過去編その2:産声を上げろ
まだ「東京帝国学園」が、単なる「東京学園」だった頃の話である。
昼休みのカフェテリアは、平和な生徒たちの嬌声で満たされていた。あちこちで恋バナに花が咲き、生徒会室では「文化祭の模擬店の予算配分」などという、反吐が出るほどどうでもいい議題で議論が紛糾している。 そんな、ありふれた、あまりに無防備な日常。
だが、図書室の奥深く、モニターの青白い光に照らされた神楽坂 玲緒奈の瞳には、まったく別の地獄が映っていた。
「……愚かね。誰も気づいていない」
玲緒奈は、昨年度公開された『全国学園統一戦争法案』の草案データをスクロールし、冷たく吐き捨てた。 表向きは「少子化に伴う学園の統廃合を、生徒たちの自主的な競争によって決定する」という美辞麗句で飾られている。だが、玲緒奈の聡明さは、その行間に隠された国家の真の悪意を読み取っていた。
「これは競争じゃない。『蠱毒』よ。国は、学園同士を殺し合わせ、生き残った最も凶暴で優秀な遺伝子を『国の指導者』として抽出するつもりだわ」
「……そして、負けた者は『資源』として消費される。そういうことですね、玲緒奈様」
背後から、芳醇な紅茶の香りが漂う。 西園寺椿。彼女だけが玲緒奈の言葉を信じ、その明晰な頭脳で同じ絶望的な結論に達していた。
「ええ、椿。このままでは東京学園は、狩られる側になる。……生き残るには、私たちが『喰らう側』に回るしかない」
玲緒奈は立ち上がり、窓の外の平和な校庭を見下ろした。 無邪気に笑う生徒たち。彼女たちはまだ知らない。自分たちが間もなく、檻の中の獣になることを。
「支配するわ。この学園を。……甘っちょろい民主主義ごっこは、今日で終わりよ」
支配のためには、手足となる組織が必要だ。 当時、学園の最大勢力は「民主会」。話し合いと平等を重んじる、典型的な事なかれ主義の集団だった。彼らは「平和」という麻薬に浸かりきっており、使い物にならない。
対して、玲緒奈たちが目をつけたのは、弱小野党の「大和会」。 「気合! 根性! 訓練予算をよこせ!」と叫ぶだけの、時代錯誤な体育会系集団として、生徒たちから鼻つまみ者にされていた組織だ。
「ここなら、筋肉はあるけれど脳みそがない。乗っ取るには好都合ね」
玲緒奈と椿は、新入生として大和会に入会した。 その圧倒的なカリスマと資金調達能力、そして椿の完璧な実務能力は、瞬く間に単純な大和会の幹部たちを骨抜きにした。
「すげぇ! 玲緒奈ちゃんの言う通りにしたら、部室に最新の業務用エアコンがついたぞ!」 「訓練場の拡張許可も降りた! すげえや! 一生ついていきます、姐さん!」
無能な幹部たちを「姐さん」と呼ばせておだて上げ、実権を掌握した玲緒奈は、その裏で着々と「本物の才能」を一本釣りしていった。 彼女が求めたのは、平和な学園生活からはみ出した、鋭すぎる牙を持つ異端児たちだ。
喧嘩っ早いが誰よりも強く、後輩達の信頼を集める、一ノ瀬ほむら。
中立と正義を愛するがゆえに、法による残酷な断罪を渇望する法律家、九条院紗夜。
守らせれば右に出る者はおらず、データで戦争をする冷徹な守護者、桐生鋼。
理屈よりも直感で戦場を支配する、感覚派の戦略の天才、不知火舞花。
あらゆる情報を収集することに長ける、天才的な覗き屋、如月零。
そして、大衆を扇動することに長けた、人心掌握の天才アイドル、夢咲らら。
「……揃ったわね。これより、大和会は生まれ変わる」
最強の布陣が完成した夜。 玲緒奈が指を鳴らすと、それまでの旧幹部たちは、椿が仕込んでいた「部費の横領」や「不正経理」の罠にはめられ、一夜にして「処分」された。
翌朝、学園生たちが目にしたのは、昨日までの汗臭い集団ではない。 玲緒奈という『カリスマ』を頂点とし、優秀すぎる異端児たちが脇を固める、冷徹で美しい独裁組織へと変貌を遂げた、新生「大和会」だったのだ。
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次回、過去編その3:死にたがりの兵隊さんです!
次回投稿予定時刻は2/9 12時です。
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