14話:勝者の椅子
【開戦から5時間後 埼玉第四学園・搬入口】
ガシャン、ガシャン、ウィィン……。
無機質な金属音が、夕暮れの校舎裏に響き渡る。 そこには、東京帝国学園から派遣された大型の「資源回収用トレーラー」が横付けされていた。荷台の側面がウィング状に開かれ、中には銀色に輝く無数の「拘束用金属フレーム」が、まるで図書館の書架のように整然と収納されている。
「んんっ!! んーっ!!(放して! 裏切り者!!)」
猿轡を噛まされ、必死に体をよじらせているのは、武蔵野庭園学園第一副会長・カエデだ。 だが、今の彼女にかつての威厳はない。制服は切り裂かれ、四肢を限界まで広げられた状態で、冷たい金属フレームに革ベルトで厳重に固定されている。 人間としての尊厳を完全に無視した、ただの「貨物」としての姿。
「はい、スロットイン完了。……ふぅ、これで一安心ね」
その光景を、埼玉第四学園・生徒会長の高崎 美里は、安堵のため息を漏らしながら見守っていた。 彼女の指示により、カエデを含む武蔵野の亡命者42名は、手際よく「梱包」され、トレーラーのラックへと次々に収納されていく。
美里は、自分の手が震えているのを自覚していた。だが、それは恐怖ではない。興奮と、安堵による震えだ。
(……正しい判断だったわ。絶対に)
彼女は脳裏で、わずか数時間前の出来事を反芻する。
あの日、帝国の学園同盟への宣戦布告が通達された時、美里たち生徒会はパニックに陥った。 そして送られてきた一枚の写真――学園同盟の盟主、清川撫子の無惨な死体写真。あんなにも気高く強かった撫子が、ただの肉塊として踏みつけられている映像を見た瞬間、美里達の心は「戦う」という選択肢を消去した。 勝てるわけがない。逆らえば、私たちもあぁなる。
そんな絶望の淵に、彼女たちが転がり込んできたのだ。 指名手配犯、カエデ。その首には破格のボーナスポイントが懸かっている。
「私たちは運がいい……! 本当に運がいいわ!」
美里は自分に言い聞かせるように呟いた。 本来なら、自分たちが泥沼の戦争をしてポイントを稼がなければならなかった。けれど、向こうから「高得点の獲物」が勝手に飛び込んできてくれたのだ。 これを差し出せば、帝国学園への心証も良くなる。「優秀な協力者」として、戦後の支配体制でも優遇されるに違いない。
「ごめんね、カエデさん。でも、誰かが犠牲にならなきゃいけないの。貴女たちはもう母校を失った『敗者』でしょう? なら、せめて私たちの未来のために有効活用されてちょうだい」
美里の視線の先で、最後のフレームが収納される。 プシューッ。油圧音と共にトレーラーの扉が閉ざされた。
「回収完了です。……帝国学園への忠誠感謝します、埼玉第四学園」
回収班の帝国学園生徒が、タブレット端末を操作しながら告げる。
「ポイント換算、25,000pt。現在、暫定1位ですよ。おっと、これは言ってはいけないんでした。いやぁ素晴らしいスタートダッシュですねぇ」
「ありがとうございます! 引き続き、帝国学園のために尽力します!」
美里は深々と頭を下げた。トレーラーが走り去っていく。 その背中を見送りながら、彼女は確信していた。 これで助かった。このリードを守りきれば、私たちは「勝者」の椅子に座れる、と。
だが、その甘い見込みが、平和ボケした彼女たちの限界だったことを、まだ誰も知らなかった。
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次回、15話:中間発表 です!
次回投稿予定時刻は2/6 18時です。
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