六の幻想 風、それは速さの力
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「まずは王都へ行って王様に会い、次にすべきことの指示を仰ぐべきだろう。私が紹介状を書いておくから問題なく会えるはずだ」
クレービリスにそう言われて、三人は旅立った。
地図やコンパスなどの冒険に役立つ道具一式に、日持ちのする食糧、ある程度のお金を持って村を出た一行だったが、一つのミスをしていた。
「疲れた~……」
アンダークスが呟く。圭吾とアンブラの二人は反応する気力もない。
誰も馬に乗れない、馬車もない、そして現代っ子、重装備の少年、運動不足の少女が徒歩で旅をするのだ。三人は体力不足でフラフラだった。水筒の水も残り僅かで、今は川を求めて彷徨っている。
「もっとモンスターとか出てくるかと思ったけど全然でねー。こんな装備で来るんじゃなかったわ……」
「本当にその通りだよ。アース君が一番水を飲んでるんだからね?ケイゴさんからも言ってやってください」
地図を見ていたアンブラがアンダークスをたしなめる。その口調から、この二人が長い付き合いなんだと、圭吾はなんとなくそう思った。
「はは…。まあ、どこかの街に着いたら、もっと軽装備なのに買い替えようか」
とりあえず圭吾は毒にも薬にもならないような提案をしてみた。
「この鎧、結構気に入ってたんだけどなー。邪魔になるんだったら仕方ないか……」
アンダークスはがっくりとうな垂れた。そのままの姿勢で歩くと更に疲れそうだが、二人はそんなことを考える気にもなれなかった。
「あ」
地図とコンパスと交互に睨めっこしていたアンブラが、顔を上げた途端、急に声を発した。
「なにかあった?」
圭吾はアンブラに問い掛けた。これが川に位置が分かったという知らせなら、圭吾達にとっては朗報である。
アンブラは遠くにある大きな建物のようなものを指差す。その建物には羽のようなものが付いており、風車小屋のようだった。
「あれがどうしたって言うんだ?」
「たぶん、あれは地図に書いてある風車小屋だよ。それで、その近くには川があるみたい!急いで行きましょう、ケイゴさん!アース君!」
アンブラはそれからすぐに走りだす。アンダークスもアンブラに負けじと走りだした。圭吾は、二人にまだ走る体力があったのかと驚きながら、歩いてゆっくりと川に向かった。
風車は水を汲み上げるためのもののようで、圭吾が追いついた時には、先に着いていた二人がちょうど水を汲み上げたところだった。
三人は水を飲み、小屋の中に横たわった。村を出てからここまで歩きづめで、一休みしたところで一気に気が抜けたのだった。
「そういえばさ」
リラックスした空間の中で、圭吾の一言が響いた。
「ここに来る途中で馬車を見たんだけど、王都の方に行く馬車だったら乗せていってもらえないかな?」
圭吾の発言に二人は勢い良く起き上がった。
「そういうことは早く言ってくださいよ!」
「もう歩きっぱなしで大変だったんだ。そんなチャンスは見逃せないな!」
そして二人は圭吾を急かして、小屋の中から出た。
小屋から少し歩いたところに、例の馬車はあった。馬車の近くには男が二人いて、片方は水汲み、片方は見張りをしているようだ。
圭吾達が近づいてくるのを見ると、見張りは睨みつけてきた。
「あ、あのー……」
アンダークスが恐る恐るといった感じで見張りの男に話しかける。
見張りの男の顔に更に皺が刻まれる。その威圧感だけで気の弱いものは泣くことすらできなくなりそうだ。
「なんでい」
「いや、俺達は王都まで旅をしてるんですけど、出来れば乗せていってくれないかなって思いまして」
その言葉を聞いて、男の顔は一瞬怪訝そうになったが、すぐに表情が緩められた。
「悪いがそれはできない相談だ。俺達は、貿易のために王都から他の街へ向かってる最中だからな」
男の言葉に三人は肩を落とす。男はその様子を見て、苦笑いをしていた。
「~~~~~」
突如として、くぐもった声が聞こえてきた。その声は小さくて聞きとり辛かったが、その切迫さだけは十分に伝わってきた。
男の表情が曇る。いかにも怪しい。怪しさから男を疑っていると、圭吾は一つの疑問に思い至った。
(どうしてこの人達は風車小屋を使わずに、ここで水汲みをしているんだ?)
「なあ、今、この馬車から声がしなかったか」
アンダークスの発言に、男の表情が一層険しくなる。間違いなく、この男は何かやましいことを隠している。
「ちょっと失礼しますよ」
アンブラが馬車の荷台に近付こうとする。
そのとき、男が御者台に飛び乗った。すでに先程まで水汲みをしていた男は乗り込んでいる。馬車が発射し、急加速して離れていく。
「だから、こんな目立つところで水汲みなんてすんなって言ったんだ!?」
「うっせーな!誰かさんががぶがぶ水を飲むせいじゃねえか!?」
どうやらあちらも、圭吾達と同じ理由で水が必要だったらしい。
圭吾達が呆然としてる間に、どんどん姿が小さくなっていく。
「あいつらたぶんお尋ねものかなんかだろ!?どうにかして捕まえないと!!」
「でも走ってなんて追いつけないし、私が魔法を使っちゃうと、荷台にいるなにかを壊しちゃうかもしれないし……」
二人がなにかできないかと必死になって考えている。しかし、圭吾にはなんとかできる案が、一つだけあった。その方法はとても危険なものであるのだが。
「僕が行くよ」
言うや否や、圭吾は疾風のナイフを地面に突きつける。ナイフには風がどんどん集まってくる。
「どうやってですか?」
アンブラが不安そうに聞いてくる。圭吾のやろうとしてることが、危険なことだと察したのだろうか。
圭吾はやり方を頭の中で、シミュレートし、成功するイメージだけを思い浮かべた。
「どうって、こうだよ!」
集まった風を一気に解放した。圭吾が地面から弾かれたように、走り去る馬車の方へ飛んでいく。
オークとの戦いから、なんとなくできないかと思っていた使い方だ。いつか練習しようかと思っていたが、ぶっつけ本番でやるしかない状況の方が早く来てしまった。
空中で風のチャージは開始する。地面がじょじょに近付いてくる。そして、地面に当たるかという瞬間に、もう一度地面に向けて風を放つ。馬車との距離はもう少しだ。三度目の風は、少し角度を大きくする。圭吾は馬車を飛び越した。
「のわっ!?」
「ななんだあいつ!?」
男達が驚く。圭吾は二重の意味で苦笑いした。ひとつはいきなり人が飛び出してくることへの同情から。そしてもうひとつは……。
(これ、どうやって着地しようかなあ)
勢いよく飛び出したが、圭吾は最後の肝心なところを考えていなかった。
風をナイフに纏わせ、少しずつ放出して減速する。そして、馬に後ろ向きで乗った。
「ここまで追いついてきたことは褒めてやるが、ここで死になあ!」
男の一人が圭吾に向かって剣を突き刺してきた。
「うわっと!?」
圭吾は剣をナイフで受け止め、風で遠くに吹き飛ばす。そのときに、剣を持っていた男は剣といっしょに体が持って行かれて、落馬してしまった。
「あ、がっ、ぐえ」
「あのバカ。こいつが変な力を持っているなんてすぐに分かるだろうが」
残った男は降参といったように、手綱から手を離し上に挙げた。
「ここで止まってくれると助かるんだけど」
「んなわきゃねーだろ!捕まるのだけはごめんだからな、じゃーな!」
男は御者台から荷台の方へ移動し、後ろから飛び降りた。
「あ、ちょっと」
圭吾は追いかけようかとも一瞬思ったが、馬車を止めることを優先することにした。
御者台に座り、手綱を握る。
「どうすればいいのかな……。TVとかだと馬を止めるときはこれを思いっきり引っ張ってた気がするけど」
ものは試しとばかりに手綱を思いっきり引っ張る。すると馬は圭吾の想像より以外とすんなり止まった。
アンブラとアンダークスが追いついてくる。
「えっと、悪者はどっかに行っちゃったけど、馬車は手に入れたよ」
圭吾はふざけた調子で言ってみた。
「ケイゴスゲーじゃん!俺もそういう強い武器が欲しいなあ」
「馬車があっても、私達は誰も馬を扱えないんですけど。……そんなことより、荷台には何があったんですか?」
「それは今から調べるところだよ」
三人が荷台に乗り込む。そこには雑多に物が置かれた中に、もぞもぞ動く大きな袋があった。
恐る恐るそれを開けてみる。
「ぷはっ!」
そこから出てきたのは猫耳の女の子だった。長い銀髪に大きな瞳が特徴的な可愛い少女だった。
「あなたがたがワタクシを助けてくださったのでしょうか?」
「ああ、そうだぜ」
「アース君は今回はなにもしてないでしょ」
「まあ、細かいことは気にしないってことで」
少女は姿勢を正し、深々と頭を下げた。その姿はとても様になっていた。
「この度は助けてくださりありがとうございます。ワタクシはこの恩を忘れませんわ」
「……じゃあ、早速ですけど」
「はい」
そこでアンブラは一息置き、とても真剣な顔になる。対する少女の顔も真剣だった。
「あなたは、馬が扱えますか?」
「問題ありませんわ」
ここで、移動の問題はひとつ消えたのだった。
結局土曜日更新になってしまいました。
本当に申し訳ありません。
今週こそは金曜に予約更新しようと思っていたら、思っただけでした。
作者にはいつアクセスされたかが分かる機能があるのですが、金曜に多数の方(この場合の多数は作者の作品のこれまでの平均からいった多数です)の人が見に来ていました。
金曜更新を覚えてもらって嬉しい反面、非常に申し訳ないです。
誰だ、大学生になったらこれまでより暇が増えるとか言ったやつ!全然そんなことないじゃないか!まあ、高校時代よりは余裕はあるけども。
そんな愚痴はさておき、次回はGW中に頑張って金曜予約更新を目指します。(フラグ)
ではまた次回、お会いしましょう。