10話:命の請求書
:東京帝国学園 特別尋問室
「――はっ、ぁ……!?」
武蔵野庭園学園会長・清川撫子は、ガバッと身体を起こした。 記憶にあるのは、鋭い痛みと、自分の体が上下にズレていく感覚。そして真っ暗な絶望。 (私、死んだはずじゃ……?)
「おはようございます、撫子さん。それと、スミレさんも」
冷ややかな声に顔を上げる。 そこは、壁も床も真っ白な部屋だった。 隣には、頭を吹き飛ばされたはずの第二副会長・スミレも、椅子に拘束され、茫然とした表情で息をしている。 撫子自身も四肢を拘束椅子に固定されていた。身体には傷一つない。だが、強烈な違和感と倦怠感が残っている。
目の前には、優雅に紅茶を啜る東京帝国学園会長・神楽坂玲緒奈と、タブレットを手にした内務長・白鳥詩織が座っていた。
「夢……? いえ、私達は……」 「ええ、貴女たちは一度死にました」
詩織が鈴のような声で告げる。
「ですが、我が校の優秀な蘇生技術で生き返らせて差し上げました。……まだ『降伏文書』にサインを頂いていませんでしたから」
詩織がテーブルの上に置いたのは、電子ペーパーの契約書。 そこには『無条件降伏』『全校生徒の所有権譲渡』といった文字が並んでいる。
「ふざけないで! 誰がそんなもの……!」 「お断りですか? 残念です」
詩織は困ったように眉を下げると、手元のスイッチを押した。
バチィィィィッ!!!
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」 「あがぁぁぁっ!!」
撫子とスミレの椅子に、致死量の高圧電流が流れる。
「あ、あぁぁぁ! 熱い、熱いぃぃッ!!」 「痛い、あがっ、あああーーッ!!」
苦痛が脳を焼き切る。 二人は泡を吹き、全身を痙攣させ、そして――プツンと意識が途絶えた。心停止。 二度目の死だ。
――数分後。
「……ッ、はぁ、はぁ、あぁ……!?」
再び、目が覚める。 蘇生直後の脳内麻薬のせいで、身体が熱く、変に気分がいい。 だが、詩織の言葉が、その余韻を氷点下に冷やした。
「おはようございます。これで『2回目』ですね」
詩織は部屋の大型モニターを指差した。 そこには、地下の生贄装置が映し出されている。 機械のアームに掴まれ、白目を剥いて痙攣している武蔵野の生徒たちが映っていた。……計6名。
「ご存知でしょう? 一人の蘇生には、他校の生徒3名の魂が必要です。 貴女たち二人が今、生き返るために……貴女たちの可愛い後輩が『6名』、魂を絞り尽くされ廃人になりました」
「――は?」
撫子の思考が停止する。
「う、嘘……」 「本当ですよ。見てください、彼女たちの最期を」
モニターの中で、生徒たちの身体がビクリと跳ね、力が抜けダラリと垂れ下がった。 魂が完全に消滅した抜け殻。ゴミを捨てるように次々に廃棄シューターへ捨てられていく。
「いやぁぁぁぁぁッッ!! やめて! やめて!!」 スミレが泣き叫ぶ。
詩織はニコリと笑い、契約書を突きつけた。
「なら、サインを。 拒否すれば、また処刑します。そして蘇生します。 次で18人、その次は24人……。 貴女たちが意地を張れば張るほど、貴女たちが守りたかった生徒たちが、貴女たちの命の養分になって消えていくんですよ?」
「そ、そんな……悪魔……ッ!」 「素晴らしい教育機関と呼んでください」
玲緒奈が退屈そうに頬杖をつく。 「詩織、長話はいいわ。まだ分からないみたいだから、分からせてあげなさい」
「はい、会長」
詩織は再びスイッチに手をかけた。
「あ、待っ、いやぁっ――!!」
バチチチチッ!!
三度目の処刑。 電極装置が二人の後頭部に打ち込まれる。今度は脳内の神経を強制的にコントロールし、脳が焼き切れるほどの快楽を与え続け、心臓をパンクさせる。 「あばっ!あがががががっ!!ーーッ!....」
……死。 ……そして、蘇生。
「……おはようございます。今の蘇生で、さらに6名が壊れました」
モニターには、新たな6人の「空っぽになった」生徒たちが映る。 累計12名の犠牲。 撫子とスミレの精神は、限界を迎えていた。
「あ……あぅ……」
撫子は、震えた。 自分が息を吸うたびに、仲間が死ぬ。 自分が「No」と言うたびに、愛する後輩が壊される。
(私が……私が殺してるの……?)
「さあ、どうしますか? 次の蘇生準備として、隣の部屋に新しい生徒たちを用意しましたが」
ガラス越しに見える隣室。 そこには、捕らえられた1年生たちが、恐怖に震えながら順番待ちをさせられている。 撫子と目が合う。 『会長……助けて……』
「ひっ、あ、ああ……」
撫子の心が、音を立てて砕け散った。 正義感も、プライドも、抵抗心も、すべてが「罪悪感」に塗り潰された。
「やめ……て……」
撫子は涙と涎でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、詩織に縋り付くように懇願した。
「もう……殺さないで……これ以上、私なんかのために、あの子たちを使わないで……ッ!」 「でしたら?」
詩織がペンを差し出す。
撫子は、震える手でそれをひったくった。 スミレも同様に、泣き叫びながら手を伸ばす。
「サイン……します……! させてください……ッ! 降伏します……なんでもします……私の身体も、魂も、全部あげます……! だから、お願い……サインさせてぇぇぇッ!!」
「賢明なご判断です」
詩織は満足げに頷いた。 二人は競い合うようにして、降伏文書にサインを書き殴る。 『清川 撫子』『スミレ』。 その文字は、震えて歪んでいたが、確かに契約は成立した。
玲緒奈がゆっくりと立ち上がり、完全に心が折れ、床に突っ伏して泣きじゃくる二人を見下ろした。
「ようこそ、東京帝国学園へ。 貴女たちの身柄と、残り1万4000人の生徒の所有権は、今この瞬間から我々のものです」
「あぁぁ……ごめんなさい……みんな、ごめんなさい……ッ」
撫子の慟哭が、白い部屋に虚しく響き渡る。 彼女は知ってしまった。 この世界では、死ぬことよりも、生かされることの方が遥かに残酷であることを。
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次回、11話 公正の亀裂 です!
次回投稿予定時刻は2/5 13時です。
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