十五の幻想 その先に待つものは
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「いつつつつ」
「う、うーん」
圭吾とアンダークスの二人は馬車の中で痛みに悶えて横になっていた。
二人とも模擬戦とは思えないような、自分の限界を見せる戦いを繰り広げたのだ。こうなるのは無理もないだろう。そこまで本気を出したからこそ、心の中のもやもやとしたものを吹っ切れたのだろう。
そうはいっても、痛いものは痛い。二人は何故戦ったのかと、今更になって後悔なんかをしている。
「馬車が手に入ったおかげで、予定よりも随分と早く王都に着けそうですよ。二日後には着けると思います」
アンブラの言葉に反応するものはいない。いや、したくてもできないのだ。
「アン様、その間の道のりになにかありますか?」
少し遅れてマフリが聞いた。その時に馬車の速度が若干落ちる。
聞かれたアンブラは地図を指でなぞって見つめる。その指が一点で止まった。
「ちょっと行くと森があるみたいです。一応回り込んで進めば避けて通れるけど。そうすると王都に着くのが二日遅れちゃいそう……」
圭吾達一行は王都に行くのに急がなくてはならない。しかし、森の中は何が起こるか分からず、とても危険だ。それに遅れるのは二日だけだ。避けて通っても問題はないかもしれない。
(森か……)
アンブラが思い出したのはあの夢のことだ。夢の中で森の中を歩いていた、そんな気がする。
「ケイゴ様はどうなさいますか?」
御者台からマフリが圭吾の方を見ると、うなされている圭吾がいて、思わず苦笑いをしてしまう。
圭吾は答えるために、一応体裁を整えようと体を起こすが、痛みのせいでやはり倒れこんでしまう。その光景が滑稽だったのか、他の三人が吹き出してしまう。アンダークスは、吹き出した反動で激痛に襲われ悶えてしまう。それを見た圭吾が今度は笑い激痛に襲われる。そんな循環があり、しばらくの間笑いがこの空間を包んでいた。
「つつつつつ……。そうだね……。僕達は一刻も早く着かなきゃいけないし、森の中を通ろうか」
「うぐ。あ、安心しろ。俺たちなら野生動物がいてもなんとかできるはずさ」
全く以て安心できないが、アンダークスが頼もしいことを言う。
そうこう話していると、遠くに件の森が見えてきた。
回り込むと二日も遅れると聞いて大きな森を想像したが、距離と見えてる規模を照らし合わせると、想像よりも遥かに大きかった。
あまりの大きさを目の前に、先程の決断を変えてしまいたくなってしまう。全員がその雰囲気に飲み込まれて、ポカーンとしていた。
「い、行こうぜみんな!」
アンダークスの一声で、みんなが我に帰る。こういう時に、彼のようなムードメーカーは輝く。
森の中に入ると意外と道はしっかりとしていた。獣道だろうか。もし獣道であるのならば、周囲には警戒して進まねばなるまい。
木々が鬱蒼と茂っており、光の差し込みが幻想的に映る。しかし光量が足りず、危険度はとても高かった。
ガコンガコンガコン。
「うわ!のわっ!へぐ!」
「あだっ!痛っ!げほ!」
木の根や大きな石に乗り上げ馬車が揺れるたび、圭吾とアンダークスの悲鳴が響き渡る。実はアンブラやマフリも悲鳴を上げているのだが、二人の声が大きくて掻き消してしまっている。さらに森の中の道が真っ直ぐ進むはずもなく、蛇行によってさらに悲惨な状況は続いた。
意外なことに、森の中では危険生物や大型生物とは出会わずに夜になった。
少し開けたところで野宿をすることに決めた。
火が周りの木に飛び火しないように注意して食事をし、明日に備えて眠ることにした。野生動物に警戒をするために、交代で見張りをすることにした。このときに圭吾の腕時計を見せたら、全員が驚いた顔をしていた。
◆ ◆ ◆
夜も更けこんですっかり深夜になる。
月明かりに目が慣れ、木もこの辺りは少なく、ある程度周りを見渡すことができる。
見張りをしていたアンブラは、すっかり退屈をしていた。
何かが起こってしまっては大変だ。しかし何も起こらないというのは、人の心を鬱屈とさせていく。
眠気を振り払い、少しでも暇を潰すために、アンブラは周りを観察する。
寝返りを打つ度に呻く圭吾とアンダークス。馬車の中で上品に仰向けで眠っているマフリ。彼等を起こしてしまうわけにはいかないので、そうっと辺りを散策する。
すると、細い小道のようなものを見つける。
(私はこれを知っているような気がする)
アンブラは導かれるように、小道を進んでいく。
先程までいた場所とは違い、薄暗い道をどんどん先へと進んでいくアンブラ。その足取りは段々と早くなっていった。
道を進んだ先には湖があった。
奇妙なデジャヴュにアンブラの鼓動が早まる。
湖に近づき、その湖面を覗き込んだ。そこには自分の顔が映り込む。アンブラにはそれが奇妙なものに見えてしまう。
突如湖面にアンブラとは違う影が映り込んだ。
「こんなところでなにしてるの、アンブラさん」
そこにいたのは圭吾だった。偶然起きだしてきたのか、寝ぼけ眼を擦っている。
「一人で出歩いたら危ないよ。戻ろう」
「……はい」
圭吾に促されるまま、この場を去ろうとするアンブラだったが、視界の隅に石像のようなものが映った。
「あの、ちょっとまってください!」
アンブラは石像の方に走り出した。それを見た圭吾は一瞬目を丸くする。
「なるべく早くね」
圭吾はそう言って、湖の場所の入り口辺りでアンブラを待つことにした。
石像は大分壊れていて、女性を象った像であったようだと推測することしかできない。その説明文であろうところには、
『破 と 生 魔』
と記されていて、これ以降の部分は読めなくなっている。
なんとなく、ここに来て正解だったのではないかと、アンブラはそう思ったのだった。
遂に投稿できました!
大学とはいえ、テスト勉強というのは大変ですね。
しかし、これから夏休みに入るので、投稿ペースも良くなるのではないかと思います。
(サボらなければね)
それではまた次回お会いしましょう。