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Lapis―――
ブリーフィングルームに向かう途中、そういえばまだお互いのハンドルネームさえ知らないという事に気がついた。
「ねぇ、あんたのハンドルネームはなんていうの? 私はLapisよ」
「そういやもう一週間は経つのに名乗ってすらいなかったな。俺はKeizirouだ」
「ふーんKeizirouね……さて、どうしよう」
思いつきでここまで来ちゃったけど、何にも思いつかないわね。
「どうしようと言われてもな」
うーん、どうして私はあの場で勝った気がしないなんて言っちゃったんだろう。ケイジロウの言うとおり勝ちは勝ちだったのに……
とにかく、過ぎた事は言ってもしょうがないわね。なにかいい方法はないかなー?
「あれ?」
「どうした?」
「ん、システムからなにかメッセージが着てる」
「あれ? 俺もだ」
『ステージⅩクリアおめでとうございます。クリア特典として【シックスセンス】のスキルが送られます。今後もBMOの世界をお楽しみください』
「ケイジロウも同じ文面?」
「みたいだな【シックスセンス】か、どんなスキルなんだ?」
「うーん、第六感? 直感の類だけど分からないわね」
二人でうんうん唸っていても始まらない。
「BMO掲示板でどんなスキルかさがしてみましょう」
「BMO掲示板?」
「そ、BMO内でしか見れないテスター専用の掲示板よ。基地のブリーフィングルームとか特定の場所でしか閲覧できない情報交換の場ってとこね」
「へー詳しいんだな」
「あんたが情報弱者過ぎるだけよ」
さてと、基地に人が殆どいなくなったから空いてるわね。スキル、スキル~と。
「うーん、何処にも【シックスセンス】なんてスキル載ってないわ」
「それってさ、シミュレーションを全部クリアしなきゃだめなんだろ? だったらまだ俺たちしかとってないのかもな」
「そうかも、なら【シックスセンス】は脇においときましょ。ほかに何か情報はっと」
ん? イベントのところにNewのマークが。えーと、『五月二十日から三日間、惑星国家間での戦争イベントを行います。皆さん一日でも速く宇宙へと上がり、イベントの協力をお願いします』
「これよっこれっ! このイベントで最後の決着をつけるわよ!」
「何々? えーと、宇宙での戦争イベントを行います? 個人又はPTでの成績上位者には豪華プレゼント? 成績上位者ってあるぐらいだからなにか点数とかつきそうだな」
「そういうこと、時間も一時間の長丁場だから今度こそ納得の行く決着をつけれるわ」
「だな、それで宇宙にはどうやって行くんだ?」
「え?……」
あれ? どうやって行くんだろう。
Keizirou―――
耳まで真っ赤にして明後日の方に目を逸らしやがった。
「はぁ……まぁそのBMO掲示板とかにのってるんだろう?」
「うっそっそうね、あと公式ホームページにも載ってるかも」
俺たちがあーだこーだと言い合っていると「ねえ、君達」と声をかけられた。
振り向くとそこには、美中年といった容姿の髭が似合っているタレ耳のワイルディーがにこやかに離しかけてきた。
「なんっすか?」
「君達ここでまだ初期Nスーツってことは、時間があまり取れなかったかキャラを作り直したんだよね? 今白で大規模ギルドを作ろうとしているんだけどよければ君達も参加しないかい?」
「いやおれた……」
「ええ、そうなんです。私たち兄弟でテスターに当選したんですが、家の用事や引越しに時間をとられて。つい最近始めたばかりなんです」
んなっ、一瞬にして別人のようにキャラが変わったぞ……
「やっやっぱりそうなんだ、 だったらうちのギルドにおいでよ。やっぱり人は多いほうがなにかと便利だし、僕が色々教えてあげるよ」
うわー、この美中年中身は俺らと歳変わらないかも。リンゴみたいな顔になって必死にLapisを勧誘しだしたぞ。
しかしだ、それよりもLapisの変わりよう……本性を知らなかったら俺も向こう側になってたかもしれないな。
「ごめんなさい、 今弟といけるところまでは二人で行こうと話しあっていた所なんです」
誰が弟だ、うわっがっくりと落ち込んでるぞ。まぁ見た目深窓の令嬢でうそ臭さがしないからな。
存在感がちがう、そんな美少女とお近づきになれるかも知れないんだ必死にもなるか。
「そっそれじゃーせめてフレンド登録しないかい? 大丈夫僕からはメールも一切送らないから。何かあれば削除してくれてもいいし」
「そうですか? それではお願いします」
おー、まさに飛び上がらんばかりの嬉しそうな顔。
美中年の名前はKarisuといってすでに中尉になっている白のトップクラスプレイヤーらしい。
色々なことを知っていて、ラピスから搾り取れるだけ情報を搾り取られていた。哀れなやつ。
「あっあと弟君さ、種族【ドラゴニュート】にしたみたいだけどできれば変えたほうがいいよ」
「? どうして?」
「うーん、【ドラゴニュート】は近接と近距離で、なんとか中距離が使えるぐらいでしょ? BMOって射撃武器がスタンダードで近距離まで行く間に蜂の巣にされちゃうんだよ。特に白は耐久が異常に低い機体ばかりだからさ。【ドラゴニュート】でやってるとPTとかも今じゃまともに入れてもらえないよ」
そうか? そうかも……
「じゃぁGMの募集もあるし僕はもういくね。メール待ってるから」
「はい、それでは失礼します」
ぺこりと礼儀正しくお辞儀をする。一応俺も真似をした。
「さっいくわよ」
ラピスが外にでるので慌てて追いかける。
「うっうーん? 同じ男としてあいつが哀れでしょうがないぞ」
「なにいってんのよ、最初はギルドの勧誘だったけど最後のほうは完全にナンパじゃない」
不機嫌になって怒り出す。どうやらああいう手合いは嫌いらしい。
「それで? どこにいくんだ?」
「ん、大佐の所。宇宙に上がるにはまず少尉にならないとだめみたい」
「ていうことはメインミッションをまずこなさないと駄目ってことか」
「そういうこと。どうする? このままいく? それとも分かれる?」
「ん? このまま行こうぜ」
「そっそう? まあ、あんたが一緒に行きたいっていうなら行ってあげてもいいわよ」
「あんまりゲームはしたことないんだけど、こういうのってソロだと厳しいんだろう? なら先ずは二人でクリアする事を目指そうぜ。勝負は宇宙に上がってからってことで」
「OK、それじゃまずは休戦ね。フレンド登録しておきましょ」
「了解」
俺はラピスとフレンド登録する。なにげに初フレンドで嬉しかったりする。
少尉になるには後二つ階級を上げる必要がある。まずは准尉そして少尉だ。
副司令官のレノックス大佐のところに行くと、新しいイベントが始まった。
「む? 丁度いいところに来たKeizirou曹長。実は基地から北に二00キロの場所にあるアトネス鉱山から通信が途絶えたという報告が上がってきた」
大佐がそう話したとき、シュッと扉が開く音がして一人の厳ついワイルディーが入ってきた……熊か?
「失礼します! ネイハム・ポートマン少尉であります」
「丁度いい、Keizirouはネイハム少尉の小隊と共にアトネス鉱山に何があったか至急調べにいってくれ」
「君がKeizirou曹長か、噂は聞いているぞ! なかなか有望なパイロットらしいな、今回の調査でも期待しているぞ!」
そういって部屋をでていくクマ。ムービーもそこで終わった。
「なかなか有望なパイロットらしい」
「私も言われたわよ?」
「あーやっぱり皆言われてるんだな」
「そんなもんでしょ。それよりアトネス鉱山にいくわよ」
「了解っ」




