幻想間劇の一 黒の少女
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気付いたら暗い森の中にいた。
私は確か、宴会の後に集会所で眠りに就いたはずだ。
何かやむを得ない事態になって、私を眠らせたまま連れ出したのかもしれない。一瞬そう思ったが、それならばなぜ仲間達は私の近くにいないのだろうか。
では、人攫いにでもあってどこかに放置されたのだろうか。そうだとしたら、あまりにも自分の格好は綺麗すぎる。綺麗なまま連れ去るとしたら、それは奴隷として売るためだろうが、それならばこのように放置する訳がない。
なんにせよ、この場に留まっていても何も始まらない。
進むのならば、どちらに進むのがよいのだろうか。普通であれば、森とは反対に進むべきなのだろう。しかし、森の奥へと進めと、そう誰かに言われている気がするのだ。
私は自分の勘に従って、森の奥へと進むことにした。
進んでいると、足元に違和感を感じた。歩いている感じが薄い。足元に視線を向けると、何も履いていなかった。裸足だった。裸足で森の中を歩いているのだが、足が全く汚れていない。
意識すればするほど、この森は現実感が薄れてくる。とても不気味だ。すぐにでも引き返したい。そう思うのだが、体は前に進んでしまう。好奇心から?いや、違う。頭じゃない。本能の部分というべきなのだろうか。惹かれているのだ。
森を進むごとに、周囲はどんどん暗く、不気味さを増していく。
ある程度進んだところから、恐怖心を忘れていた。むしろ心地よささえ感じるようになってきている。
青白い光が見えてくる。どうやら森の中に、開けた場所があるのだろう。
そして辿り着いた。そこは神秘的な湖だった。暗い森の、唯一輝く湖。なんと美しい光景なのだろうか。
湖の中央、そこに人が立っていた。おかしな感じがする。人が湖の上にいることもだが、それだけじゃない。いや、そんなことじゃない違和感を感じるのだ。
湖の人は、ゆっくりとこちらへと近付いてくる。近付いてくることで、原因不明の違和感は、奇妙な確信へと変わった。
私は湖に顔を向けることで少しの安心と、底知れぬ恐怖に襲われる。
(大丈夫、私は私だ)
湖の人が目の前まで来る。今すぐにでも逃げ出したい。けれど、足が動かない。
「あなたに、真実をあげるわ」
そこにいたのはアンブラ―私自身だった。今、二人のアンブラが向き合ったのだった。
◆ ◆ ◆
「起きてくださいませアン様」
「んぅ」
マフリに揺すられてアンブラは目を覚ました。
「やっと起きてくださいましたわ。もうすぐ出発ですわよ」
そこは昨日寝た場所と同じく集会所だった。
先程まで奇妙な夢を見ていた気がするが、その内容がいまいち思い出せない。
夢というには気持ちの悪い程現実的で、しかし現実ということを全力で拒否する、そんな夢だった気がする。
「分かりました。すぐに準備しますね」
所詮は夢だと、そう割り切って忘れることにした。
出発の準備のとき、アンブラが触れたことで、魔法の杖が薄く光る。そのことに、誰も気づかなかった。
今回の番外編はいかがでしたでしょうか。
ちょっと文字数少な目ですが、そこはご容赦ください。
本編中の、「これはどういうことだ」「これは前書いてたことと矛盾するぞ」ということがありましたら、お気軽に言ってください。
そのような意見がある方が、作者としてはやる気が出るものです。
では、また次回お会いしましょう。