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Keizirou―――
「くくくっ猿くくくっ」
「しつこいぞムーブ!」
「んなっ、あっあんたも大概しつこいでしょう!」
流石にしつこすぎるのでそろそろ俺の我慢も限界だ。俺とラピスがキーキー言い合っているとマーナが泣きそうな顔で仲裁してくる。
「あっあの、お二人ともやめてください、ほらピスカも謝って」
「? ごめんなさい?」
どうもピスカには自分が原因だとは分かっていないらしい。とはいえ、悪気があったわけでもないしこれ以上は不毛なだけだしな。
「ごめん、私も笑いすぎたわ」
「いや、俺も悪かった」
「よかった……」
マーナもほっと胸をなでおろす。しかし……
「あれー? もうやめちゃうのー?」
と不満顔が一つ。
「「「ピスカ!」」」
「ひゃっ、ごめんなさーい」
案外一番たちが悪いかもしれないな……
「さて、ボスか。いったいどんな奴がでてくるかな?」
「はいったら分かるわよ、いくわよ」
「はいっ」「はーい」
俺、ラピス、ピスカ、マーナとボスへと続くポータルに入り込む。
そこはあれほど沢山あった大木が殆どない、見晴らしのいい場所だった。
ズシン、ズシンとなにか巨大な物が近づいてくる音と振動。そして現れたのは人の生態データーを取り入れた巨大樹木で構成された巨人だった。
【カブラカン】
全長はおそらく六十メートルは下るまい、人としては異様な腕の長さでどちらかといえばゴリラに近い体型だ。
全身を木と葉っぱのような物で構成され、見た目的にはあまり強そうには見えない。
しかし、巨大というのはただそれだけで圧倒的な威圧感をもっている。
「皆、散開して!」
ラピスの号令で圧倒されていた意識を持ち直す。
ラピスは後ろにマーナが左、ピスカが右に散開、俺は勿論突っ込む!
「いくぞっ! 援護を頼む!」
「頼まれた!」
ラピスの正確な射撃が巨人の頭部を狙い撃ちする。
「マーナとピスカも下手に近づかないで、できるだけ遠間から射撃で牽制して!」
「「はいっ!」」
俺は蛇行しつつ狙いを絞らせないように足元へ一気に加速する。【カブラカン】の攻撃は単調で両手を交互に打ち下ろしてくるだけだ。
「こいつでかいだけだぞ」
威力はあるが遅いので軽々と避け反撃とばかりに斬り付ける。
「バカ、いつも油断すると痛い目にあってるでしょ!」
ラピスの言うとおりだ、毎回調子に乗ると反撃をくらっちまう、今回のように。
『BAOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
顔に当たる部分はまるでムンクの叫びのような目と口しかなく、ぽっかりとした丸い目の奥が赤く光ったと思えば、激しい咆哮と共に両手をでたらめに振り回してきた。
ゾクリとした瞬間、瞬時にスラスターを全開にして後ろに跳ぶ、四十メートルはあろう長い手を信じられないスピードで振り回され避けきれず左足に掠った。
ただそれだけで、左足は粉々に砕け散り、俺は二百メートル近く吹き飛ばされ地面に転がされる。
ビビビビッと激しい警告音。
今の一撃だけで左足だけでなく左腕もヒシャゲ使い物にならなくなった。
「うそだろっ、掠っただけだぞ!」
「けっケイジロウさん大丈夫ですか」
「にーちゃん」
「っ! 二人とも今は【カブラカン】に集中して!」
俺に止めとばかりに近づいてきた【カブラカン】に三人の集中砲火が突き刺さる。
意識は一番火力の高いラピスへと変わり俺の横を通り過ぎていく。
くそっ、後衛役のラピスに囮役をやらせてしまうなんて!
片手片足でも何とか立ってみせる、ふらつくが立つだけなら何とか。
スラスターは何とか無事だ、戦場を見るとラピスが必死に逃げ回っているのが見えた。
「ラピス、今行く」
「大丈夫なの?」
「おう、何とかなる」
「だったら早くしなさい!」
「りょーかいっ」
フットペダルを踏み込み【カブラカン】の頭へと飛翔する。
【高速飛行】
「おらぁぁぁあぁ!」
俺は【カブラカン】の頭周辺を跳びまわり隙あらば切りつける。
【高速飛行】と【高速機動】のダブルスキルは信じられない軌道を描く。【カブラカン】はまるでハエを追い払う人のような動作で俺を追い掛け回すが、速度が違う捕まりはしない。
ガリガリと減っていくSTバー、STポーションをCTごとに使い回復させるが減る量のほうが多く回復しきれない。
「一度下に下りる」
「分かったわ、二人ともケイジロウの援護をして」
「「はいっ」」
三人の激しい銃撃に阻まれ俺を追いかけることができず【カブラカン】の怒りは頂点に達した。
『BAOOOOOOOOOOOOO!!』
突如このフィールドでは数少ない巨木に手をかけると、三十メートルはある巨木を引っこ抜きやがった。
「うそっ」
「すげー、あれってぶんぶん振り回すのかな」
「ぴっピスカ、こわいこと言わないで」
実際はさらにえげつなかった、【カブラカン】は巨木を投げ飛ばしてきた!
グルングルンと回転しながら跳んでくる巨木、自機の約二倍ほどの物体がピスカを狙い撃ちした。
「うわっうわっぁぁあぁぁああ!」
避ける間もなく大破、爆発すらも巨木に押し潰される。
「「「ピスカ!」」」
「くそっ」
「ケイジロウ!」
「分かっている!」
STバーを回復させ先ほどと同じように飛翔する。頭上を旋回すると煩わしげに両手を振り回す。
殆どのパラサイトは頭部に当たる部分が弱点になっている。人の生態データーを取り入れたこの巨人もおそらく頭部は弱点になるんだろう。
その後も激しい攻防が続く、次に巨木投げをマーナが食らいリタイア。
俺とラピスの二人になり、さらに五分。STバーが回復しきれず途中で切れ、動きが鈍る。
【カブラカン】の手を避けきれず吹き飛ばされた。
残った右腕と右足も使い物にならなくなりダルマ状態になってしまう。
「すまん、スラスターもぶっ壊れた、動く事すらできない」
俺は観念して近づく【カブラカン】をみあげる。ラピスは最後まで諦めずに頭部にエネルギー弾を当てるがおそらく倒しきれない。
【カブラカン】だってかなりのダメージをうけているはずなんだ、その証拠に丸くぽっかりと穴があいただけのような口が、いまでは人間の耳に当たる部分まで裂けて頭部の半分を占めるほど大きくなっていた。
パラサイトの弱点、核が見えるほどに!
「ラピス! 口の中に核!」
瞬時に理解したラピスは核が見える場所、俺の真後ろに移動する。
両手を高々と上げて襲い来る【カブラカン】、点のような小さい核、激しく揺れる大地をものともせず、ラピスの一撃は、核を打ち抜いた!
【カブラカン】の動きが止まる……一瞬の静寂。そして、樹木でできた巨人は声もなく崩壊を始めた。
激しい崩壊の轟音、舞う深緑の葉。その光景は圧倒的で俺の心は達成感でいっぱいだった。
「倒したわね」
「ああ、倒したな」
「「クリアー!」」
まだ誰もクリアーしていないIDを俺たちが一番最初にクリアーした。これほど爽快な気分になれることはそう多くない。
巨人が崩れ落ちた跡には、巨大なクリスタルと【変質した神木】にレアクラスのショットガン。そして、外装パーツの【カブラカンスラスター】が落ちていた。
【カブラカン】はマヤ神話にでてくる「地震」の巨人から名前をとってみました。




