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0:記録を始めた理由

僕は、記録をつけるのが好きだ。

理由はよくわからない。昔からそうだった。


別に几帳面というわけでもないし、

何かを後世に残したいとか、

そういう立派な気持ちでもない。

ただ、書いておかないと、

なかったことになってしまいそうな気がするだけだ。


ここには、いろいろなものがある。

動くはずのないものが動いたり、

来るはずのない時間が来たり、

名前をつけると壊れてしまいそうなものもある。


最初は、少しだけ驚いた。

次に、少しだけ怖かった。

でも今は、だいたい「そういうものか」と思っている。


同僚には、

「慣れすぎだ」とか

「もっと疑問を持て」とか

「博士、それは普通じゃないですよ」と言われる。


たぶん、その通りなんだと思う。

でも、僕にとっては普通だ。


異常――今はそう呼ばれているものは、

だいたい静かだ。

派手な音もしないし、

こちらに説明を求めてもこない。


だから僕も、

無理に理解しようとはしない。

必要以上に触れないし、

意味を決めつけない。


ただ、

そこにあったことだけを書く。


今日は、何も起きなかった。

それが一番いい日だ。


たぶん、明日も何かは起きる。

それも、たいていは問題ない。


この記録は、

誰かに読まれるかもしれないし、

読まれないかもしれない。


どちらでもいい。

観測された、という事実だけが残れば。


以上。

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