四の幻想 RPGの王様は勇者に強い武器を渡すべきだ
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神殿を出ると人々が待ち構えていた。
「クレービリスさんお願いしますね!」
「今度も頼むよ神官様!」
「頑張って!」
人々はクレービリスの所に群がって期待の言葉を並べる。それだけ人望があるということだろう。
一緒にいるだけの圭吾は肩身が狭い思いだ。しかし、なにかおかしな点を感じる。
小さな女の子が一人、圭吾に近づいてきた。
「おにいさんもいくの?」
女の子は不安そうな目で圭吾を見つめている。圭吾はその視線に耐えられず、目を逸らしてしまった。
クレービリスがその女の子の所に行き、そして目線の高さを合わせた。
「そうだよ。彼は私の手伝いをしてくれるんだ。……もしかしたら、私よりもすごいことをしてくれるかもね」
そう言って、女の子の頭を撫でた。女の子はむず痒そうに身震いするが、嬉しそうな表情をした。
「がんばってね、おにいさん!」
女の子の期待の目が眩しい。圭吾は目を逸らしたまま戻すことができない。
「……うん、がんばるよ」
顔は向けられなかった。しかし、人が集まっていたので、逸らした先にも人はいる。その人の表情を見ると、圭吾の顔は赤く染まっているのだろう。
女の子には圭吾の照れ隠しをしながらの小さな返事が聞こえていたようで、より一層輝く笑顔をした。
ここまで期待の目を向けられたことは、圭吾には無かった経験だ。記憶も曖昧な子供の頃にはそんな経験もあったのかもしれないが、その時はちゃんと受け止められていたのだろうか。
クレービリスが歩くごとに人々の群れが分かれ、道が作り上げられていく。圭吾はその後ろに付いて行く。クレービリスが進む度に違う人が話しかけている。その光景に、圭吾は何かに違和感を感じ続けていた。
「おいおーい!?待ってくださいよ!!俺も行きますよー!!」
人々の群れを掻き分けてアンダークスがやってきた。彼は鎧を着込んで、剣を腰に下げている。圭吾のナイフ一本で戦おうという圭吾が正気を疑われるような状態だ。
「アースおめえ、クレービリスさんに付いて行こうってんじゃねーよな?」
「その通りだぜおっさん!俺だって今まで修行してきたんだ!」
「無理だ無理だ。足手纏いになるだけだからやめときな」
「やってみなけりゃ分かんないだろ!?」
アンダークスが人々にからかわれている。
そこで、圭吾は自分が感じていた違和感の正体が分かった。
「あの……」
圭吾は自分の感じたことを指摘しようとしたが、他の人が圭吾の言葉に反応を示さず怖気づいてしまう。
「ん、どうした?」
ようやく一人、圭吾が何か言いたそうにしていることに気付く。
「あ、いや、その…そろそろ出発したいので、その辺でやめてもらえると……」
違う。そんなことが言いたいんじゃない。多くの人がいると、当たり障りのない言葉を言ってしまうのは、圭吾の悪い癖だ。
しかし、圭吾の言葉も一理あったようで、アンダークスに絡んでいた人達は引き下がっていってくれた。
「いやー、助かったよ。おっさん達も悪い人じゃないんだけどさ、自分達が戦えないからって勝手に決め付けないでほしいよ」
「戦えないってどういうこと?」
圭吾はアンダークスに尋ねる。圭吾の深刻そうな表情に、アンダークスは少し驚いたようだ。
「仕事が忙しいからって戦いの稽古はしないんだよ。絶対おっさん達の方が筋肉があって強そうなのにな」
圭吾はその言葉に黙り込んだ。アンダークスは何か悪いことを言ったのかと心配してくるが、圭吾はなんでもないと返事をした。
圭吾が感じた違和感。それは、集落の危険にクレービリス一人が戦いに行くことだ。アンダークスが言った理由も理解はできるが、納得はできない。たしかに、クレービリスは他の人よりも強いのかもしれない。だからって一人に危険なことを押し付けていいのだろうか。圭吾はそんなことを考えていたが、自身がもし人々の立場だったら同じように押し付けていただろうと、自虐的な笑みを浮かべた。自分から行くと言ったアンダークスは、誰よりもすごいことをしている。
「待たせたね。これでやっと出発だ」
「おー!」
「はい」
遅れて来たクレービリスと合流して三人は草原へ向かう。
アンブラが神殿の二階から三人を心配そうに見つめていた。
◆ ◆ ◆
小さな森を抜けた先にある草原では、オーク達が暴れていた。
オーク達は相当気が立っているようで、木々がなぎ倒されて草原の範囲が広がってしまっている。
圭吾達が森を抜けたとき、一匹のオークが気付いた。そのオークが他のオークにそのことを伝える。
「ケイゴ君とアンダークス君は二人で行動すること。危なそうだったら私が援護する。各自散開」
クレービリスの言葉と同時に三人が走りだす。
開幕早々、一番近くのオークに攻撃を繰り出した。杖から発生した風が吹き飛ばす。
「やっぱりカッコいいな!俺達もやろうぜ!!」
「お、おー」
なんとなく締まらない感じで圭吾達の戦いも始まる。
この場合、鎧を着て防御力のあるアンダークスが正面から戦い、軽装の圭吾が回り込んで戦うのがよいのだろうか。
アンダークスは鎧の重さを感じていないかのように真っ直ぐオークへ突っ込んでいく。その動きを見て圭吾は回り込むことに決める。
オークはアンダークスを向かい打つように棍棒を振り上げる。だが、抜刀したアンダークスの剣の方が速い。オークの足に向かって一撃加える。
バランスを崩したオークは、棍棒を持つ右手の方へと倒れ込む。そこに圭吾が追撃を加えるようにナイフを出すが、ナイフが当たる前に足がすくんで勢いが無くなってしまう。
そこへ体制を立て直したオークが棍棒を横薙ぎに振るってきた。
「危ない!?避けて!!」
アンダークスの忠告は遅すぎた。もう棍棒は目の前だ。
「く、来るな!?」
圭吾が言葉を発したその瞬間、ナイフが緑の輝きを放ち、そこから暴風が発せられる。
暴風は棍棒を退け、オークを遠くへ吹き飛ばす。しかし、反動で圭吾も数メートル吹き飛ばされてしまった。
「なんだ……これ……」
圭吾は自分になにが起きたのか理解できなかった。
「スゲーなそのナイフ!俺も負けてられないぜ!」
アンダークスは次のオークのところへ走りだし、戦闘を開始する。
呆けていた圭吾だが、アンダークスのところへオークが集まっているのを見て走りだした。
一匹、また一匹とオークを減らしていく。アンダークスが攻め込んで隙を作り、圭吾が吹き飛ばす。始めての戦闘で、始めてコンビを組んだもの同士とは思えない連携だ。
しかし、二人は限界だった。鎧を着こんで剣を振るうアンダークスも、ここまで激しい運動をしたことのない圭吾も、体力はもう底だった。さらに、オークは倒される毎に増援が呼ばれてキリがない。
一匹のオークが圭吾とアンダークスを目標に定めた。二人で一ヶ所に集まっていたことが運の尽きだった。クレービリスも自分の担当分だけで精一杯のようだ。なんとか援護しようとするも、次のオークの攻撃がそれをさせてくれない。
圭吾にはもう自分を庇う体力すらなく、ただ目を瞑って攻撃を待った。
近くをなにかが通り過ぎる感じがした。
目を開けると、そこにはオークはいなかった。
デジャヴュだ。初めてこの草原に来たときにも、圭吾はこうやってオークから守られたのだ。
「アンブラちゃん!?」
アンダークスが驚きで大声を出していた。
何かが通り過ぎた痕、その先、この草原の入り口に立っていたのはアンブラだった。
アンブラが木の杖を振るい、そこから暗黒の光が放たれる。
クレービリスとアンブラの兄妹によって、このオークの騒動は終結した。
金曜日に終わらなかった!?
遅れてしまってすみませんでした!
さて、今回は戦闘シーンでしたが、いかがでしたでしょうか。
皆さまの楽しめるものになっていましたら幸いです。
戦闘とは関係ありませんが、主人公がなかなかしゃべってくれませんね。
この話のテーマの一つに主人公の成長があるのですが、それにしたって初期コミュ力が低くないだろうか。これからどんどん成長していく(予定)ので期待していてください。
次回こそは金曜日に投稿できるようにします。
それでは次の話でお会いしましょう。