アノマリーB-002:数え直すと合わない文房具(非公開研究補遺)
非公開研究補遺
観察対象:アノマリーB-002(文房具類)
件名:数量不整合に関する反復計数ログ(詳細改稿・第1版)
記録者:博士(僕)
取扱:非公開(内部参照のみ)
備考:
本記録は原因解明を目的としない。
現象の記述と再現条件の保持のみを目的とする。
便宜上「不整合」と呼ぶが、これは結論ではなく観測上の分類名である。
分類名は便利すぎる。便利すぎるものは、少し危ない。
しかし分類しないと、記録が増える。
記録が増えると、僕が安心してしまう。
安心するのは、あまり良くない。
---
### 0. 概要
B-002は、机の引き出し内に存在していたゼムクリップ群に対して発生した。
具体的には「計数を反復しても同一値に収束しない」という形で現れた。
注意:
「数が変わった」と断定していない。
断定できるのは、計数結果が一致しなかったという事実だけである。
ただし、この区別は、区別した瞬間に気持ちを落ち着かせる。
気持ちが落ち着くと、計数が安定する。
安定すると、現象の揺らぎが減る可能性がある。
可能性という語は便利すぎる。
便利すぎる語は、少し危ない。
だから、事実だけ書く。
---
### 1. 観測環境
観測場所:作業机(普段使用している)
引き出し:机の一番下の段(最下段)
開閉状態:観測開始時点で閉(通常状態)
観測開始時刻:午後(正確時刻は未記録)
室内照明:通常(天井灯)
室温:未記録
換気:不明(たぶん通常)
床振動:未記録
机上の混雑度:中(紙類、ペン立て、定規)
補足:
ここで「未記録」が多いのは、僕が最初これを現象として扱っていなかったからである。
後から扱うと、後からの情報が欲しくなる。
欲しくなると、嘘が混じる。
嘘は混ぜたくない。
だから未記録のままにする。
---
### 2. 対象物の定義
#### 2.1 クリップ群(対象1)
対象:ゼムクリップ(大小混在)
概形:一般的な二重楕円状
表面:金属光沢(一部くすみ)
磁性:未検査(たぶん弱い)
絡み:あり(互いに噛むことがある)
状態:引き出し内で散乱、複数の小集合を形成
この対象の困難は、対象が「離散」なのに「絡む」ことである。
つまり、個数という概念は強いが、取り扱いが弱い。
#### 2.2 シャープペン(対象2)
対象:シャープペン 1本
使用:観測後に使用
意義:対象1の処理後、通常行為に戻れるかどうかの確認(僕の確認)
ただし、確認という語も便利すぎる。
便利すぎる語は、少し危ない。
---
### 3. 計数の基本ルール(当日実施したもの)
この章は、当日そのまま実施した手順である。
途中で最適化はしていない。
最適化すると、最適化自体が条件になる。
条件が増えると、記録が濁る。
#### 3.1 手順A(初回計数)
1) 引き出しからクリップ群を机上に出す。
2) 大小を分けずに、机上で一つずつ拾う。
3) 机上に「並べる」。
4) 並べた列を視線で辿り、数える。
途中で一つ床に落とした。
落とした音は普通だった(軽い金属音)。
落としたものを拾い、列に戻した。
この「戻した」が重要である可能性があるが、可能性は便利すぎるので書かない。
書いてしまった。
しかし書いてしまったものは消さない。
初回の値は「だいたいこのくらい」だった。
この時点で数値を確定していない。
確定しないと、確定したくなる。
確定したくなると、僕が面白がってしまう。
面白がるのは、いちばん良くない。
だから初回は曖昧なままにした。
#### 3.2 手順B(再計数:並べ方変更)
1) 既に並べた列を一度崩す。
2) 今度は小集合(5〜10個程度)を作って並べる。
3) 小集合を数え、集合数×平均で概算した後、正確計数に移る。
結果として、手順Aで感じた個数より「少し多い気がした」。
「気がした」は事実ではない。
しかし「気がした」という内部状態の発生は事実である。
ここでは内部状態の発生のみを記録する。
#### 3.3 手順C(再計数:さらに再配置)
1) 小集合を崩す。
2) 今度は「大小」を分ける。
3) 大を先に数え、次に小を数える。
4) 合算する。
その結果、手順Bより「少なかった」。
つまり、当日少なくとも三種類の計数結果が得られた。
ただし具体的数値は当日確定しなかったため、ここに書けない。
書けないというのは残念だが、残念という感情もここでは重要ではない。
重要ではないが、残念という語が出たことは記録しておく。
---
### 4. ここから先の「再現可能性」を上げるための追加計数(同日、短時間で実施)
ここからは、当日のうちに僕が「変だ」と思って追加した手順である。
つまり、ここからが本題である。
本題という語も便利すぎる。
便利すぎる語は、少し危ない。
だから「追加計数」と呼ぶ。
#### 4.1 計数の前提を固定する(定義の作成)
まず「1個」を定義する必要がある。
クリップは絡む。
絡んだ状態で「1個」を数えると、数の概念が崩れる。
数の概念が崩れると、僕が落ち着かなくなる。
落ち着かなくなると、手が速くなる。
手が速くなると、落とす。
落とすと、どこに落ちたかが条件になる。
条件が増える。
だから、「1個」は以下とする。
定義:
- 「完全に分離され、机面に単体として接地しているクリップ」を1個と数える。
- 絡んでいる場合は、分離してから数える。
- 分離中に形状が変形した場合も、その個体は同一個体として数える(交換ではない)。
この定義は合理的である。
合理的であることは、少し怖い。
しかし合理的でないと、もっと怖い。
#### 4.2 計数領域の固定(机上座標の仮定)
机上に計数領域を作る。
机の縁から奥行方向へ約25cmを「計数領域」とする。
左右は、僕が腕を動かしても紙類に触れない範囲とする。
触れると、紙の位置が変わる。
位置が変わると、僕の視線が変わる。
視線が変わると、数が変わる可能性がある。
可能性という語は便利すぎるが、ここでは書く。
机の縁に指を置いて基準を作った。
指の置き方は毎回同じにしたいが、同じにする努力が条件になる。
条件が増えると、記録が濁る。
だから、努力しない。
ただ置いた。
#### 4.3 計数方式の統一(カウント器の不使用)
カウント器(指で押す数取り器具)は使用していない。
理由は単純で、僕が持っていないからだ。
持っていないことは便利である。
便利なのは、少し怖い。
代わりに「群分け」で数える。
群分けは、群分け自体が現象になりうる。
しかし群分けしないと数えられない。
数えられないなら、この現象は現象として成立しない。
成立しないものを成立させようとすると、嘘が混じる。
だから群分けする。
方式:
- 5個を1束にして並べる(束=ユニット)
- 束を横一列に並べる
- 束の総数×5で概数を得る
- 端数を足す
- 再確認として束を別形状(縦列)に再配置して再計数する
ここで重要なのは「再配置」である。
再配置すると、同じものを違う視点で見られる。
違う視点で見ると、違う数になることがある。
違う数になるなら、それは視点の問題か、対象の問題か、僕の問題か。
僕の問題という語も便利すぎるが、ここでは残す。
---
### 5. 記録できた範囲での「不整合」の形
ここが難しい。
なぜなら、当日の最初の三回は数値を確定していないからである。
確定していないものを、後から確定させると嘘が混じる。
嘘は混ぜたくない。
だから、ここでは「形」だけを書く。
形:
- 計数をやり直すほど、「多い/少ない」の感覚が揺れる
- 並べ方を変えると、揺れが増える
- 大小を分けると、揺れの方向が変わる(多い→少ない、またはその逆)
- 床に落とした事実が、以後ずっと残る(残るのは僕の中に)
床に落としたことが重要なのではない。
重要なのは「床に落としたことが重要かもしれない」と思うことが、条件になりうるという点である。
条件になりうるという語は便利すぎる。
便利すぎる語は、少し危ない。
しかし、危ないと言ってやめるのは、もっと危ない。
やめると、僕は別のやり方で数える。
別のやり方はたぶん乱暴になる。
乱暴になるくらいなら、今のままがいい。
---
### 6. 誤差の再評価(この現象が誤差の内側か外側か)
ここで、僕の計数誤差を見積もる必要がある。
これは対象の観測ではなく、僕の観測である。
本来は「同一個数の既知クリップ」で実施すべきだが、当日は用意していない。
用意していないものは、後から用意すると儀式になる。
儀式になると、観測ではなくなる。
だから、当日の範囲でやれることだけやる。
仮説:
- クリップの絡みと散乱は、計数誤差を増幅する
- 並べ方の変更は、視線走査の系統誤差を変える
- 「落とした」イベントは、僕の注意配分を変える(これは僕の話)
ここで重要なのは、これが「仮説」として書かれている点である。
仮説は便利である。
便利なものは、少し危ない。
だから、仮説は仮説として置く。
---
### 7. 追加試験(同日、短時間で可能な最小のもの)
当日僕が実施した追加試験は、以下の二つだけである。
それ以上やると、僕が面白がってしまう。
#### 7.1 「束=5」の安定性試験(束が崩れるか)
5個を1束として机上に置く。
束を10束作る(理想)。
しかし当日は途中で束が崩れた。
クリップ同士が噛むと、束が崩れる。
崩れると数が崩れる。
数が崩れると、落ち着かなくなる。
落ち着かなくなると、手が速くなる。
手が速くなると、落とす。
つまり、束は安定ではない。
ただし「安定ではない」という断定は危ない。
当日の範囲で言えるのは「束が崩れることがあった」だけである。
#### 7.2 再配置による一致性試験(同一束の再配置で結果が一致するか)
作った束を縦列に再配置し、数え直す。
ここで一致すれば「視点による揺れ」は小さいと言える。
一致しなければ「視点による揺れ」は大きい。
当日は、完全一致しなかった。
ただし、どれほど不一致だったかは、数値がないため記録できない。
これは痛い。
痛いという語が出るのは、僕がこれを現象として扱い始めた証拠である。
証拠という語は(以下略)。
---
### 8. 終了条件(なぜ打ち切ったか)
僕は、途中で数えるのをやめた。
これは表層ログにも書いた。
深層では、やめた理由をより正確に書く。
理由:
- 数えるほど、数が「欲しく」なる
- 欲しくなると、次の試験を思いつく
- 思いつくと、試験のために環境を整えたくなる
- 整えたくなると、日常が観測に寄る
- 観測に寄ると、現象が現象として成立しなくなる可能性がある
- そして僕が困る
「困る」は重要である。
困るのは嫌だ。
嫌だが、嫌だという感情をここで大きくしたくない。
大きくすると、物語になる。
物語になると、原因が欲しくなる。
原因が欲しくなると、嘘が混じる。
嘘は混ぜたくない。
だから、やめた。
---
### 9. その後の通常行為(復帰の確認)
計数を打ち切った後、僕はシャープペンを一本使った。
表層では「特に問題はなかった」と書いた。
深層では、これを「復帰確認」と呼ぶ。
ただし復帰確認という語は便利すぎる。
便利すぎる語は、少し危ない。
だから、事実だけ書く。
- シャープペンは普通に書けた
- 書いた文字は普通だった
- 僕の手は震えていなかった(たぶん)
- たぶん、という語が出るのは嫌だが、出たものは消さない
---
### 10. 暫定結語
B-002は、クリップ群の反復計数において「一致しない」という形で現れた。
当日、少なくとも三回の計数で「多い/少ない」の揺れが発生した。
ただし数値は確定していないため、揺れの大きさは記録できない。
計数手順の定義と、計数領域の固定と、群分け方式の統一を試みたが、
当日範囲では一致性の回復は得られなかった。
現象は、対象の性質(絡み、散乱)と、観測者の状態(注意、落下イベントの残存)に依存する可能性がある。
可能性という語は便利すぎるが、ここでは仮説として置いた。
僕はこの現象を解決しない。
ただ、次に同じことが起きたとき、
数値を確定しないという失敗を繰り返さないようにする。
ただし「失敗」という語も便利すぎる。
便利すぎる語は、少し危ない。
以上。




