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一の幻想 危険は続くよ、どこまでも

誤字脱字ありましたら、報告をくださると助かります。

 そこは白い空間だった。少年――朝倉圭吾はそこを落ちていく。

(ここは、どこだ?)

 圭吾が覚えているのは、迫ってくるトラックの姿だ。それならば、ここは病室かあの世か。しかし、病室は白いが、落ち続けるということはあるまい。

(じゃあ、死んだのか)

 未練がないと言えば嘘になるが、突然死んでしまったとなると、そもそも何を未練に思ってるのかすら分からない。けれども、すぐにあの世に行ってるとなると、大した未練じゃなかったのだろう。

 落ちる。落ちる。落ち続ける。

 そこで、ふと疑問が浮かんだ。白いあの世ということで天国を連想したが、それではここはあまりにも虚無的すぎる。ならば地獄かと問われれば、白い空間は地獄のイメージとかけ離れていた。それに、閻魔様の審判も受けていない。

 しかし、死んだあとの世界を見て帰ってくる者など、普通に考えればありえないわけで、そう考えればここが正しくあの世なのだろう。

 虚無な空間を落ち続けるのは、あまりにも退屈すぎた。

 圭吾は退屈を紛らわすため、落ちていく先を見た。

 白い空間の先、一ヶ所だけ黒い点が見える。周りの白のせいで、その黒はより一層際立って見えた。

 黒い点はどんどん近付いてくる。黒い点の大きさが加速度的に大きくなってくる。その中心に大きな口のようなものが見えた。

(これは……ヤバい!?)

 さすがに、死んでしまっても実感が湧かず、どうにも軽い気持ちでいた圭吾でも、目の前にいかにも危ないモノが現れては話は別だ。

 必死に黒とは反対の方へともがく。全く効果が出ているようには見えなかったが、何もしないよりはずっとマシだ。

 黒が遂に目と鼻の先へと来てしまった。黒はその口を、さらに広げた。圭吾はこれから起こることをなるべく考えないようにして、目をかたく閉ざした。

 目を瞑っていても分かる。周りを黒に覆われた。全身に何かがへばりつくような感触がする。へばりついたモノが、ゆっくりと圭吾の体を侵蝕していく。

 そこで、あらたな変化が起こった。

 圭吾の体が光り出す。いや、正確には圭吾には体の周りを光が包んでいる。

 その光が一際輝いたとき、プッツリと圭吾の意識は途切れた。


        ◆   ◆   ◆


 圭吾が目を覚ましたのは草原のど真ん中だった。

 立て続けに様々なことが起こり過ぎて、頭の中がこんがらがっている。

 とりあえず、頬をつねってみた。

(痛い)

 どうやらここは夢の中ではなさそうだ。しかし、さっきの空間が夢なのかと問われれば、侵蝕された奇妙な感触は、夢とは断言できない気持ちの悪い実感があった。

 何をするにも、草原の中にいては始まるまい。圭吾はゆっくりと起きだし、そしてあたりを散策し始めた。

 この辺りは森の中にぽっかりと空いた草原らしい。伐採されたのか、それとも森林火災でもあったのか、どちらにしてもこの辺りには特に何もなさそうだ。

 次に、周りの森を観察してみる。森の方に近づいて、木々の間から向こう側を見ていく。

 遠くからでは分からなかったが、二つの道が森の中にあった。その道は互いに草原の正反対の方向から延びている。二つの道の違いは向こう側が少し明るいか、それとも暗いかだった。

 圭吾はしばし悩んだ末に、暗い方の道を選んだ。理由としては、ゲーマーならば失敗の方を選んで、最終的に全てのルートを通るという、簡単に言えば好奇心から来るものだった。

 好奇心は猫を殺す。そんなことわざが思い浮かんだのは、圭吾が命の危険を身の感じてからだった。

 圭吾が道を進んでいくと、何かの影が見えた。影の正体と道の先を知るために進んでいくと、そこにあったのは異形の巨体だった。

 人型をしている。しかし、明らかに人の大きさではない。その顔、その風貌から推察するに、これは……。

「オ、オーク……?」

 現代日本では、というより地球では見ることは叶わない、ファンタジー産の有名な鬼の怪物だ。こんなもの、圭吾はゲームの中でしか見たことない。

 今日は進むとよく何か危ないものに当たる日だ。トラック然り、黒然り、オーク然り。

 オークが手に持っている棍棒を振り上げる。その動きはとても緩慢なものだ。しかし、圭吾はそれをただただ見ていることしかできなかった。振り上げられた棍棒が、頂点で一瞬止まったとき、硬直していた圭吾の体がやっと動き出した。

「うわふっ!?」

 間一髪、棍棒を避けることができた。すごい衝撃だった。まともに立っていることができずに転んでしまう。次の一撃が来る前に避けなくては、そう思って足を動かすも空回りしてしまう。

「ふおっと!?」

 二撃目。今度は先程とは違って少し距離を取ることができ、衝撃で転ぶこともなかった。

 圭吾は一気に走りだした。今まで出したことがない程の速度で足が動く。対してオークの動作は遅いが、一歩の大きさの違いでどうしても距離を離すことができない。

 少しずつ、少しずつ距離を離し、やっとのことで森を抜け出すことができた。

 オークの足音が離れたところから聞こえる。圭吾は後ろを確認するために振り返った。

 その行動がいけなかった。

 オークから離れられた安堵による油断と、振り返ったことによる前方不注意で、地面に埋まっていた石に躓いてしまった。足音が着々と近づいてくる。すぐ近くにある死への恐怖と、何度も連続で危険なことに巻き込まれたことからくる諦めと、普段だったら石程度で転ぶやつを笑ってるなという場違いな感想で、微妙な表情にならざるを得なかった。

 目の前の化物の一挙一動に死を覚悟する。体が硬直して動かない。非常な現実から目を逸らすために、圭吾は眼を瞑った。

 棍棒が風を切る音が聞こえた。死ぬ間際には世界がゆっくりと流れるという。風を切る音がやけにゆっくり聞こえた。じょじょに音が近づいてくる。真上と後ろから。

(後ろ?)

 なにかが髪に触れたような感触がした。一瞬遅れて風が頭の上を通り過ぎる。恐る恐る目を開けると、さっきまでいたオークの影がない。目の前の地面にはなにかを引きずったような跡が残っている。

「君、大丈夫かい?」

 後ろを振り返ると、緑色の神官の服を着て(こちらもファンタジーものでしか見ることのないものだ)、長い木の杖を持った長身の男が駆け寄ってきていた。

「立てるかい?怪我はないかい?」

 男が手を伸ばしてくる。

 緊張の糸が切れた圭吾は、そこで意識がぷっつりと切れた。

 草原で始まり、草原で終わる。それが、この世界で圭吾の初めての受難の顛末だった。

ふい~。なんとか金曜日に投稿できました。

それもこれもぐ~たらしてる生活のせいなんですが。

もっとメリとハリのある生活をしなければ。

感想、質問は気軽に送ってきてください。野菊はそれで喜びます。

それでは、できれば次の金曜日に。

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