18話:結果発表
「かんぱーい!!」
祝杯の音が、生徒会室に高らかに響く。 テーブルには、備蓄していた高級な合成ジュースや保存食が所狭しと並べられていた。埼玉第四学園の生徒会長・高崎美里と役員たちは、勝利の余韻に浸っていた。
「いやぁ、昨日の夜はヒヤヒヤしたけど、あの『60万ポイント』は効いたわね!」 「ええ! 陸路(学園間接続道路)が封鎖されている以上、他の学校は大規模な移動ができないはず。これだけ稼げば安全圏よ」
この世界において、学園は孤立した都市国家のようなものだ。 各学園は「学園プラントライン」と呼ばれる居住区画に存在し、外界とは数本の「公道」でしか繋がっていない。そして、友好的な協定を結んだ学園同士でなければ「ワープポイント」も繋がらない。 つまり、他校を攻めるにはリスクの高い陸路を行くしかないのだ。
ピンポンパンポーン♪
正午のチャイムと共に、全てのモニターが強制起動する。 画面には、いつもの極彩色のステージと、夢咲ららが現れた。
『はーい! 愚かな家畜のみんなー! 運命の最終結果発表だよぉ〜!!』
美里たちは固唾を飲んで画面を見つめる。
『今回は大混戦! みんな生き残るために必死すぎて、引くぐらい残酷だったね☆ それじゃあ、上位5校を発表しまーす!』
1位:神奈川海洋学園(1,200,000 pt)
「……は?」美里の笑顔が凍りつく。桁が違う。
『1位の神奈川さんは凄かったね〜! なんと近くにあった中立公共施設の「第3資材管理プラント」を急襲! そこに研修に来ていた中小学園の生徒たちを、施設ごと制圧して根こそぎゲット! 公的施設を襲うなんて、狂犬すぎて最高!!』
……5位:栃木中央学園(650,000 pt)
「ま、待って……ボーダーが……65万……?」
『栃木さんも粘ったね〜!卒業年度生達を全員売り飛ばし、各学年から生贄を200人ずつ選抜したうえ、ラスト10分で、学園の地下に隠れ住んでいた脱走者達の隠れ家を帝国学園に通報!これはすごい!!』
「あ……あ、あ……」
『そして、惜しくも脱落! 第6位は……』
6位:埼玉第四学園(635,000 pt)
『ざんね〜ん!! あと1万5千点! 下級生達全員売ったのにねぇ〜? まさに「骨折り損のくたびれ儲け」!』
ガシャンッ!! グラスが落ちる音と同時に、空気が震えた。
【 WARNING : SPACE DISTORTION DETECTED 】 【 警告:学園上空に高エネルギー反応。大規模転移プロセス、検知 】
「て、転移反応!? 馬鹿な、ウチの座標コードは非公開のはずよ!?」 「ま、まさか……『大規模転移装置』!? あんな莫大なコストがかかる兵器を、たかが小学園の制圧に!?」
美里が窓に駆け寄る。 学園都市を覆う半透明の防御バリア――物理攻撃や陸路からの侵入を防ぐための鉄壁の守り。 その「内側」の上空、本来なら何もないはずの空間が、バリバリと紫色に亀裂を走らせていた。
帝国学園が誇る、距離を無視して軍団を送り込む戦略兵器。その月間維持費だけで中小学園の年間予算が吹き飛ぶ代物だ。
『ふふふ。埼玉第四さんには、研究局とっておきの新作プレゼントをあげるね♡』
空の亀裂から、巨大な「黒い円筒」が吐き出された。 それはまるで墓標のような不気味な金属塊だった。 パラシュートが開き、校庭の真ん中へ向かってゆっくりと降下してくる。
「ば、爆弾……?」
違う。爆発しない。 その代わり、円筒の側面にある無数のスリットが開き、圧縮された紫色の気体が、凄まじい勢いで噴き出した。
シュゴォォォォォォォォォ!!!
「ガスだ!! 防衛システム起動! バリア出力を最大に……」 「だめです会長!!」
役員が絶叫する。
「バリアを張っているせいで、ガスが外に逃げません!! 学園内が巨大な密室になっています!!」
「あ……」
それは、最悪の皮肉だった。 自分たちを守るはずのドーム状バリアが、今はガスを閉じ込め、濃度を高める「ガス室」の壁として機能していた。 紫色の霧は、逃げ場のないドーム内で対流し、あらゆる隙間から校舎内へと侵入してくる。
「ガスマスク!! 早く!!」
美里たちは必死でマスクを装着する。 しかし、モニターの中の夢咲ららがクスクスと笑った。
『無駄だよぉ。それは「経皮浸透性ナノ・ミスト」。吸わなくても、肌に触れるだけで神経を焼き切るの。……全身防護服も持ってない貧乏学園には、防げませ〜ん!』
「ぎゃああああッ!! 痛い、肌が、熱いぃぃッ!!」
廊下から悲鳴が上がる。 制服を貫通したガスが、生徒たちの皮膚を赤く爛れさせ、神経毒を流し込む。 美里も、マスクをしていない首筋や手首に、焼き火箸を押し当てられたような激痛を感じて崩れ落ちた。
「う、あ……ぐ……っ」
動けない。意識はあるのに、体が鉛のように重い。 薄れゆく視界の中で、空から次々と「人影」が降下してくるのが見えた。
シュッ、シュッ、シュッ。
それは、完全密閉された宇宙服のような強化外骨格と、無機質なフルフェイス・ガスマスクを装着した異形の兵士たち。帝国学園・遠征軍特殊制圧部隊『ヴォイド・ウォーカー』。彼女たちは紫色の霧の中を、まるで散歩でもするかのように悠々と歩いてくる。
【制圧完了・資産収奪フェーズ開始】
校舎の扉や窓が蹴破られる。入ってきた部隊は、床に転がって痙攣する美里たちを一瞥もせず、事務的に作業を開始した。
「第1班、データセンターおよびサーバー室へ。教育データ、技術マニュアル、生徒個人情報の全データを接収せよ」 「第2班、備蓄倉庫へ。レアメタル、食料、エネルギーセルを回収」 「第3班、美術品および校章旗の確保。……この絨毯も剥がせ。帝国学園士官室で使える」
バリバリバリッ! 壁に飾られた名画が額縁ごと引き剥がされ、金庫がバーナーで焼き切られる。 高価な実験器具、楽器、さらには校舎の建材の一部に至るまで。 「価値あるもの」は徹底的にタグ付けされ、コンテナと放り込まれていく。
遠い昔、第二次大戦でナチスが占領地で行ったような、徹底的かつ冷徹な「略奪」。 埼玉第四学園が120年かけて積み上げてきた歴史と富が、わずか数十分で帝国学園の底なしの胃袋へと消えていく。
「おや、ここに『指導部』が転がっていますね」
冷たい機械音声のような声。防護服の兵士が、美里の髪を掴んで引きずり起こした。ガスマスクの奥から、冷酷な瞳が覗く。
「あ……あぅ……(降伏……します……)」
美里は動かない唇で必死に訴える。 しかし、兵士は端末を確認し、首を横に振った。
「降伏は受け入れられません。貴官らは『リサイクル対象』です」
兵士の合図で、後ろから『隷属チョーカー』の入った箱を持った技術班の兵士が入ってくる。
「まず、中等部。自我レベル低。……『隷属チョーカー』を装着」
倒れている4年生たちが無理やり引き起こされ、首に冷たい金属の輪を嵌められる。 カシャン。赤い光が灯る。 その瞬間、苦悶の表情を浮かべていた彼女たちの顔から感情が消え、虚ろな「人形」へと変貌した。
「これらは最前線の『盾』として有用です。……連行せよ」
そして、兵士は美里たち高等部を見下ろした。
「高等部生。自我レベル高、および反逆の可能性大。……さらに、保身のために自校の下級生を売り渡した裏切り行為を確認。信頼度、ゼロ」
兵士は、ゴミを見るような視線を投げかけた。
「仲間を平気で売るような屑は、帝国学園生徒としても奴隷としても不適格。……よって、『燃料』としての即時処分を宣告する」
「――ッ!?」
美里の目から、絶望の涙が溢れ出す。 あの決断は、生き残るためだった。帝国の論理に従ったつもりだった。 なのに、それが「不適格」の烙印になるとは。
「連れて行け。……『資源回収トラック』はもうすぐ到着する」
「あ、が……あぁぁぁ……ッ!!」
美里は、防護服の兵士に足を引きずられ、校舎の外へと連れ出される。 そこには、かつて自分が6,000人の後輩を送り出した校庭があった。 今は、略奪された物資の山と、首輪をつけられて整列させられた中等部生たちがいるだけ。
美里の視界が、涙とガスで滲む。 最後に見たのは、帝国学園の学園旗が、自分の学園のポールに掲げられる瞬間だった。
埼玉第四学園、陥落。 その名は地図から消え、残されたのは空っぽの廃墟と、帝国学園の倉庫に積み上げられた「戦利品」の山だけであった。
またまたまた見に来てくれてありがとう!!
次回、19話:最後の一兵まで です!
次回投稿予定時刻は2/7 10時です。
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またね!




