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「白と黒、天使と堕天使、鳩と鴉」

二人が去ったあと、沙奈がジト目で夢矢をにらんだ

「なんだ沙奈」

「いいんですか?行かせちゃって・・・もっと大事な話があったんじゃないんですか?」

「いや、生徒会の仕事はほとんど言ったが・・・?」

「生徒会じゃなくてこの学校のことよ、表の神騎と「裏」の神騎、生徒会に入ったからには知っておいた方がよかったんじゃないの?」

「だからそんことは明日に・・・・・・・あ!寮長か!」

夢矢はしまったと言わんばかりの表情で頭を抱えた。

「寮長は分かりやすい「裏」の人間でしょ?きっとあの二人動揺どころじゃすまないわよ?」

「むぅ・・・確かに「アレ」を見たら大抵のやつは気が動転してしまうからな・・・仕方ない、あのバカ姉妹に連絡して伝えるしかないな」

夢矢は自身の携帯を取り出すととある人物に電話をかけた。


知らない間に空は夕日色に染まり、カラスの鳴き声がどこからともなく聞こえてきた。

生徒会に行くまでの道のりと生徒会内での長時間に渡る説明のせいで大分時間が経過してしまったらしい。

俺と桜は今日何度も世話になっている若干分かりにくい校内の地図を見ながら一年の寮を目指していた、沙奈が屋上で行った方が数倍早くつくと言ったがすぐさま断った、さすがに体力の限界である。

大分遠回りになってしまうが安全な道を選ぶのが懸命な判断だろう。

桜とはすぐに意見が一致したため俺達は普通に行くことにした。

この神騎高校は校舎と大分離れたところに寮があり、いくまでに時間がかかってしまう。

そのため神騎専用のバスがいつも稼働しているらしいのだが生憎今日は全て終了、結局歩いて行くことになった。

「はぁ、バスのありがたみがよく分かるな」

屋上をジャンプし着地した際の衝撃や助走の際の全力疾走のせいで先程から足が妙に重く感じる。

「そうですね、桜ももう足パンパンですよ、寮までまだ遠いんですか?」

「いや・・・そろそろ「鴉の森」とかいう森が見えてくるはずだ、そこにあるらしいぞ?」

「なんですか「鴉の森」って?」

「俺が知るかよ・・・・・・っと、見えたぞ」

前方を見つめると視線いっぱいの大きな森が広がっていた。

まるでおとぎ話に出てくるような森そのものだ。

「森の中に生徒の寮があるなんて変わってますねー」

「確かに・・・何でだろうな?」

色々と疑問を抱きながらも俺と桜は歩みを進めた。

てっきり森の中だから少なからず迷うと思ったが所々親切に寮までの道を教えてくれる案内板があったためスムーズに行くことができた。

「ここ・・・か」

森のなかに大胆に立てられた巨大な建造物、その大きさは校舎に引きを取らないほど。

キレイな白色でできた様式デザインのそれはどこか遠い国の、それこそおとぎ話に出てくるお姫様が住んでいるような豪華さだ。

きっと中も素晴らしいに違いない。

しかしまずは一年の寮長を探し、空いてる部屋まで案内してもらわねばならない。

早く中に入りたい気持ちを押さえつつ俺と桜は周囲を捜索することにした。

「確か寮の近くの小さな小屋にいるとか言ってたよな?」

「小屋小屋・・・・・あ!あれじゃないですか?」

桜が指差した先には煙突つきの小さな小屋があった、木で構築された型に赤い三角屋根、所々見受けられる小さな窓、これまたおとぎ話に出てきてもなんの違和感もない。

隣の寮と比べるとひどいものである。

特に他に小屋らしきものは見つけられなかったためこの小屋で間違いはないだろう。

ドアの前まで行き、コンコンと軽く三回ドアを叩いた。

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・?」

念のためもう一度、先程より強めに叩いたがまるで反応がない。

「留守ですかね?」

「いや、部屋の電気はついてるし鍵だって・・・開いてるぞ?」

「じゃあ自由にお入り下さいってことじゃないですか?」

「そうか・・・」

俺は少しためらいながらもドアノブに手をかけるとそっとドアを開いた

「失礼しま・・・」

「エルンセルトアルカンルデフィースユベルマッカンナーリグレルスキデルサングライトニールエラベドレスクアルバインシュタインクラリウスアルガバイア・・・」

そこには二人の人物が立っていた、性別は分からない

二人で一緒に謎の言葉を一瞬の誤差なく発している、しかしそれだけではない謎の二人の中心に魔方陣のようなものが形成され轟音とともに突風が吹き荒れていた


バタン


思わず俺はドアを閉めた

なんだなんだなんだなんだ??

明らかに現実味のない景色だった、こういうの何て言うんだったっけ?俺の記憶が正しければ今のは・・・黒魔術?

「・・・疲れてるんだよな、きっと」

自分がおかしな解釈をしてしまう前に一度心を整理する。

「そ、そうですよ!疲れてるだけですよ!」

桜も同じようで安心した。そうさ、ただの見間違いさ。

「じゃあ、もう一回・・・・失礼しま」

「「エンセントルバビロニアクルシアンベロトーチカアインフォルカスラミアントヒルディアンベルセカールアンドルキライカシームラスニラフカエンデスビル!!!!!!」」

そこにあったのは先程となんら変わりない光景、さらに突風は竜巻に変わり室内のはずなのに紫色の雷鳴が走っている。

もはや呆然と口を開けることしかできない俺と桜。

「くぅううう!!ぐぅ・・・!ああああぁっぁぁぁあ!!」

「うぁ、うぁぁあああああ!!」

やがて二人の人物は苦しみにあふれた悲鳴をあげた

みるみるうちに二人の背中から天使のような羽が・・・!


バタンっ!!


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

思わず咄嗟にドアを閉めてしまった。なんというか本能的に・・・色々考える前に体が動いていた。

「な・・・なんですか今の・・・・・?や、やっぱり黒魔術・・・!?」

桜がガタガタ震えながら俺の制服の裾をぎゅっと握ってきた。俺でさえビビったのだ、桜がビビらないわけがない。

「そんなバカなことあるか・・・!きっと何かの見間違いだ!」

心の底から先程見た景色を否定したかったが、既に二度に渡ってあの非科学的光景を目の当たりにしているのだ。もはや言葉だけで飾っても無駄なのかもしれない。

そうと分かればもう逃げるのはやめてこの現実を受け入れた方が早い。

どっちみち寮長先生に会わなければ住む場所を確保できない。

俺は一度しっかりと深呼吸をすると再びドアノブに手をかけた。

「ま、また入るんですかぁ?」

「寮長の小屋がここなら行くしかないだろ」

「だ、ダメですよー!!死んじゃいますよー!!」

大袈裟な・・・と言いたいところだが正直桜の言葉が否定できない。

もしかしたら・・・俺死ぬかも。

「・・・じ、上等だ!やってやるよ!!」

考えても仕方がない!

そう言って俺はドアを壊す勢いで開けた。

しかしそこには・・・

「・・・・・あ、あれ?」

先程の黒魔術の儀式場から一変、普通の空間がそこにあった。

木製のテーブルにイス、壁にかけられた時計に大きなタンス。

そしてキョトンとした顔でこちらを見つめている少女が二人。

先程の二人だ、どちらも無駄に袖の長い外国の貴族のような、いや、簡単に言えば魔術師のような格好をしている。

二人とも髪型は同じだが一方は黒髪、一方は金髪、そして服飾も黒髪が黒、金髪は白とわずかな違いはある

「あの~・・・どちら様でしょうか?」

まず始めに口を開いたのは金髪の方だ、黒髪の方は半開きの目でこちらをじっと見つめている。

しかしこの状況を見てようやく理解した。

先程の黒魔術(?)は全てただの見間違いだったのだ。

激しい安堵が口からこぼれた、どうやら桜も同じようだ。

「いや、すいません・・・さっきここのドア開けたらあなた方が変な呪文を唱えて羽がはえてきたみたいに見えたんですけど・・・見間違いだったんですね」

「変な呪文?」

「・・・羽・・・?」

交互に二人は言葉を発すると俺達に近づいてきた。

「羽というのはもしかして・・・」

「・・・これのこと・・・・・・・?」

刹那、二人の背中からフワリとそれぞれ黒い羽と白い羽が広がった

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「「ぎゃああああああああああ!!」」

思わず俺と桜は叫びをあげると小屋から出て逃げようとした、がしかし。

「えぇ!?」

小屋から出るとそこには無数の鴉が俺たちを阻むようにして森中を飛び回っていた。

逃げ場がない・・・考えてみると逃げる明確な理由はないが。

「・・・・・・その子達みんな私の友達・・・・・黒い羽・・・鳩が天使なら・・・鴉はまさに堕天使・・・」

ゆっくりと後ろから黒髪の方の少女が小屋から出てきた。

その背中には依然として真っ黒な羽が存在している、まさに鴉のような黒い羽が。

「・・・・・・西院 鴉矢祢(せいいん あやね)二つ名は「一年寮の番人鴉」・・・・・よろしくね・・・・・・」

表情ひとつ変えない鴉矢祢さん(年上?)は鴉達を見上げるとピィっと小さな音で口笛を吹いた、すると、どく気配が全くなかった鴉達が一斉に飛び立ち十秒もたたないうちにその姿を消してしまった。

「相変わらず鴉矢祢の言うことしか聞かないんですよねーあの鴉さん達は」

鴉矢祢さんの背後から現れたのはもう一人の金髪の少女だ。

常に無表情の鴉矢祢さんと違ってこちらは妙にニコニコしている。

しかもなぜかこっちは片方の羽が一回り小さい気がする。

「私は西院 奈鳩(せいいん なはと)二つ名は「一年寮の平和鳩」で通っております♪・・・ちなみに私たち」

西院姉妹は手を取り合うとお互いに頬をくっつけた。

「「とっても仲良しです♪」」

「なのですよねー♪鴉矢祢♪」

「・・・・・・・・・はい・・・・姉様」

二人の嬉しさに呼応するかのように背中の羽がパタパタと揺れる。

「えっと・・・じゃあ俺たちがさっき見たのは・・・」

「残念ですが全て現実です♪私たちは日々魔術の研究をしてるんですよ♪ねー♪鴉矢祢♪」

「・・・魔術に対価は付き物・・・・・魔術を使ったあとはいっつも羽が生えてくる・・・最近では自由に出せたり引っ込めたりできるようになってきてる・・・・・・ですよね・・・姉様」

「そうですよー♪よくできましたさすがは我が妹!今日も不気味なかわいさが漂っていていいよー♪♪」

奈鳩さんはキャーキャー言いながら鴉矢祢さんの頬をスリスリと頬でなでまわしギュッと体にも抱きついている。

鬱陶しい行いに見えるがなぜか鴉矢祢さんはとても嬉しそうだ、無表情なのに顔がとても赤くなっているため嬉しさが伝わってくる。

「・・・・・・・・」

しかし俺は未だにこの現実を受けいられずにいた。

魔術?天使と堕天使?羽?信じろと言う方が無理だが現に俺の目の前に本物がいるのだ。

「えっと・・・」

「はいはいはーい♪生徒会のお二人ですよねー♪会長さんからお話は伺っておりますよー♪鴉矢祢!」

「・・・はい・・・姉様」

そう言って鴉矢祢さんが取り出したのは携帯、あれ?普通だ

「空いている部屋は二階の304号室だけ・・・・他は空いてない」

「ということなんでご案内いたしますねー♪ついてきてください♪」


豪華な一年の寮に入り、綺麗な領内を言われるままについていってはいるものの、寮長姉妹の羽が気になって仕方がなく、周りに微塵の興味も示せなくなっている。

・・・作り物・・・にしては動きが生々しすぎる、やはり本物の羽なのだろうか・・・

「不思議に思ってます?この羽」

「そりゃあ、まあ不思議には思いますよ・・・本物なんですか?」

「・・・・・・これは本物・・・」

鴉矢祢さんが奈鳩さんの意見を肯定するかのように言うとフワリと羽を一度羽ばたかせ「宙に浮いた」

決められたテンポで揺れる羽、地面から足が離れているのに立っている。

この時疑惑は確信へと変わった、本物なのだ。

「・・・・・・・信じる・・・?」

「信じます・・・信じますとも」

夢・・・か?夢と思い込むか現実として素直に受け入れるか・・・

「桜・・・お前大丈夫か?」

「これが嘘か本当かどうかなんてどうでもいいんです・・・羽の生えた美女!絵本でしか読んだことなかったのにそれが現実に!!桜嬉しいです!この寮だって絵本のお城みたいな感じですし!幸せです!幼い頃絵本の世界に入りたいとどれほど思ったことか・・・!」

全然大丈夫そうだ・・・・・・むしろテンションMAXと言ったところか。

「非現実的なことを信じない、それは人間として当たり前のこと!ですがいつまでも突きつけられた現実から目をそらすのはいけないんじゃないですか!?今目の前にある世界を受け入れるんです!!」

「う・・・!・・・確かに」

説得力は無駄にあるんだよなこいつ。

「どうやら信じてもらえたようですねー♪良かった良かった♪」

純粋な笑顔で笑う奈鳩さん、その隣で鴉矢祢さんもこくこくとうなずいている。

確かに・・・羽があるからなんなんだ?俺が死ぬわけでも傷つくわけでもないのだ、ただいる、それだけのことだ。

「何かすいません・・・」

「いいんですよ♪ねぇー鴉矢祢♪」

「・・・・・だってあなたは「表」の人間・・・「裏」の私たちを見て驚くのは必然・・・」

「・・・表?裏?」

「そのことは生徒会長さんから聞いてくださいねー♪あ、つきましたよここが304号室ですー♪」

歩みを止めると304と書かれた木の札がかかっているドアがあった。

ここが一年間世話になる部屋だと思うと何だか緊張する。

「部屋は男二人女二人の四人部屋です、ベッドとかも4つあるので仲良く使ってくださいね♪詳しいことはこれに書いてあるので♪」

奈鳩さんはそっと俺にホッチキスで止めた薄い紙束を渡した。

そこにはとても綺麗な字で「寮生活の掟」と書かれている、マニュアル本みたいなものか・・・

「部屋の鍵は先に来た人に渡しておいたので挨拶がてらに確認してくださいね♪鍵なくしたら殺しちゃうぞ♪」

「・・・・・・ちゃうぞ・・・」

奈鳩さんに呼応するように鴉矢祢さんも言った。

殺意のないただの冗談だろうが、なぜか恐ろしいほど寒気が立った。

「じゃあごゆっくりどうぞー♪」

「・・・・・・・ゆっくりしていってね・・・」

天使と堕天使に見送られ俺と桜は部屋に入った。


今思えばこの二人が俺の今後の無茶苦茶な学校生活を送る始まりだったのかもしれない・・・



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