「一日遅れて転校生」
校舎に入り激混みの食堂で食事を済ませた俺達は朝八時にも関わらず大分疲労していた。
「なんで朝ごはん食べんのにこんな苦労しなきゃいけないの・・・?」
「明日から弁当にでもするか・・・?」
「ナイスアイデアです優人くん・・・」
「まぁとりあえずは乗り切ったんだし早いとこ教室に行くか」
教室に入り昨日と同じ席についた。
ちなみに教室までかかった時間は20分弱、広すぎだ。
チャイムが鳴ると同時に教室に工藤先生が入ってきた。
相変わらず教師とは思えぬ身なりだ。
生徒に影響が出るとは思わないのだろうか・・・。
「さ~てと、今日はお前さん達に朗報がある・・・まぁ入学二日目だから大した意味はねぇだろうが転校生だ」
「「転校生!?」」
クラスのあちこちからざわめきが起こる。
たった二日目で転校生など普通はありえない。
「ね、ねぇ優人、転校生ってもしかして・・・」
「ああ、きっと奈鳩さん達が言ってたやつだな」
「じゃああの貴族の人ですか・・・!?」
「多分な」
俺達三人は周りに聞こえないように小声で喋りながら転校生が来るのを待った。
もしもこの転校生がその貴族のやつなら俺達と一緒に住むことになるのだから正直気になる。
「なぜ一日遅れで転校という形で来たのかは転校生に聞け」
「せんせー!転校生は男ですか?女ですか?」
生徒の一人が挙手と同時に言った。
工藤先生はしばらく黙りこんだ、そして。
「それは自分で見て判断するんだな・・・おい、もう入っていいぞ」
工藤先生の言葉とともに教室のドアがゆっくりと開かれた。
一気に視線が集中する。
「・・・わ!?・・・あ・・・ど、どうも」
入ってきたのは・・・女の子・・・だよな?
突然の全員の視線に驚いた転校生は一度身を引くとおそるおそる入ってきた。
顔立ちは完璧に女の子だ、首にまでかかる程度の綺麗な金髪に大きな青色の瞳・・・普通にかわいいが一つ気になることがあった。
「せんせーその子女の子ですよね?」
再び生徒の一人が言葉をあげる。
「だったらどうした?」
「なんで・・・「男子の制服を着てるんですか」??」
それは今ここにいる生徒全員が抱えている疑問そのものだった。
「男だからに決まってんだろ」
工藤先生の答えは簡単なものだった、しかしその答えはクラスにとっては難しすぎたようで。
「お、男の子!?」
「あんなかわいいのに!?」
「きっと男装よ!!あんなかわいい男の子がこの世にいりわけない!」
「で、でも胸は!?パッと見分からないけど・・・」
とにかく男子ということが信じられない、あるいは信じたくないクラスの連中が口々に口論している。
無論転校生はどうすればいいか分からず戸惑ってる。
「おーい静かにしろー、男か女かはっきりしたければ自分で探ることだな、だが学校では男ってことになってるから男として振る舞うように」
男ということになってるって・・・じゃあ女かもしれないってことなのか??
「ほら、早いとこ自己紹介やっとけ」
「あ、はい、すいません・・・えーと」
転校生はきちんと背筋を伸ばし体を整えると正面を向いた。
「ユーミ・アレンです、イギリスのロンドンから来ました、異国の文化や習慣にはまだ乏しいところがあって迷惑をかけるかもしれませんがどうかよろしくお願いします」
にっこりスマイルで女性のようにお辞儀をすると、転校生=ユーミは少しだけ顔を赤らめた。
どうやら少し恥かしかったようだ。
彼(?)の自己紹介を見たクラスの反応は・・・もちろん良好。
「ロンドンってあのオシャレな町でしょ!?いいなぁ・・・」
「文化に乏しいって言っておきながら日本語ペラペラですごいよな!」
「ああダメ!ユーミくん!ユーミくん!決してユーミちゃんじゃないんだよね!?」
「に、にしてもあの容姿はどう見ても・・・!!」
男か女かはいいとして、あいつが男なら俺と部屋を同じくする生徒だ。
早いうちに関係を作っておいた方がいいかもしれない。
「お前ら静かにしろー、とりあえず後ろに空いてる席を設けておいたからそこに座っとけ」
「は、はい」
来たのは桜のすぐ後ろ、そして俺の斜め後ろだ。
「今日もどういうわけかHRだけで午前中で終了するから安心しろ、つーわけで始めるぞ」
工藤先生が話を始めている中、桜がチラチラ後ろを気にしている。
彼の隣にいる天も、そして俺も。
「・・・え、えっと・・・?」
さすがに俺達の視線に気づいたのかユーミは若干困った顔で視線を返してきた。
「桜こんなかわいい男の人初めてです!!」
「世の中不思議だね~全然男に見えないよ」
「え?あ、ごめんなさい・・・」
どうも馴れ馴れしい二人に明らかに動揺しているユーミ、日本語は信じられないほど達者だから言葉の問題はないだろうがここは日本、いきなり色々と言われても困惑してしまうのは必然である。
「お前らな、かわいいって言われて喜ぶ男がいると思うか?男っていうのは常にかっこいいって言われたいもんなんだよ、まぁイギリスじゃどういう感じか俺にはわかんねぇけど」
「じゃあユーミくんもかっこいいって言われたいんですか?」
「かわいいって言われるのはもう慣れててかわいいって思われる方が本当はいいんだけど・・・一回はかっこいいって言われてみたい、かな」
結局どっちがいいのかよく分からない・・・しかしその時俺が見たユーミの寂しげな表情が気になって仕方がなかった。
キーンコーンカーンコーン
一時間目のHRが終り休憩時間に入った。
俺は少しだけ教室で天と桜と話した後、トイレに行くことにした。
ありがたいことにトイレは教室から出てすぐの所にあるためすぐに済ませることができる。
そんな時俺はトイレの前でウロウロしているとある人物を見つけた。
転校生のユーミだ。
周囲を気にしつつ男子トイレの中をチラチラ覗いている。
「何やってんだお前?」
「わぁっ!?」
突然話しかけられて驚いたユーミ、しかし今の声も・・・なぁ。
「ご、ごめんね!?びっくりしちゃって・・・」
「いや、別にいいけど・・・さっきから何してるんだ?」
「あ、あのね・・・トイレに・・・入りたいんだ」
「入ればいいだろ?お前男なんだし」
「入ったよ?入ったんだけど、僕が男子トイレに入った瞬間みんな目を丸くして急いで逃げちゃって・・・すごく気まずくなったから結局すぐに出てきちゃって・・・だからみんないなくなった後に入ろうと思って待ってるんだけど・・・」
女が入ってきたと思ってびっくりしたんだろう・・・この顔じゃいくら男子の制服を着ていたとしても女子に見えてしまう。
「うぅ~ん・・・あぅ・・・」
顔を赤くしながら内股になるユーミ、それは完全に女の仕草だぞ。
「無理しない方がいいと思うぞ?そんなんで漏らしたりしたら大変だしな、なんなら俺がついてってやろうか?というか丁度行きたかったし」
「一緒に・・・!?それって日本で言う「連れション」っていうやつかな!?」
「大声で言うなよ!!しかも何でちょっと嬉しそうなんだ!?」
「だって連れションって男同士がやるものなんでしょ?連れションすれば最低限女には見えないと思って・・・」
「ふーん・・・まぁ確かにそうだけどな、ほら、入るんならさっさと入った方がいいんじゃないか?ついてってやるから」
「う、うん・・・!ありがとう・・・うぅ!」
そのままユーミは男子トイレにかけ込んだ。
俺も頭をかきながら後に続く。
中に入るとユーミが幸せそうな顔で用をたしていた、もちろんその顔も女の子そのものだが少しだけ男らしさも混じっていた。
「ふぁ~・・・助かった~♪」
俺も隣で素早く用をたす、しかし先程から恐ろしい違和感が俺を襲っているのが気になって仕方がなかった。
トイレから出た俺とユーミはまだ時間があったため窓の近くで話すことにした。
「お前さ、男なんだからもっと堂々としたらどうだ?」
「お前じゃなくてユーミ!僕にだって名前はあるんだよ?」
隣でにっこり笑ったユーミの顔はもう女の子にしか出せない芸当だ。
かわいい・・・男子トイレで用を足していなければな・・・。
「ああ、分かったよ・・・ユーミ」
「ありがとう♪だから僕も君のことを・・・・・・・え~と・・・えっと・・・カ、カズキって呼ぶから!」
「名前分かんないなら素直に聞いてくれ、相馬優人だ」
「あいばゆーと?・・・・・・ああ!アイバ・ユート!!」
「多分、というか絶対違う・・・俺は日本人だ!」
「え?えーと?じゃあ何て呼べばいいの??」
「優人でいい、みんなそう呼んでるからな(二人の先輩を除いて)」
「うん分かった!よろしくね優人!」
なんという屈託のない笑顔・・・男であることが本当にもったいない。
「僕達ってもう友達ってことでいいのかな?」
「いいんじゃないか?席近いんだしこれから仲良くしていけばそれは友達って呼べるもんだよ」
「そっか・・・日本の男の人ってもっと怖いイメージがあったけどそうでもないみたいだね、最低限優人はいい人だと思うよ?」
「そりゃどうも・・・というか怖いイメージってどんなだ?」
「んーとね・・・「クックック、お主も悪よの~」とか「良いではないか~良いではないか~ぐははははは!」とか「泣かぬなら殺してしまえホトトギス」とか「敵は本能寺にあり!!」とか・・・?」
・・・何百年前の話だ・・・。
てっきり俺は暴走族とかヤクザを想像したのだが・・・。
「怖いよね・・・うん、日本怖いよ」
「安心しろ、お前が怖がってるやつ現代でやるやつなんていねぇから」
「え?そ、そうなの?」
「そこんとこは適当に学んでくれ・・・」
「・・・?」