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「ツンデレ副会長見参!」

「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

「ぬぅがぁぁぁぁぁぁぁああぁ!!」

激しい轟音とともに俺と夢矢は神騎高校へ続く一本道をかけていた。

我ながら気持ち悪い奇声だと思う、仕方ないだろ?

極限状態に陥った人間は内なるパワーを呼び覚ます的なことをよく言うだろう、アニメとかで何かが覚醒する時「はぁぁぁぁ!!」とか言うあれだ。

まぁ俺は髪の色は金色になったりしないけど、叫ぶと何か力が込み上げてくるのはどこの世界でも同じことだ。

声はいいとして俺的には今どういう表情になっているのかが気になる。

顔芸になってなきゃいいが・・・。

「優人!見えたぞ!」

前方を見つめると視界のほとんどを奪うほどの巨大な建造物が待ち構えていた。

その建物の屋上から巨大な旗が掲げられている。天使を模したような紋章が描かれたその旗は間違いなく神騎高校のものだった。

ついにやって来たのだ、神騎高校に!!

「何をボーっとしてるんだハゲ男!急ぐぞ!!」

俺の感動は一瞬にして夢矢に破壊された・・・ていうかさりげなく今ハゲとか言わなかったか!?

しかし夢矢の言う通り、状況的には感動に浸っている暇はなく、一刻も早く学校に到着しなくてはならない。

俺と夢矢は再び極限の奇声をあげながら走り出した。しかし。

「おい夢矢!!」

「ハゲ男って言ってごめん!!」

「いやそのことじゃねぇよ!いや、それもそうなんだけどそうじゃなくて!」

「じゃあ何だ!?」

「減速しなくていいのか!?」

「ええ!?遠足!?」

「減速だよ!!このまんまのスピードで行ったら絶対事故るぞ!?」

そうこう言っているうちに俺たちの自転車は神騎高校の校門を一瞬で通り抜けた。さすが国内最大級の高校の校庭、超広い。

端から端まで1キロくらいはあるだろう。

とはいえ安心はできない、適当なタイミングでゆっくり減速を始めなければ確実に壁に激突する。入学初日の思い出を病院で過ごすわけには行かない。

「大丈夫だ優人!このまま行ける!!」

夢矢が予想外の言葉を発した。馬鹿かこいつは!

「何を根拠にそんなこと言えんだよ!!」

「あいつが止めてくれるはずだ・・・!」

あいつ・・・?

とりあえず夢矢の言う通り、減速せずに校庭を突っ走っていると前方に小さな人影が見えた。場所的に俺達の真正面だ。

「お、おい!誰かいるぞ!?危ないんじゃないか!?」

「心配するな、あいつなら大丈夫だ。むしろ危ないのは私達の方だ」

「・・・・・・は?」

一瞬夢矢の言っていることが分からなかった。しかし夢矢の何かを覚悟するような表情を見た瞬間それが嘘でないことがわかった。

「優人、一言だけ言っておく・・・死ぬほど痛いぞ」

え?何?何が起こんの?

「沙奈ぁぁ!こぉぉい!!」

夢矢が前方、おそらくあの人影に向かって大声で叫んだ。

俺は訳のわからないまま夢矢の隣をキープしつつ人影に突進していく。

段々と人影の姿がハッキリしてきた。

女の子だ。神騎高校の制服を着ているが俺達より少し小柄な体型をしている。地面すれすれまで伸びている真っ赤な髪が実に印象的だ。

沙奈と呼ばれる少女は夢矢の呼び掛けに少し顔をあげるといきなりその場でかがみこんだ。俺との距離わずか10メートル弱。ぶつかる!

そう思ったときには彼女の姿はなかった。

(え!?)

消えたと思ったのは彼女が跳んでいたからである。

先ほどかがみこんだのは高くジャンプするためだったのだ。

そして、彼女が跳んだと気付いた時には彼女のスポーツシューズのつま先が俺の顔面にめり込んでいた。

ゴキンッ

超嫌な音がした。隣の夢矢も同じ状況だった。

そう、彼女は跳んだ瞬間空中で開脚し、そのつま先を俺達の顔面にぶつけたのだ。

勢いではこちらが勝っていたはずなのに、俺は一回転しながら宙を舞うとそのまま地面に頭から落ちた。

ガシャーンッ

少し向こうで二台の自転車が転倒する音が聞こえた。

「ぐ・・・いってぇ・・・!」

歯も折れてなければ、鼻血さえも出ていなかった自分の顔面を実に尊敬するよ。

「お、おい夢矢!大丈夫か!?」

「フン、この程度・・・当たったとしてもどうと言うことはない!」

「鼻血でてんぞ?」

「超痛いぞ・・・」

夢矢はポケットからティッシュを取り出すと無造作に鼻に突っ込んだ。

「随分とタフなのねあんた」

声をかけてきたのは夢矢ではなく沙奈とかいう少女だ。

今の事件の完ぺきな容疑者だ。

「お前、いきなり何すんだ!」

「何って・・・こいって言われたから行っただけよ。というかいつものことだし」

いつものことなの!?

「それより・・・あんた一年よね?二年の先輩に向かって何すんだはないんじゃないの?」

「は?二年?・・・・・・誰が?」

「あたしに決まってんでしょ!!そんなこともわかんないのあんた!二年BーC三組一九番藤村沙奈!生徒会副会長!学校じゃあたしの名前を知らない生徒はいないわ!それなのにあんたは!」

せ、先輩だったのかこの人・・・俺より背が低いからてっきり・・・。

「え・・・っと、すみませんでした」

「う・・・ん・・・そ、その・・・あ、あんたがいいなら別にため口でも、いいわよ?」

えーなにこの反応?

「ハッハッハ、相変わらず沙奈はツンデレだなぁ」

軽快に笑いながら夢矢が言った。

ああ、ツンデレってこんななのか、初めて見たよ。

「ツ、ツンデレじゃないわよ別に!勘違いしないでよね!?」

「ああー、はい」

「ため口!!」

「あ、ああ」

「ところで沙奈、お前がここにいるってことはまだ私達は遅刻じゃないということだな?」

「それはそうだけど、さすがにもう猶予はないわよ?」

「ち、仕方ない・・・こうなったら自転車で体育館に突貫を・・・!」

「それは無理よ、さっき私があんたら蹴った時自転車の前輪に針で穴開けといたから」

「「何してくれるんだお前!!」」

「帰りもあんなことされちゃたまんないもの、とにかく今はもう走って体育館に滑り込むしかないわね」

「うをぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

また夢矢が俺の視界から消えた。あいつ走るのも速いな・・・。

「ちょ、ちょっと!・・・ああもう!あの人はいつもいつも!」

呆れたような表情で沙奈は夢矢の後を追うように走り出した。

「お、おい!俺をおいていかないでくれよ!!」

俺も負けじと二人に続いた。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ふぅ」

もはややけくそ感覚で体育館へダッシュした俺だったがどうやらそれが結果的にいい方に転んだらしく、何とか始業式に間に合った。

ちなみにこの神騎高校、国内最大規模の学校のため生徒の数も無論国内最大人数だ。

確か・・・新入生だけでも二千人はいるとかいないとか。とにかくすごいのだ。

しかしそんなものだから始業式などの正式な儀式の時にその人数を体育館に入れることは不可能なため、体育館は合計で十館以上あるらしい。

ちなみに大きさ的には普通の高校の体育館とは比べ物にならない。

俺がついたときには長蛇の列が視界に広がっていた。まるで軍隊だ。

神騎高校は制服の肩の模様で何年生かを区別できるようになっていて一年は天使、二年はグリフォン、三年は白竜、簡単にいえば三年に近づくにつれどんどんパワーアップしていくのだ。

並んでいる生徒の肩を見るとほとんど天使の模様だったため俺は息を落ち着けるととりあえず適当な列の最後尾に並んだ。

特にクラス分けもされてないから適当に並んでも大丈夫だろう。

それにしても一体何列並んでるんだ?余裕で壇上が見えないぞ?

「それではこれより第63回、神騎高校始業式を行います」

どこからともなく聞こえてきたアナウンスに俺は身を強張らせた。

やっぱ妙に緊張するよなこういうのって・・・。

「それではまず始めに生徒会から新入生にあいさつです、生徒会副会長藤村沙奈さん、お願いします」

アナウンスの言葉が終わると体育館のあちこちから巨大なモニターが姿を現した。映しているのはもちろん壇上だ。なるほどこうやって壇上を見ることができるのか・・・高性能だな。

しばらくするとモニターに小柄な赤髪の少女、藤村沙奈が姿を現した。

「見て、あれが神騎高校噂の美人副会長藤村沙奈様よ」

「ああ、何てかわいらしい・・・抱き締めたいわ私!!」

「いいなぁ・・・告白したら彼女になってくんないかなぁ・・・」

「馬鹿かお前、あんなかわいいのに彼氏いないわけないだろ?やめとけやめとけ」

辺りから様々な生徒のひそひそ話が聞こえてきた。

新入生でさえこれなのか、それなら在校生で存在を知らない奴はいないのというのも十分うなずける。

「生徒会副会長の藤村沙奈です。この度は皆さん、入学おめでとうございます・・・これから皆さんはこの神騎高校の生徒として・・・・」

沙奈のあいさつが始まった。さすがは生徒会副会長、先ほどから心に響く単語が何度も聞こえてくる。

これも才能と人望の産物なのか、妙に尊敬したくなってくる。

まぁ俺はもうあの人に敬意を持って接しないけどな、というかもうあまり会えないかもしれない。

こんな数の生徒たちをまとめる生徒会だ。俺みたいな普通の新入生が簡単に会える存在ではないはずだ。

「・・・・・・・それでは皆さん、これからの学校生活を悔いなく過ごしてください」

話が終わると一斉に拍手がわき起こった。すごいな・・・。

副会長でこれならやはり気になるのは会長だ。沙奈をも越えるすごい人に違いない!

「続いて生徒会会長・・・前原夢矢さんお願いします」

へぇ、生徒会長は前原夢矢というのか、さっき会ったあいつと同じ名前じゃないか、もしかしてあいつが生徒会長だったりして、ははは、んなわけないか。

俺は心の中で笑いながらモニターを見つめていた。

しばらくするとひどく息を切らした黒髪の女が現れた。

おお、髪まであいつそっくりだ。瓜二つとはこのことだろうな。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・せ、生徒会会長の・・・はぁ・・・ま、前原夢矢です・・・すまない、今到着したばっかだったので、息がやばい・・・はぁ・・・はぁ・・・死ぬ、マジで死ぬ」

そこには先ほど俺が出会った前原夢矢がいた・・・・・・お願いだから誰か嘘と言ってくれ。

「いやぁ・・・さっきはマジで遅刻すると思ってたから・・・ホントに間に合って良かった・・・はぁ・・・げほっ」

いくら何でも息切れしすぎだろあいつ・・・見苦しすぎるぞ。

しかも今回は生徒が一人もひそひそ話をしていない、みんな絶句しているのだろう、俺だって絶句したよ・・・二つの意味で。

「えぇっと、新入生の皆さん入学・・・ごほっごほっ!・・・おもでとう・・・・・・えー本日はお日柄もよく・・・・・・」

夢矢のあいさつが始まったものの、沙奈とは明らかに何かが違った。まず見苦しすぎる、せめて息を整えてから壇上に立ってほしい。

それとあいつ、スピーチが下手くそすぎる。生徒会長って言ったらもっとスラスラと沙奈のように心に響く言葉を言ってくるのにあいつは何を言ってるのかよく分からないし、丁寧語の間に標準語が入ってきたりするため緊張感が全く感じられないのだ。

でも逆にそれはそれで夢矢らしいのかもしれない。

「・・・・・・実はここに来る途中私は一人の男子生徒に会ったんだ」

・・・・・・ん?

「そいつも私と同じで遅刻しそうになっていて一緒に行くことになったのだが、これがまた面白い奴でな」

うわぁ・・・あいつ俺の話始めやがった。何かもう普通に標準語になってるし。

「そいつは的確にツッコミを入れてくれたり、初対面の私に何の躊躇もなくため口を使ってくれたりした」

入学式にこんな話していいのか?完全に個人の話じゃないか。

「そうだよなぁ!相場優人ぉ!!」

「な!?」

うっかり声をあげてしまったせいで、生徒全員の視線が一瞬で俺に向けられた。

「相場優人ってあの人のこと?」

「 先輩にため口って、しかも生徒会長にだよ?」

「初日から遅刻しそうになるなんて・・・もしかして不良?」

あぁぁぁぁぁぁ、俺の信用が一気に消えていく。何してくれるんだあの変人女。

「私は悟った、この出会いは運命だと・・・!・・・だからこの場を借りて言わしてもらう・・・相場優人を生徒会に強制入会させる!!残念だが決定事項だ!ファンタジーゲームでいう逃げられないだ!観念するんだぞ優人!会長権限だ!!」

「・・・・・・・・・」

何も言えなかった。あまりにも急すぎたもんだから。

生徒会?生徒会?生徒会だと?

マジで何してくれるんだあのイカレ女

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