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Keizirou―――
森林区域IDに挑戦二日目、四時ごろにマーナ、ピスカ姉弟がログインして一番初めに出た言葉は武器を変えに一度首都に戻りたいだった。
昨日から今日にかけてネットなどで情報を収集し、どうすれば俺たちの役に立てるか考えた結論が近距離武器をショットガンに変えることに至ったらしい。
「昨日のお二人の動きをみて、私たちの役目はお二人のフォローに徹する事だと思ったんです」
「そんなに難しく考える事もないと思うんだけどな」
「そうね、今でも十分助かってるわよ?」
「でも僕もっと役に立って、そんでもっと旨くなりたいんだ」
二人とも真剣な目をして、ここは絶対に退かないぞっという気迫がにじみ出ている。
昨日の三人組相手にダメだしを食らってしゅんと落ち込んでいた態度とは雲泥の差だ。
「私たちどうしてもお二人の役に立ちたいんです」
「だって、また役に立たなかったら見捨てられるのはいやだもん」
「あなたたち……いいわ、思った通りにしなさい。でもね、一つだけ言わせて貰うと私はマーナもピスカも見捨てるとかそんな事は絶対にしないからね。わかった?」
「あっ……その、ごめんなさい」
「ごめんなさい……」
もうたまらないといった体で二人を掻き抱くラピス。
二人とも年齢が低い事で今までまともに相手にされなかったんだな。
それから四十分ほどで装備をメインをエネルギーライフル、サブをショットガンに変え、ピスカはエネルギーサーベルも追加して帰ってきた。
「僕も近接戦を鍛えるんだー!」
と張りきっている。俺の真似をしたいと言ってくれるのは嬉しいが、少しくすぐったい。
用意はととのったし、森林区域IDの攻略としゃれ込みますか。
IDに入って昨日全滅した所までかなりスムーズに進む事ができた。
マーナとピスカが選択したショットガンは狭い道程にはベストマッチしていて、昨日よりも確実にパラサイトの殲滅速度が上がった。
ショットガンの射程は百五十メートルと近距離武器の中でも一番短いが、広範囲に広がる散弾の命中率と攻撃力は高く、敵の足止めに大いに役立っていた。
そして、さらにすごいのがラピスの戦闘スタイルだ。昨日までは射撃姿勢をとってから撃っていたのに、今日は構えながら動き回り、逆に敵に向かって突撃する事すらあった。
それでいてほぼ全弾命中させてるのだから恐ろしい。
「ふふふっどう? 昨日あれからいろいろ試した末に編み出した戦法よ? 名ずけてムーブスナイパー!」
……ネーミングセンスがないよな?
ラピスがどや顔をこちらに向けていると、ピスカの声が通信に割り込んできた。
「ラピスねーちゃんすごいよ、突スナなんてできたんだね!」
「? ……突スナ?」
「そうだよ! 突撃するスナイパーで突スナだよ!」
「へっへ~、そうなんだ、突スナっていうんだー……」
だっだめだ……もう我慢できない!
「むっムービングスナイぶふうっ……くっくっくっ……だめだ、はっ腹が割れる……くっくっくっ」
「うっうっさい、笑うな!」
真っ赤になってムキになるほど俺の笑いの発作は激しくなる。
「こっこの、死ね! そして全て忘れてしまいなさい」
スナイパーライフルをこちらに構え乱射してくる。
「やっやめ、危ないからやめろってかさっきから【シックスセンス】が発動してるんだよ、当てるんじゃねー!」
照れ隠しするにも方法があるだろうって掠った!
俺は何とかラピスのご乱心から逃げ切る事ができた。たまにコクピットに照準がいってたぞ。
まだ少し顔を赤くしながら、ラピスが真面目な話に話題を変える。
「問題はここからね、昨日はここで十体のパラサイトが出てきたけど、あれって数匹ずつ持ってくることはできないかしら」
「多分無理だと思います、MOBの索敵範囲はかなり広範囲で一体を引っ張ると近くに居る敵は全て来ると思ったほうがいいです」
「なら、覚悟を決めていくしかないな」
「あんた大丈夫なの? 昨日見た限りだとかなりきつそうだったけど」
「大丈夫だ、俺だって秘策の一つはあるんだぜ?」
「ふーん、まっ期待しないで見ててあげる」
「上等だ! あっと言わせてやるよ」
目の前に【エボニースネーク】の団体、俺はエネルギーサーベルを構え集団のど真ん中に突っ込んだ。
「ピスカはケイジロウの後方の敵を牽制して、マーナはこちらに来る敵をお願い!」
ラピスは二人に指示を出しつつ、援護射撃を撃ってくる。相変わらずすごい命中率だな。
ピスカが近距離をショットガンに変えたので昨日よりも、敵を旨く牽制してくれているが、やはり数が多すぎる。
蛇独特の這いずる動きで四方から合計六匹のスネークが一斉に飛び掛ってくる。
ここだっ!
俺はフットペダルを一瞬踏み込み、スラスターをふかす。一瞬の推進力と樹木フレームによるしなりを生かした機体の動きを使って俺は左にある大木へとジャンプした。
ムーンサルト!
俺の機体は体操選手がするような弧を描く動きをしつつ大木へと飛ぶ。機体の足から大木へと接触し更にスラスターを使って逆の大木へとジャンプする。
途中にいるスネークたちににエネルギーサーベルで斬り付けることも忘れない。
そして地面に着地、こんな動きはシステムでサポートしてくれないのでバランスをとるのが難しい。
だけど、イメージする事さえできれば後は機体が変わりに動いてくれる。俺は四方八方と跳び続けた。
「ラスト一匹!」
ラピスのダブルショットで最後の【エボニースネーク】も撃破完了。約二十体の団体を俺たちはほぼ無傷で殲滅する事ができた。
さて、意見を聞こうじゃないか。
「ふっふっふっどうだ?」
「うーん、何考えて生きてるのか少し分からないけど、たしかに凄かったわよ」
「はい、あんなことができるだなんてケイジロウさんすごいです」
「だろう? 俺も最初は無理かな? ておもったけどやってみると以外にできるもんだった。なずけて……」
「にーちゃんすごいよ、木から木へぴょーんと跳んで、まるでお猿さんみたいだったよ!」
「さっ猿?」
「「ぶふっっ!!」」
「ちょっ、なにいうかなっ、何処が猿なんだよ!?」
「えー、だって【アッシュモンキー】も木から木へぴょーんって跳んでたよ?」
「ぶふぅっっ……もう……だめ! あはははははははっさっ猿あははははははっ」
「……ごっ……ごめんな……さい……がっがまん……できない、ぷふっふふふっ」
「ピスカ!」
「わわっ、なんで怒るんだよー」
それから二十分ほどラピスとマーナの笑いの発作がおさまるまで俺はピスカを追い回すのだった。




