始の幻想 終わりから始まる物語
これは普通だった少年の物語です。
誤字脱字ありましたら、教えてくださるとありがたいです。
多数の白装束の人間が、巨大な魔方陣を囲み、なにかを唱えている。
その光景を、少し離れたところから眺める男の表情は、とても複雑なものだった。男の内心は焦りと諦め、恐怖、そして僅かばかりの希望に埋め尽くされ、表情はその混沌をもっともよく表しているだろう。
男の名はアレイザード・E・ヒュムレイア。大陸アロンダードで、一番の繁栄を誇る国家ヒュムソルの現国王だ。
ヒュムソルは今、これまでになかったほどの危機に瀕している。いや、それはヒュムソルだけの危機ではない。ヒュムソルが潰れてしまえば、それは大陸全土に及ぶだろう。だから、国王は先代の王達が対立を続けた他国と協力して、ある一つの一大計画を行った。
勇者召喚。
伝説の時代。まだ世界に神族と魔族が存在していたそのときに、当時の人々が自らを守るために編み出した秘術。学者達に文献を残らず調べさせ、研究し、そしてなんとか復元したその術を、今日この日に行おうとしていた。成功する可能性はとても低い。しかし、その可能性は大陸が救われる運命と同値だ。なんとしてでも成功させなければいけない。
魔方陣が輝き始める。その段階に至るまで数時間を要したのだ。人々は失敗かと何度も思いそうになったが、諦めずに続け、そして、遂に反応を見せたのだ。だが、これが術の成功を意味するわけではない。やっと魔方陣に魔力が通った状態だ。それだけ集めるのに苦労するほどの魔力を、この魔方陣は喰い尽くして、術を発動させる。
起動を始めた魔方陣はじょじょに輝きを増していく。その光景に、アレイザードの顔に希望の色が取り戻されていく。輝きを増した魔方陣は、突如、決壊したように光を放出し始めた。光の奔流は周りの白装束の人々を壁際へ押し流した。
術の暴走かと思われたが、誰も止めることができず、ひとりでに進行していく。
やがて光は柱の形を取り、二本の光の道が伸び出した。
「繋がった……」
アレイザードはそんな声を聞いた気がした。アレイザード自信が発した言葉かもしれない。
この術はヒュムソル以外でも行われている。エルフの国ジェピタリス、獣人の国バウレイズとの、三国同時勇者召喚だ。
三つの召喚の光が三角形を描く。
光は虹色に変化を遂げ、砕け散った。
魔方陣の中心に人影が見える。どうやら成功したようだ。
白装束の何人かが人影に駆け寄る。そのあとに続いて、アレイザードもゆっくりと近寄る。
「君が勇者かい?私達が君を呼んだんだ。こんな場ではなんだ、もっと相応しい場で話そう」
そう言って、近くに人を呼び、彼女を案内させる。
アレイザードは落胆していた。これだけの大儀式をして、出てきたのが――屈強な戦士を周りが期待する中――ひ弱そうな少女だったのだ。
しかし、まだ望みはある。あまり頼りたくないが、他の二国が成功していれば問題ない。
そこにひとつの報告が届く。
「大規模な魔力反応が、我が国の南方にあり!勇者召喚と同様のものと思われます」
アレイザードは文献の一文を思い出す。
『黄金の柱、花となりて勇者を包む』
魔力は漏れ出し、この術は失敗していたのだ。その事実の思い至った人々の間に、暗く重い空気が立ち込めた。
◆ ◆ ◆
疾走。疾走。疾走。
人には走らなければならないときがある。それは何か?
ゲームの発売日だ。
道路を走る少年は、ネット通販が普及してる現代でも、律義に店頭で予約して購入している。あとは家に帰ってプレイするだけだ。
気分が浮かれていた少年は、周りの注意が疎かになっていた。
交差点に足を踏み出す。ブレーキの音がやけに鮮明に聞こえる。誰かが叫び手を伸ばしている。
(ああ、最後の楽しみもなく終わるのか)
トラックが残酷にも通り過ぎる。ゲームソフトがタイヤに踏みつぶされて割れる。
トラックが止まり、大慌てで運転手が駆け寄ってきた。だがそこで人々が見たのは割れたゲームソフトだけだった。
これは普通だった少年の、普通でない冒険の物語である。
新装開店リニューアルでお送りします。
また、更新しなくなるんだろ?との疑問はごもっともですが、なんとか続けていきたいと思いますので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。
更新は毎週金曜日を予定しています。