1話:捕食者たちのお茶会
東京帝国学園 本部棟 最上階『大和会 役員会議室』 時刻:14:00
眼下に広がる巨大な学園都市を見下ろす、全面ガラス張りの会議室。 中央の円卓には、最高級の紅茶とケーキが並べられているが、その中心に展開されているのは、色気のない日本の関東圏を示す3D戦略ホログラムマップだ。
「――ふわぁぁ。入学式の演説、疲れちゃった」
生徒会長・神楽坂 玲緒奈が、ふかふかの革張りの椅子に深く腰掛け、退屈そうに長い脚を組む。 その横で、第一副会長・西園寺 椿が慣れた手つきで紅茶を注ぎながら口を開く。
「お疲れ様です、会長。ですが、息つく暇はありません。今年度の『宣戦布告ノルマ』は最低3校。早々にターゲットを決定する必要があります」
「3校? せこいこと言わないでよ、つばきちゃん」
口にクリームをつけたまま、遠征軍長・不知火 舞花が身を乗り出した。彼女の視線は熱っぽく、その隣に座る第二副会長・一ノ瀬 ほむらに向けられている。
「ほむらちゃんとデート……じゃなくて、遠征に行くなら、デッカい花火上げたいじゃん? ねー、ほむらちゃん♡」
「ああ、そうだな。雑魚を狩っても『遠征軍』の訓練にもならんよ。……手応えのある相手がいい」
ほむらが好戦的な笑みを浮かべて同意すると、舞花は嬉々としてホログラムマップの一点を指差した。
「じゃあ、ここ!『武蔵野庭園学園』を中心とした、西東京の学園同盟!」
マップ上に、31個の赤い光点が浮かび上がる。 それは、急速に支配圏を広げる東京帝国学園の脅威に対抗するために結成された、現在日本最大規模の学園同盟だった。
「……31校の同盟か。数だけは多いな」
情報長・如月 零が、手元の端末を操作しながら無感情にデータを読み上げる。
「盟主は武蔵野庭園学園。生徒会長は『清川 撫子』。……理想主義者だ。私たちの支配を『非人道的』と批判し、弱小な小学園を束ねている。……現在、同盟結成から2ヶ月と10日が経過」
「あら、素敵なタイミングですね」
穏やかな、しかし背筋が凍るような声が響いた。内務長・白鳥 詩織が、クスクスと笑う。
「同盟の『強制破棄』が可能になる3ヶ月目まで、あと20日……。その直前に、宣戦布告を行い、即日盟主を潰せば、彼女たちは恐怖心から結束力を失うでしょう。『裏切り』を誘発させるには最高のスパイスになるでしょう」
「コストを算出しました。」
電卓を叩く無機質な音が響く。労働長・五十嵐 結衣だ。
「敵の学園は、総生徒数およそ2万名。制圧時の推定損耗率を考慮しても、生贄用の捕虜として約6,000名の確保が見込めます。……今年度の蘇生ボーナス枯渇分を補填して、あまりある『黒字』です。役員各位の『万が一』を数回分担保できるでしょう。経済的観点から侵攻を推奨します」
「えぇ〜? 6,000人もぉ? 捕まえても牢屋パンパンになっちゃうよぉ〜」
宣伝長・夢咲 ららが頬を膨らませるが、その目は笑っている。
「でもぉ、『圧政に苦しむ小学園の生徒たちを、悪の同盟から解放する聖戦!』って宣伝すれば、うちの生徒たちの士気も爆上がりだねっ☆ アイドルライブも同時開催しちゃおっか!」
役者たちは全員、やる気だ。 戦争を、まるで遠足かイベントのように楽しんでいる。 だが、一人だけ沈黙を守る者がいた。司法長・九条院 紗夜だ。彼女は不快そうに眉をひそめている。
「……待ってください。武蔵野庭園学園は、中立を保とうとしている学園です。向こうからの挑発行為もないのに、一方的に宣戦布告を行うのは、『学園合併戦争法』の理念である『優秀な教育の追求』から逸脱していませんか?」
場がしらける。 舞花が「あーあ」と露骨にため息をつき、零は無関心に紅茶を啜った。
玲緒奈が、ゆっくりと紗夜の方を向く。
「 紗夜。貴女は真面目ね」
玲緒奈は立ち上がり、ホログラムマップの中にある『武蔵野』の輝きを手で掴むような仕草をした。
「優秀な教育とは、強さよ。弱者が徒党を組んで身を守ろうとするのは、教育の停滞……いいえ、『腐敗』だわ。掃除してあげるのが慈悲というものじゃない?」
会長の言葉は絶対だ。 そして、すでに心は決まっているようだった。 紗夜は唇を噛み、それ以上反論できずに俯いた。
「決まりね」
玲緒奈が宣言する。
「ターゲットは『武蔵野庭園学園』およびその同盟傘下30校。 作戦名は――『サクラチル』。 開戦は3週間後。……舞花、ほむら、準備はいい?」
「もっちろん! 最高に派手なデートにしよっ!」 「……鋼に留守を頼んでおかないとな」
「零は、『メーテル突撃隊』を先行させて。逃げ場を塞ぎ、内部から腐らせてちょうだい」 「……了解。新入生に2,3年生の勇姿を見せるのにちょうどいい」
「結衣は『生贄装置』のメンテナンスを。……今回は、大量よ」 「了解しました。フル稼働させます。新しい『魂』の香りが楽しみですね」
こうして、2万人の少女たちの運命が、紅茶の香り漂う一室で決定された。 玲緒奈が飲み干した紅茶は、まるで流れる血のように赤い。
三週間後、武蔵野の空に、絶望が開く。
また見に来てくれてありがとう!!
次回、2話 嵐の前の静けさ です!
同盟の盟主、武蔵野庭園学園サイドのお話です!!また見にきてね!
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