十六の幻想 黒の邂逅と謎の声
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「早く起きてくださいませ!!」
一日の始まりは、マフリのその一言から始まった。
眠い目を擦りながら周りを見渡すと、狼が取り囲み始めていた。
「よお!起きたならこいつら追い払うの手伝ってくれ!」
先に起きていたアンダークスが狼達を食い止めてくれていた。マフリも木の棒を持って応戦している。
彼等に加勢すべく疾風のナイフを拾い、すぐさま駆けつける。
「一体何があったの!?うわっ!?」
圭吾の叫びに反応して数匹の狼が飛び掛かってくる。一番前にいる狼をナイフで吹き飛ばし、後続も巻き込んで退けた。
「ワタクシが見張りをしている時に、狼が一匹近付いてきたのですわ。そしたらみるみる増えてこんなことに」
どういう状況なのかは分かった。狼に気付かずに食べられて全滅なんてことがなくてよかった。
「話は後回しにして追い払うの手伝ってくれよ!全然キリがないんだ!」
「わかったよ!」
圭吾も前線に立って狼を追い払う。マフリはそれと入れ替わるようにして下がり、アンブラを起こしに行った。
風で複数吹き飛ばすことで足止めをする圭吾と、剣で一匹ずつ確実に仕留めるアンダークス。二人のコンビネーションで狼の群れと渡り合う。
しかしどうもおかしい。何故、狼達はこうも執拗に圭吾達を襲ってくるのだろうか。ここまで歯が立たないのであれば、諦めてもおかしくないと思うのだが。
「おいおい、いつまで続くんだよこれは」
「流石にこれはちょっとね」
「大丈夫ですか!?」
二人のところに、やっと起きたアンブラが駆け寄ってきた。
「アンブラちゃん!これはちょっとキツイかも……」
「一緒に戦ってくれると嬉しい」
「はい!」
魔力を溜めるのに少々時間は掛かるものの、敵を一気に蹴散らすアンブラの魔法の参戦により、狼との戦いの均衡が崩れ去った。襲い掛かってくる狼の勢いは確実に弱まってきている。
「そろそろ終わりか?」
アンダークスがそう言ったときだった。
ズシーン、ズシーン。大きな足音のようなものが森に響き渡った。
「なんですの、これは!?」
「マフリちゃんは下がってて!!」
驚いて飛び出してきそうになったマフリを、アンブラが制止した。
音の響いてくる方を、全員が注視する。
黒い影のようなものが森の奥から近づいてくる。その影は狼の死体を取り込み。巨大化していった。
「なんだよあの化け物は!?」
黒い影が圭吾達の前に立ちはだかった。その姿は人型の黒い泥に塊のようで、頭部は狼の頭と同じような形状をしており、腕と脚の先には鋭い爪が見える。
グウォオオオオオオ。
黒い影が咆哮する。その音は魂そのものを押しつぶさんとばかりに体に響いた。
『ヒト、ワレラノ、スミカ、ウバッタ』
「え?」
圭吾には咆哮の他に、謎の声が聞こえた。この場の誰のものでもない声だった。
「ケイゴ、なにかしたのか?」
「今、誰かの声が聞こえたような……」
「寝ぼけたこと言ってる場合か!こいつを倒すぞ!」
「う、うん」
とても異質な声だったのに、圭吾以外のものには聞こえいないようだった。そのことが、声の気味悪さを助長していた。
とりあえず、今は声のことは気にしないで目の前の敵に集中することにする。
圭吾が前に出て、アンダークスが横から回り込む。風で敵の体勢を崩し、剣の一撃を与える構えだ。さらに今回はアンブラの魔法も待機している。完璧な布陣のはずだった。
『ワレ、ヒトノイノチ、ウバウ』
迎撃をしようとした怪物の腕を吹き飛ばした、そのはずだった。
「な!?」
吹き飛ばされた腕は液状になり、獣の口の形状となって再び向かってくる。
圭吾はマントを体の前面へと回し、後ろに下がることで避けようとする。
敵の攻撃を掠っただけで、後ろへ吹き飛ばされた。バルバに貰ったこのマントは身を守る力があると聞いた。それが本当だとしたら、マントなしで先程の攻撃を受けていたらどうなっていただろうか。想像しただけで恐ろしい。
黒い影は圭吾へ追撃を行おうとする。圭吾は死を覚悟し、目を瞑った。
「やらせないぜ!」
アンダークスが黒い影へ一太刀浴びせる。それによって怪物の注意が逸れて圭吾への攻撃が止まった。
「はあああ!」
その一瞬の隙にアンブラが魔法を叩き込む。暗黒の光は怪物の上半身を消し去った。しかしそれも一瞬のことで、黒い影はすぐに再生を始めてしまう。
その様子を見て三人は絶望に飲まれそうになる。そこへマフリの声が飛んでくる。
「アン様、先程の攻撃をもっと大きくして撃てますか!?」
「え、ええ。けど、そんなすぐには……。それに」
「できることが分かれば十分ですわ。ケイゴ様!アンダークス様!お二人はアン様が魔法を撃つまでの時間稼ぎをしてくださいませ」
「あ、ああ」
「わかったよ」
戦いに参加していないマフリだからこそ見えたものがあるのかもしれない。今はただ彼女の指示に従うだけだ。
すぐに倒そうと考えず、ヒット&アウェイで時間を稼ぐ戦い。アンブラを注意を向けようとしたときには、反対側から攻撃してこちらへ注意を変えさせる。
圭吾とアンダークスの体力が尽きかけたとき、その一瞬の隙に黒い影はアンブラへと駈け出した。
「アンブラちゃん危ない!?」
アンダークスがアンブラへ向かって叫ぶ。しかし、マフリは逃げようとしない。恐怖で足が竦んでいるのだろうか。
いや、違う。
「いっけええええ!」
アンブラが黒い影へ突き出した杖の先端から、極太の黒き光が放たれる。それは影を全ての見込み消滅させた。
「やったか!?」
「待って」
敵が倒されたように見えて喜びそうになるアンダークスを圭吾が抑える。まだ敵が本当に倒されたかは分からないのだ。
魔法が通過した後には、小さな狼の形をした黒い影が立っていた。
『ヒト、マタ、ウバッタ』
その声と同時に、狼の影は消え去った。残ったのは生き残った圭吾達一行。森の中の激戦はこうして幕を降ろしたのだった。
久々に投稿できました!
こ、これでも自動車学校で忙しかったという正当な理由があったんですよ!
……八月末までは。
九月入ってからはそれまで投稿してなかったことからズルズルと投稿せずにいてしまいました。
本編の話に入らせていただきますと、謎の声が出てきましたね。
圭吾だけに聞こえる謎の声。話の根幹に関わってきそうですね。
次は早く投稿できるように頑張りたいと思います。
それではまた次回お会いしましょう。