで? 宇宙には上がれたの?」
「いや、そこで八時になって姉弟が落ちたからどうせなら一緒に上がろうて話になって」
「ふーん」
俺はいつものようにタクと昼食を学校の屋上で食べていた。
母親が朝から祭りがあるから弁当はなしだと訳の分からない事をいって五百円を渡され、今日はチョコロールに焼きそばパン、コーヒー牛乳でお腹を膨らませる。
「ところでさ、すごく気になってるんだけどラピスって女の人の名前だよね?」
「んあ? ああ、そうだ女だよ?」
「たしか自分の生体データーを使ってるっていってたけど、美人?」
「え? ああ、まぁそこそこじゃないかな?」
俺はついっと目を逸らして答える。しまった……たくは基本はいい奴なんだ。女関係さえ絡まなきゃ。
「うそだっ! ケイって嘘つく時すぐ目を逸らすからバレバレだよ! くそーっどうしていつもいつもケイばかりいい目にあうんだ中学生猫耳少女といい。ルックスなら断然僕のほうが上なのに!」
「おまっ……」
「僕なんてBMOの中ですら周りは男ばっかなのにっ、女性に話しかけると何故か逃げられるんだよぉぉぉおおお!」
それはお前が女性に話しかけるとき目が血走っていて鼻息が荒いからだよ……
「ケイっ僕と約束したよね、童貞は一緒に捨てる、抜け駆けはしないって」
「してねーよっ! 何時したんだよそんな約束」
「幼稚園の頃だよ!」
「おぼえてねーよっ! どんだけマセガキなんだよてめーはっ!」
そこでチャイムの音がなり助かったとばかりに逃げ出す。今日も学園は平和に過ぎていく。
Lapis―――
私、ケイジロウ、マーナ、ピスカの四人はポカーンとした顔で頭上を見上げていた。
私たちが今いる場所はメガフロートシティー、【リバイア】だ。
海の上に作り出したこの巨大な人口浮体都市はそれだけでも一見の価値はある。
でも、それだけじゃない、この都市の最大の特徴は目の前にある宇宙へと何処までも続く長大な建造物。【軌道エレベーター】があることだ。
「大きいわね」
「でかいな」
「大きいですね」
「すごーい、雲を突き破ってるよー!」
なんとも語彙表現の乏しい事しか口から出ない。それほど【軌道エレベーター】は大きかった。
静止軌道上の人工衛星まで三六000キロメートル。人や物資はもちろん、BMや戦艦等の部品などを宇宙へと送るための施設はバカなほど巨大だった。
横幅は端から端まで約二キロ、地上部は風などの影響を考えてかなり大きく作る必要があるみたい。
「うっし、さっそく宇宙に行こうぜ!」
「さんせーいさんせーい!」
「もう、ピスカ、そんなにはしゃがないの」
「えーと、先ずはジェナ中佐との会話ね。居場所は【軌道エレベーター】の中にある受付けにいるわ」
私たちは【軌道エレベーター】の中へと入っていく。入り口は普通の大きさの自動ドアだった。
搬入口はまた別の場所にあるみたい。
さて、私たちの今の服装はというと、実はまったく変わっていない。
私は真っ赤な軍服にケイジロウは真っ白な軍服。お互いがどちらも趣味が悪いと言い合っている。
マーナは落ち着いたベージュ色の上着にしろのズボン(軍服仕様)、ピスカは黄色の上着にしろのズボン。二色にしただけで印象は全然違う物になっていた。
……真っ赤って趣味悪くないわよね?
そして前回のミッションで手に入れたのが新しいNスーツなのだ。今までの灰色なんていうダサイ、タイツスーツではなく、滑らかな素材でできていて、肩や肘などに硬質ながら違和感なく曲がるパットのついた体にぴったりとフィットしたパイロットスーツなのよ。
私は勿論赤を、ケイジロウは白を選び、マーナとピスカの姉弟はどちらも淡いブルーをえらんでいる。
ヘルメットも流麗な曲線を描いた感じのいい形をしていて、割と気に入っている。
【軌道エレベーター】の受付けは、どこかの大企業の本社ビルのような雰囲気で、二人の受付け嬢の横にジェナ中佐が立っていた。
「ん、着たかLapis少尉」
そう、私たちは宇宙へと上がる最低条件の少尉へと昇格していたの。たった数日で少尉だなんて、さすがゲームね。
「歩きながら今後の事を話そう」
そういってコツコツと音をたて通路を奥へと進んでいく。そこから動かなくてもイベントムービーは最後まで見れるのだが、一緒に歩いたほうが雰囲気は出るというもの。
「私たちの次の任務は宇宙に上がりパラサイトの侵攻を阻止する。というのが建前の理由だ」
分かるな? といった感じの目線を送ってくる。
「私たちはあくまで首都防衛軍司令官所属特殊部隊だ、それを忘れるな。私は部隊編成や機体搬入手続きを終わらせてから宇宙へと上がる。宙でまた会おう」
そこでイベントが終わり、着いた場所は【軌道エレベーター】の中心、まさに宇宙への入り口だった。
「とうとう宇宙だな」
「そうね」
おたがいにやりと笑う。ケイジロウとの決着もあと四日、来週の月曜日につく。
あと四日……か。
「うわー、人が多いねー」
「百人はいるかもしれないね」
姉弟の言うとおり、久しぶりに大勢のプレイヤーを見た気がする。
「それより早く宇宙に行こうぜ」
「本当せっかちね、それじゃ行きましょうか」
「「はいっ」」
「りょーかいっ」
【軌道エレベーター】の中心にあるエレベーター部分の入り口に一つのポータルの輪が垂直に煌めいている。
私たち四人はPTを組んだままで入ったので、上に上がるのも一緒だ。
【軌道エレベーター】の中は数十人が一度に座れるほどの椅子が設置されていて、外を見ることができる強化クリスタルの窓がついていた。
「すごーい、どんどん地面が小さくなっていくよ!」
「どんだけ早いんだよこのエレベーター」
「たしか公式HPには現実と同じにすると時間がかかりすぎるので所要時間を五分に短縮した道程になっているみたいです」
「三六000キロメートルを五分って……」
雲をつきぬけ、大気圏も突破し、そして私たちは宇宙へと飛び出した。
誰も言葉を発しない。そこには銀の粉をまぶしたような漆黒の宇宙を彩る幾多の煌めき。
一部が砂漠化しているが、その多くは緑と青の美しい惑星セイフリッド。まるで一個の宝石のよう。
星の光がとても明るい。
本当の宇宙はこれほど明るくはないらしい、しかしBMOの宇宙は幾多の輝がこれでもかとばかりに自己主張をしており、その光の暴威はまるで私たちの目を焼き尽くさんとばかりに光り、輝き、煌めいていた。
ふと横を見やると、マーナの瞳から一筋の涙が零れ落ちていた。
「マーナ、泣いているの?」
「えっ? あれ? 私どうして……」
「別におかしいことじゃないわ、確かにこの光景は作り物でデーターの一部かもしれない。でも、今見ている光景の美しさは人が作り出した一つの芸術よ? 私たちは美しいものや素晴らしい体験をして、感動し、涙を流す事ができる生き物なの」
そっとマーナを抱きしめる。この感触や暖かさもデーターで再現されているだけ。でも、ここまで正確に再現された世界はもう偽者なんかじゃない、BMOはすでに、私たちのもう一つの世界になっていた。




