19話:最後の一兵まで
【8日目: 栃木中央学園・第一会議室】
生き残った5校の学園には、それぞれ帝国学園から「統治指導部」の使節団が派遣されていた。 ギリギリの5位で滑り込んだ栃木中央学園。 その生徒会長『栗原くるみ』は帝国学園の使節団と対面していた。彼女は昨日の最終局面で、大量の仲間を帝国に売りわたし、その対価として得たポイントで生き延びた。
「――以上が、貴校に課せられる『従属学園条約』の草案となります」
帝国学園の使節団代表――黒いスーツに身を包んだ、事務的な口調の女生徒が、分厚いファイルを机に置いた。 くるみは、震える手でそれを開いた。 そして、数ページめくったところで、顔を真っ赤にして立ち上がった。
「ふ、ふざけないでッ!!」
くるみがファイルを床に叩きつける。
「なによこれ……! 『新入生50%の年次献上』!?『生徒会予算の全額没収』!?それに……『生徒会役員の全権剥奪と、帝国学園弁務官による直接統治』!?」
条約の内容は、独立など名ばかりの、完全なる「植民地化」だった。 特に『生徒税』と記された項目は、毎年配給される新入生の半数を、教育もせずにそのまま帝国へ「資源」として引き渡せという、悪魔の契約だった。
「私たちは勝ったのよ!?5位に入ったの!『自治権を認める』って約束だったじゃない!!」
くるみが叫ぶ。 彼女は、沢山の仲間たちを売ってまでこの地位を守ったのだ。それが、権限を奪われ、ただ帝国の手先として新入生を右から左へ流すだけの「中間管理職」に落とされるなど、認められるはずがない。
「修正を要求するわ!こんなの奴隷契約よ!認められない、絶対に!!」 「……」
帝国の代表は、表情一つ変えずにくるみを見つめている。 くるみは、その沈黙を「交渉の余地あり」と勘違いし、さらに声を荒らげた。
「もしこの条件を撤回しないなら、私たちは徹底抗戦も辞さないわ!まだ戦力は残っている!ここを要塞化して、最後の一兵まで戦ってみせる!!それでもいいの!?」
それは、ただの虚勢だった。もはや戦う力などない。だが、舐められてはいけないというプライドが、彼女に致命的な一言を言わせてしまった。
帝国の代表が、ふぅ、と小さく溜息をついた。
「『最後の一兵まで戦う』……ですか。ふむ、仕方ありませんね」
彼女は、まるでランチのメニューを諦めるような軽さで言った。
「貴校に、恭順の意思なし……と。我々に勝てるわけもないのに、現実が見えないとは。非常に残念です」
「え……?」
代表の女生徒が、制服のジャケットをバッと開いた。その身体には、プラスチック爆薬と無数の鉄球が詰め込まれた『自爆ベスト』が、隙間なく巻き付けられていた。
「なッ――」
「それでは、ごきげんよう」
カチッ。
ドォォォォォォォォンッ!!!!
閃光と轟音が、会議室を吹き飛ばした。爆風と共に、無数の鉄球が散弾となって部屋中を暴れまわる。「徹底抗戦」を叫んだくるみの身体は、言葉通り粉々に砕け散り、同席していた副会長や書記たちも、肉片となって壁にへばりついた。
「か、会長ッ!? うわぁぁぁッ!!」
廊下に待機していた栃木中央の生徒たちが、黒煙を上げる会議室になだれ込む。 そこは、地獄絵図だった。 部屋の壁は真紅に染まり、どの肉片が誰の物かなど判別すらできない。
「そ、蘇生!早く!! 蘇生室へ!!」 「急げ!!」
生き残った生徒たちが、廊下を走る。彼女たちにはまだ希望があった。この世界には蘇生がある。たとえ爆死したとしても、蘇生すれば生き返る。そう、信じていた。
【 WARNING : SPACE DISTORTION DETECTED 】
その希望を嘲笑うように、学園上空の空間が割れた。
「ひっ……!?」
転移ゲートから現れたのは、 重武装した『東京帝国学園・遠征軍装甲機動歩兵部隊』だった。 空から降下したパワードスーツ部隊が、真っ先に着地したのは――彼女たちが目指していた『蘇生室』の前だった。
「目標確認。蘇生施設、および指導部会議室」
ウィィン。 パワードスーツの肩に装備されたロケット砲が、無慈悲に火を噴く。
ズドォォォォンッ!!
「あ……」
蘇生ホールが、爆炎に包まれ崩落していく。 それは、会長たちを生き返らせる唯一の道を断たれた瞬間だった。
「そ、そんな……蘇生機が……」 「これじゃ、会長が……」
呆然と立ち尽くす生徒たちに向け、帝国学園の指揮官が冷酷に告げる。
「反抗する者には『死』を。二度と目覚めぬ、永遠の死を」
そこからは、「戦争」ですらなかった。 「見せしめ」のための、一方的な掃討戦。 指揮系統を失い、蘇生の希望も絶たれた栃木中央の生徒たちは、逃げ惑うことしかできない。 帝国学園の兵士たちは、それを楽しむよう追い回し狩っていく。
「5位」という順位は、生存を保証するものではない。 それは単に、「帝国学園に逆らえばどうなるか」を他の学園に見せつけるための、生贄の順番でしかなかったのだ。
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次回、20話:命の価値 です!
次回投稿予定時刻は2/7 11時です。
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