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オトシゲ:乙女は資源になりました。~男性絶滅後のディストピアで、学園経営しちゃいます~  作者: 428の968
第一章:関東圏統一戦争

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21話:ティータイムのスパイス

東京帝国学園 本部棟 最上階『大和会役員会議室』】 【関東圏大戦争 終結から3週間後】


「――以上が、今期の決算報告になります。新規獲得した31校からの『資源』流入により、軍事費の赤字は完全に解消。むしろ、過去最高益を更新する見込みです」


労働長・五十嵐結衣が、タブレットの画面をスライドさせながら淡々と、しかしどこか誇らしげに報告を締めくくった。 クリスタルのシャンデリアが輝く会議室。円卓には、いつものように最高級の紅茶と、色とりどりのマカロンやケーキが並んでいる。窓の外には、完全に支配下に置かれた学園都市のパノラマが広がっていた。


「ん〜っ! 最高! 新しい実験機材、これで買い放題じゃん!」 研究開発長・氷室アヤメが、行儀悪く足をブラブラさせながら歓声を上げる。 「あはは、アヤメちゃんったら。でもぉ、私の宣伝費も倍増してくれないと困るよぉ? 『44校合同アイドルフェス』の企画書、もうできてるんだからっ☆」 宣伝長・夢咲ららも、クリームたっぷりのケーキを頬張りながらウインクを飛ばす。


平和だ。あまりにも平和で、優雅な午後のひととき。 3週間前まで、血で血を洗う侵略戦争をしていたことなど、まるで遠い昔の出来事のようだった。勝利とは、全てを肯定する。彼女たちは勝者であり、この甘い空気こそが、その正当な報酬だった。


「………………」 その輪の中で、司法長・九条院紗夜だけが、少しだけ緊張を解いた顔で紅茶に口をつけていた。 (終わった……。少なくとも、当面の戦争は) 彼女の胸中にあるのは、安堵と、隠しきれない疲労感だった。 この3週間、彼女は必死だった。膨れ上がる占領地域の管理、複雑化する権利関係の処理、そして何より――あの「秘密」を守り通すこと。 武蔵野庭園学園旧役員会の生き残り、カエデ。彼女を極秘裏に保護し、所属データを改竄して遠方の従属学園へ逃がす手筈。それは、法の番人である彼女が初めて犯した、致命的な背任行為だった。だが、バレてはいない。私の事務処理は完璧だったはずだ。


「――会長。発言を許可願います」


その時。 氷のような声が、暖かな空気を切り裂いた。 情報長・如月零。彼女は自分の席ではなく、入り口の扉の前に立っていた。その瞳は、以前のような無感情ではない。暗く、深く、底の見えない『執念』の炎が宿っていた。


「あら、零。どうしたの? 席に着かないで」 神楽坂玲緒奈が、カップをソーサーに置き、優雅に微笑む。 「いえ。……掃除が終わっておりませんので」 「掃除?」 「はい。この部屋に、一匹。『鼠』が紛れ込んでいるようですので」


零の視線が、円卓のメンバーをゆっくりと舐めるように動く。そして、ピタリと止まった。 紗夜の顔で。


「……え?」 紗夜の心臓が、早鐘を打つ。 零が、懐から一枚のチップを取り出し、テーブルの中央へ放った。空中にホログラムが展開される。


「先日、辺境の第8廃棄区画にて、『S.I.D.(戦略情報局)』が、不審な輸送車両を確保しました。……まずは、こちらの映像をご覧ください」


ホログラムに映し出されたのは、二つの映像だった。 一つは、深夜のデータバンクにアクセスする紗夜の後ろ姿と、彼女がカエデを裏ルートで逃がそうとしている監視カメラの映像。 そしてもう一つは――見るに耐えないこの世の地獄の光景だった。


『あ、あがっ! やめて、許して……! 知らない、私は……!』 『嘘だねぇ♡ まだ指は1本残ってるよ? 正直に言わないと、また最初からやり直し(リスポーン)だよぉ?』


映っているのは、メーテル突撃隊の上位組織S.I.D.(戦略情報局)・拷問部隊による尋問風景。椅子に縛り付けられたカエデに対し、笑顔の少女たちがペンチやバーナーで『()()』を行っている。 3度のやり直し(リスポーン)を含めた十数時間の早送り映像。カエデの精神が削り取られ、プライドが砕かれ、ただ痛みを回避するためだけの肉塊へと堕ちていく過程。


『い、言います……! 言うから許して……!! 紗夜さんが……九条院紗夜が、手配してくれたの……!』 『あはっ♡ よく言えました!』


「……っ!?」 紗夜の顔から血の気が引く。 「そ、それは……強要された証言よ! 捏造だわ!」 「捏造、ですか」 零は冷たく鼻を鳴らすと、パン、と乾いた柏手を打った。


「では、現物に確認してもらいましょうか」


扉が乱暴に開かれた。 入ってきたのは、戦略情報局(S.I.D.)員たち。彼女たちは、何か大きな『麻袋』を引きずっていた。袋の底は黒ずみ、何か湿った液体が滲み出ている。


「ほらよッ!」 ドサッ!! 局員が、ゴミ袋を捨てるように麻袋をひっくり返す。中から転がり出てきたのは――


「ひっ、うぅ……ごめんなさい……ごめんなさい……」


それは、カエデだった。 衣服は剥ぎ取られ、身体には無数の『質問(尋問)』の痕跡。手足はガムテープでぐるぐる巻きにされ、芋虫のように床を這っている。かつての名門校の副会長の威厳など欠片もない。ただの、壊れた玩具。


「カ……エデ……?」 「あ、ああ……紗夜さん……ごめんなさい、痛くて、痛くて……私、全部……」 カエデは腫れ上がった目で紗夜を見上げ、許しを請うように、けれど裏切りの言葉を吐き出した。


会議室の空気が凍りつく。 アヤメがフォークを止め、ららが笑顔のまま固まり、結衣が冷たい目で眼鏡の位置を直す。 全員の視線が、紗夜に突き刺さる。動かぬ証拠だ。


零は、一切の表情を変えず、ただ静かに歩み寄ってくる。かつて、カエデを取り逃がした失態を犯した時の、あの自信なさげな彼女はもういない。 ここにいるのは、粛清者だ。


「誤解、とは言わせませんよ。……司法長。貴女は以前言いましたね。『法とは社会の背骨だ』と」 零の手には、いつの間にか音もなく抜かれたサバイバルナイフが握られていた。 「背骨が腐っては、組織は立ち行かない。……ですよね?」


「ま、待っ――」


ドスッ。


言葉よりも速く。思考よりも速く。 零のナイフが、紗夜の喉仏を正確に貫いていた。 「か、ひゅ……」 鮮血が、純白のテーブルクロスに赤い花を咲かせる。紗夜は目を見開いたまま、何かを訴えようと口をパクパクとさせ――そして、糸が切れたように椅子から崩れ落ちた。


「きゃあ! 紗夜ちゃんったら、汚い!」 ららが、血飛沫を避けて大袈裟に悲鳴を上げる。だが、誰も動揺していない。玲緒奈に至っては、退屈そうに頬杖をついただけだ。

零は、血に濡れたナイフをハンカチで拭いながら、冷酷に告げた。「ただの死など、救済に過ぎません。裏切り者には、相応の『お役目』を与えねば」


零が指を鳴らす。 その合図と共に、待機していた局員たちが手際よく紗夜の遺体を引きずり出し、『死体回収ボックス(ゴミ箱)』へと放り込む。 そして、わずか数分後。


「いやっ、離して! いやああああっ!!」


悲鳴と共に、緊急蘇生室から一糸纏わぬ姿で引きずり出されてきたのは、蘇生したばかりの紗夜だった。 肌は傷一つなく再生している。だが、その顔は恐怖で歪み、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。生き返った瞬間に拘束され、再び地獄へ引きずり戻された絶望。「はいはい、暴れないでくださ〜い!」 局員たちが、紗夜を会議室の中央に引き据える。そこには、いつの間にか異様な『椅子』が用意されていた。


「こちらが私の新作!」 アヤメの発表会が始まる。 それは、拘束椅子に無数のチューブと電極が接続された、悪趣味極まりない装置だった。 「『ポータブル生贄抽出ユニット・改』! 持ち運び可能にしたんだけどぉ、出力調整がガバガバでさぁ。魂を抽出するのにすっごい時間がかかる上に、神経に直接『快楽信号』と『激痛信号』をランダムで流しちゃうバグがあるの! 効率悪すぎてお蔵入りだったんだけど……」


アヤメは、拘束されて震える紗夜の頬を撫で、ニタリと笑った。 「拷問と発電を同時にやるには、最高のおもちゃでしょ?」


「や、やめて……アヤメ、お願い……私よ、仲間じゃない……!」 紗夜が懇願する。


だが、アヤメは楽しそうに準備を進め、「はい、セッティング完了! スイッチ・オン☆」


バチィィィィィィン!!


「ぎゃあああああああああああっ!?!? ひぐっ、あ、あ、あああああっ♡!? 痛い、熱い、気持ちいい、いやあああっ!!」


絶叫。 紗夜の身体が弓なりに反る。電流の痛み、そして脳を焼くような強制的な快楽。相反する刺激が、彼女の精神をミキサーにかけるように掻き回す。 抽出ユニットが不気味な低音を唸らせ、紗夜から漏れる青白い光()を、少しずつ、本当に少しずつ吸い上げ始めた。


「ん〜、やっぱり効率悪いなぁ。でも、見て見て!」 アヤメが部屋の照明スイッチを落とす。 すると、シャンデリアが、紗夜の悲鳴に合わせて明滅し始めた。彼女の命が、そのままこの部屋の明かりに変換されているのだ。


「あはははは! 紗夜ちゃん、役に立ってるよぉ! 凄く綺麗!」 ららが手を叩いて喜ぶ。 「んぐっ、あ、あ……たす、けて……れお、な……かいちょ……」 紗夜は白目を剥き、涎を垂らしながら、虚ろな目で玲緒奈に救いを求めた。 だが、玲緒奈は、そんな紗夜の姿を『BGM』のように聞き流し、優雅にティーカップを持ち上げた。


「……うん」 玲緒奈は、一口紅茶を啜り、満足そうに微笑んだ。 その横では、かつての「仲間」が、拘束され、電気を流され、家畜以下の扱いで消費されている。断末魔の絶叫と、肉が焦げる臭い。それが、この優雅なティータイムのスパイスだった。


「今日の紅茶は、紗夜の味がしてコクがあるわね」


その言葉に、役員たちがドッと笑う。 「さすが会長! 詩的ですね!」 「紗夜ちゃんも、最後に会長のお役に立てて本望でしょ〜!」 「……ふふ。裏切り者の末路として、教科書に載せちゃいましょう」


和気藹々とした談笑。 その中心で、紗夜の意識は、永遠に続くかのような苦痛の中で砕け散っていった。 彼女は最後に悟った。 (ああ……法も、正義も、もうない。ここはただの、共食いの檻だ……) 彼女の思考が途絶えるのと同時に、シャンデリアが一際強く輝き、そしてプツンと切れた。

一章 完!!  ってことでね!

かわいくて苦しいディストピア。いい感じに表現できてるんじゃないでしょうか!

次回投稿予定時刻は2/7 17:00です。

次のお話は... 過去編その1:Yの終焉と「器」の定義 です!!

そろそろ少しずつ皆さんと世界観を共有したいので、東京帝国学園の過去のお話について。もう少し書き進んだら2章という感じでちょっとずつ続きを投稿していきます。

感想、ブクマ、評価などいただけると、更新のエネルギー(生贄コスト)になります! よろしくお願いします!

またね!

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