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七の幻想 駆ける車の少年達

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感想や意見をくださると嬉しいです。

「それでは、改めて自己紹介としましょう」

 アンブラの提案に、圭吾、アンダークス、そして猫耳の少女が頷いた。

「まずは言い出しっぺの私から。私の名前はアンブラ・ウェントゥス。自分探しの旅のためにケイゴさんのお供をしています。よろしくお願いしますね」

 アンブラはそこで猫耳少女に頭を下げた。礼儀の正しい気持ちのいいあいさつだった。

「はい。よろしくお願いしますわ。気軽にアン様と呼んでもよろしいかしら?」

「……いいですよ。(様付けは気軽なのかな?)」

 少女もぺこりと頭を下げた。

 アンブラが釈然としない顔をしているが、気にするほどのことでもないだろうと、圭吾は判断した。

「さっき話題に出てきたケイゴ様は、ワタクシを助けてくださった御仁でしょうか?」

 少女が圭吾の方を向いて聞いてくる。

 圭吾は口を開こうとして緊張する。何度やっても自己紹介とは慣れないものだ。クラス替えや新入学後の自己紹介は、毎回何を話していいか悩んでしまう。

 圭吾は緊張を紛らわすために深呼吸をする。深呼吸をすると緊張が解れるのは何故だろうか。そんな思考をするほどには緊張も和らいでいる。

「そのとおりだよ。僕は朝倉圭吾、えっと、朝倉の方が名字で、圭吾の方が名前だからね。よろしく」

 とりあえず圭吾は手を差し出してみる。すると少女は両手で握ってきた。

「さきほどはありがとうございました。改めてお礼を言わせてもらいますわ」

 少女の目線に圭吾はどぎまぎしてしまう。女の子とこんな近くで接したことのない圭吾には、この状況の打開策が見つからない。

「お二人さんでイチャイチャするのに水を差すような野暮なことはしたくないけど、俺の自己紹介してもいいか?」

「な、い、イチャイチャなんて……!?」

「フフフ」

 動揺する圭吾に対して、少女は微笑みでアンダークスに返していた。当のアンダークス、そしてアンブラは圭吾の様子を見てニヤニヤしていた。

「じゃあ、ケイゴがそこまで言うなら、してないってことにしといてやるよ。……コホン。俺はアンダークス・ポティスター。気軽にアースって呼んでくれ」

「はい。よろしくお願いしますわ」

 アンダークスが手を指し出し、少女はそれを握る。

 それが終わると、少女が姿勢を正す。それに合わせて、心なしか猫耳がピンと伸びた気がする。

「ワタクシはマフリ・シアンと申しますわ。今後ともよろしくお願いします」

 最後に少女―マフリがスカートの裾を軽く持ち上げてお辞儀をして自己紹介が終わった。

「それでは馬車を出しましょうか。行き先はどちらへ向かえばいいのでしょうか?」

「あ、えっと王都の方へ行こうと思ってるんですけど、いいんですか?自分の……」

 マフリはアンブラの口の前で指を立てて、言葉を途中で遮った。

「命の恩人のために報いるのは当然のことですわ。それにワタクシも王都の方へ用事がありましたし、問題ありませんわ。では、御者台の方へ、……いっしょに行きましょう?ワタクシのナイト様」

 マフリが圭吾の腕を取って立たせようとしてくる。

「え、あ、ちょっと」

「ほら、行ってください」

「お嬢さんをまたせんなよ」

 突然のことに圭吾が対応できないでいると、アンブラとアンダークスが後ろから立たせてくる。そして圭吾は後ろから突き飛ばされ、マフリと共に御者台へと向かうことになった。

「さあ行きますわ。ワタクシ達の目的地へと」

 勢いよく手綱を振り、馬車は出発した。

 馬車は順調に道を進んでいく。圭吾はマフリが手綱を握る手を注視していた。舗装されておらず細かく曲がりくねっている道を、こうもうまく進ませるコツがあるのかと思っていたが、特になにも掴めないでいた。

「ケイゴ様はお強いのですね」

 マフリはそう言って、圭吾に微笑みかけてきた。

 顔も体も近い。御者台の上では逃げ出すような場所もない。圭吾は緊張で固まってしまう。

「そ、そんなことはないよ。僕は強くない。ただ、このナイフが強いだけさ」

 圭吾は疾風のナイフを取り出す。ナイフから風を数発上空へ放ってみせた。

「僕自身はなにも強くなんてないよ」

 圭吾は自嘲的な笑みをするが、マフリは首を振って否定してきた。

「強い力というのは制御するのが難しいものです。それを使いこなせているケイゴ様は十分お強い方だと思います」

 マフリの言葉に、圭吾は呆気にとられる。ナイフの周りを渦巻いていた風も、圭吾の内心に反応するように霧散した。

「それに、ワタクシを助けてくださったナイト様には、もっと胸を張っていてもらいたいのですわ」

「そうだぜケイゴ」

 マフリの言葉に合わせるように、荷台からアンダークスが顔を出してきた。

「ケイゴが体を鍛えてなくて弱いっていうのは認めるけどよ、オーク戦の俺達のコンビネーションまで弱いって言われたら、俺は泣く自信があるぜ」

 アンダークスは泣きマネのジェスチャーまでしてくる。このお調子者が泣くところは想像できないが、その程度のことで泣けるものなら泣いてみてもらいたい。

「ハハハ、なんか自分が勇者になんか相応しくないって思ってたのがバカみたいだ」

 圭吾のおどけた調子にアンダークスは笑って応える。一方、マフリは唖然とした顔だった。

「どうしたの、マフリさん?」

「今、勇者と仰いましたか!?」

 語気の強さに圭吾は気圧された。しかし、アンダークスはそんなことは気にせず、気楽に答えた。

「ああ、そういや言ってなかったっけ。ケイゴは勇者召喚だかで召喚…に失敗して別のところに落ちた勇者だって、クレービリスさん…俺達の村の神官様のところにそんな感じの連絡が来たんだとよ。で、今は王都に行って王様に正式に勇者としてもらおうってんで旅してるんだ」

 話の途中から、マフリは聞いていなかった。圭吾を見る目の色が変わっている、というかより目の色が濃くなっている感じだ。

「ワタクシのナイト様が勇者様だったなんて……一生付いて行きますわ!!」

 ガシっと圭吾の手を握るマフリ。それにたじたじする圭吾。その様子に呆然としているアンダークス。

 マフリの手から手綱が離れ、馬車の制御ができなくなり、ガタンと揺れた。

「うわっわわわ」

 慌ててマフリが手綱を握り直す。

「荷物整理をしてたらいきなり揺れたんだけど、なにかあったんですか?」

「いや、何もないよアンブラさん!?」

「そ、そうですか……。あ、前を見てください」

 言われて全員が前を見る。建物が集まるところ、村のような見えた。

「少し遅いですけど、あの村でお昼にしましょう」

「賛成賛成」

「ええ、そうするのがいいと思いますわ」

「そうしようか」

 馬車を先に見える村まで走らせる。その足取りは軽快だった。

 その先にあるものなど知らずに。

久しぶりの金曜昼更新だぜヒャッハー!

とはいえ、GW中は遊び呆けていた訳ですが。

なにはともあれ、結果良ければ全て良し。


今回はとても平和な回です

ここまで平和なものを書いてしまうと、作者としては一騒動、二騒動起こしたくなってきますね。

まあ、起こらないわけがないのですがね。

試練を乗り越えてこそ、人は成長するのです。

作者はそもそも試練なんて大嫌いで平穏に暮らしたいですが。


次回も金曜更新の予定です。

それではまた次回お会いしましょう。

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