22
激しい銃撃とパラサイトどもの断末魔の叫びが広大な森林に響き渡る。
セイフリッドから西に百キロにある特別保護区域、そこに【ビショップ】型パラサイトが宙から落ちてきた。
今私たちは図体がでかくなり、素早く動けなくなった防衛軍本隊の代わりにこの地獄へと踏み込んでいる。
「中佐ぁ! ジーンの部隊が全滅しやした、残りは俺たちと、アクス隊に新入りどもだけですぜ!」
「くそっ、増援はどうなった!」
「だめでさー、あいつらこっちが全滅してもいいぐらいでいやがる」
「こんな時まで主導権争いか、あの不能どもが!」
「どうしやす?」
「アクス隊と新入りども、全員で固まるぞ、弾薬もクリスタルも推進剤すら残り少ない。最後の賭けにでるよ」
司令官所属特殊部隊はすでに二部隊が全滅している。五人一個小隊が五部隊。一個中隊で臨んだ作戦は、パラサイトの激しい抵抗にあい【ビショップ】の元にたどり着く事すら困難だった。
「いいかいお前達! 今から三個小隊固まってパラサイトどもの壁を突破するよ! 誰でもいい、【ビショップ】のところまでたどり着いた奴が腐った軟体動物をぶち殺せ!」
そういって激しくライフルを乱射しながら先頭を駆け抜けていく。
ジェナ中佐の搭乗する赤黒い色の【コンダードゥ改】、その後ろに副官の乗る色違いの【コンダードゥ】。そして複数の【ランセドル】がその後に続く。
Keizirou―――
そこでイベントムービーが終わり俺たち四人はミッション専用IDの中に入っていた。
「すごい迫力だったな今のムービーは」
「本当、まるで映画のワンシーンを体験した感じ」
「私なんて始めて入ったときは、パラサイトが跳びかかってくるたびに体がビクッてなりました」
俺たちが今のムービーのあそこがすごい、ここが迫力あったと言い合っているとピスカが驚きの事実を口にする。
「ねーねー、早くいこー。あんまり時間かけちゃうと中佐がやられて失敗になっちゃうよ?」
「「え?」」
ばっと揃ってマーナを見る。
「はっはい、ジェナ中佐がやられてしまうと失敗します」
それってやばいんじゃね?
「急ぐわよ」
ラピスが全速でIDを進みだす。それに続いてピスカが嬉しそうに蛇行してラピスを追い抜いていった。
「あの、そんなに急がなくてもNPCの機体は何故か物凄く頑丈ですから大丈夫ですよ?」
「そうなんだ……まぁラピスってせっかちだからな。文句を言われる前に俺たちもいこうか」
「あ、はいっ」
俺とマーナも直ぐにラピスに追いつく。するとラピスが「スピードのある機体に変えようかしら」と呟いていた。まぁ【ビャーレン】は機動力Eだしな……
途中襲い掛かってくる【ウッドゴーレム】や【アッシュモンキー】(とくに猿を念入りに)を排除しながらボスのいるポータルまで進む。
森林区域IDに比べたらまるで雑魚だ。誰一人中破すらせずボスまでたどり着いた。
「ラクショーだな」
「だねー」
俺とピスカがラクショーラクショーと機体で踊っていると、ラピスのキツイ一言が俺を突き刺す。
「ケイジロウ、あんたは毎回油断してきっつい一撃食らってるでしょう? いい加減学習しなさい! だからピスカに猿って言われんのよ」
「猿かんけいないだろ!」
「はいはい、とにかく油断しないの。それじゃ行きましょう」
「「はいっ」」
「くそー納得いかねー」
ポータルに入り込むと、そこには大きなクレーターがあり、その中心に食虫植物のようなパラサイトとジェナ中佐が戦っていた。
【アルラウネ】ボスの名前だ。
花のような形をした下半身に、うねうねと蠢く触手、先端には人の口のような物が付いている。そして人? と疑問に思ってしまうドロリとした物体が上半身としてくっついていた。
はっきり言って気持ち悪い……
「なぁ、俺あんまりゲームとかした事ないんだけど、アルラウネってもっと可愛らしい感じがするモンスターだったよな?」
たしか花の下半身に美少女の上半身とかじゃなかったっけ。
「私は遠距離だから……」
「あっあの、私も中距離でお願いします」
「僕も中距離で雑魚を倒しとくね!」
「おまえら……」
「「「がんばって」」」
「くそー、行けばいいんだろう行けば!」
フットペダルを踏み込み時速三百キロで【アルラウネ】に攻撃を仕掛ける。気持ちの悪い触手を必死になって避けながら時折、沸いて出てくる雑魚をラピスたち三人があっさりと倒していく。
【カブラカン】にくらべればどうって事のない強さだ。
ただ、【フィンリス】で一番戦いたくないボスNO.1であり、ここだけは殆どの人が手伝ってくれないミッションでもあった。
何度も何度もエネルギーサーベルで斬り付け、ようやく倒す事ができた。
ラピスは見るのも嫌でおざなりな援護しかしやがらない。
『シュゥゥゥゥゥゥゥゥ』
へたーと崩れ落ちる化け物。ドロップアイテムも巨大なクリスタルだけというしょぼさ。
今回は俺の精神がガリガリと削れる、ある意味最強のボスだった。




