十の幻想 そして歴史を繰り返す
誤字脱字がありましたら報告お願いします。
感想や意見をくださるとうれしいです。
パウペルに案内されて、大きな建物の裏口から入る。その建物は表向き集会所のようで、人が多く来ても怪しまれることはないそうそうないだろう。倉庫に入り、その奥で地下への入り口を開ける。階段を降り切ると明るい部屋に出た。
「おい、パウペル!てめえ、役人に喧嘩売ったそうじゃねえか!なに勝手にやってくれてんだ!?」
部屋に入ってすぐ怒号が飛んでくる。怒鳴ってきたのは大柄の男性で、他にも数人の人がいる。
怒られた当人であるパウペルはシュンと小さくなる。
「あ、あの」
圭吾が男性に声を掛けると、ギロっと睨みつけられる。その視線だけで委縮してしまう。
「なんだてめえら。パウペル、何考えて人間や獣人を連れてきやがった!」
「こ、この人達は私達の味方になってくれると……」
「はあ。本当考えが足りないなお前は。物腰が丁寧だから頭もいいのかと思えば、ただ愚直に抗議するだけ。その上、よく知りもしねえスパイかもしれねえ奴らまで連れてくるなんてよ」
あまりにも正論すぎて何も言い返せない。アンダークスは何かを言おうと前に出そうになるが、何を言っていいか分からず、どうしようもできないようだ。
「まあそこまで熱くならんでもいいじゃろ。なあテナークス」
テナークスというらしい男性にそう呼びかけたのは、一人の老人だった。
「しかしバルバ爺!」
テナークスは老人に訴えかけようとしたが、老人の人睨みで黙ってしまう。その目を見ていた圭吾達も委縮する。この老人はただの老人ではなさそうだ。
「わしには彼等が敵のスパイには見えんよ。あまりにも未熟すぎる。相手の実力も量れんとはまだまだじゃな」
そう指摘されて、テナークスは老人に頭が上がらないようだ。見ただけで相手が量れるようになったら、もはや達人の域であると思うのは圭吾だけであろうか。
「それにな、わしも人間じゃ!先程の発言はハエレティクスでないわしへの侮辱と取るがよいか?」
「す、すいやせん!」
「そうじゃ。反省したら謝る。それでよいのじゃ」
圭吾達の関せぬところでどんどん話が進んでいく。
テナークスが頭を下げ終わったところで、老人―バルバが圭吾達の方を向く。
「びっくりさせてすまんかったのう。しかしじゃな、この村がそれだけ危機に瀕しておることは分かってほしい」
先程の超然とした様子から打って変わって、今度は低姿勢に圭吾達に接してくる。それが逆に、大変さを物語っていた。
「それはパウペルさんの話で分かってます。それで、その」
「なんじゃ?」
「あなたはどうしてこの村に?」
その質問に、聞かれたバルバは遠い目をした。圭吾のような若者には理解できない、そういう世界を感じる。
「そも、ハエレティクスは異種族のハーフのことじゃ。ここまで言えば分かるかの?」
圭吾達は首を捻る。答えが出そうで出てこないもどかしい感覚を味わうなか、マフリが一足早く答えに辿り着いたようで、得心のいった顔をしている。
「お爺さんはハエレティクスの親なのですね」
「お。獣人のお嬢さん大正解じゃ。他の三人には同じ人間としてがんばってほしかったがのう」
バルバはマフリの頭をなでる。獣としての本能なのか、気持ち良さそうに表情を緩ませる。
一通りなで終わった後、咳払いを一つして、席に腰かけた。
「よっこらせっと。お前さんらも座るがいい」
バルバに促されるままに席に着く。部屋に入ってから立ちっぱなし、外にいた時間も考えるとそれなりの時間立っていただろうか。久々に座れて、体から力が抜ける。
「この村は過去の大戦の時代に、駆け落ちした異種族の集った村なのじゃよ。ハエレティクスの災厄の話も、本当は自分達を守るためのデマ情報だったんじゃがな。思いの外広まってしまっての。村から出るに出れんくなってしまった」
バルバの口調は軽いものだったが、その内容はとても重要だった。その生活は、自分達で選んだとはいえ、生き辛いものだっただろう。
「生活し辛くはあったが、充実していたよ。じゃがな、災厄なんぞ存在しないとバレてしまったようでの。そこからは搾取生活の始まりじゃ」
そこで場の空気が重くなる。災厄の話で生活し辛かったのに、その疑いが消えたら、その方がより恐ろしい事態になってしまったのだ。そしてその問題は現在進行形で行われている。相手が役人ということも向かい風だった。
「どうにかしようと思っておるんじゃが、どうにも良い案が重い浮かばんのじゃ」
「…はい!」
みんなが黙り込む、かと思われた時、すぐに声が上がった。声を上げたのはマフリだった。パウペルの話を聞いてから、マフリがやけに活発的だった。
「災厄を本当にしてしまえば良いと思うんですの」
彼女の言葉には、強い決意が感じ取れた。
なぜ小説のプロはあんな魅力的な文章やストーリーを書けるのか。
経験、才能の差でしょうか。
勉学、遊び、執筆の全てをこなすのは本当に大変ですね。
では、また次回。