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-ADS-【警視庁 対ダンジョン化症候群対策室】  作者: すくらった
The Sorrow Of The Past

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第七話 夜見ヶ丘病院③

「お疲れ様です」

「見つけたわ証拠。あれ、どしたの?」

病室を出ると、ちょうどイヌビスとアコが歩いてくるのが見えた。

「別に、何でもないです。ところで証拠、って?」

「ああ、これよ」

アコは一冊の古いノートを取り出した。

「なんですかこれ」

「中を読んでみて」

レミは渡されたノートをめくる。


2月10日 患者Sにヂアミトール投与 投与後数時間で容体急変 死亡


2月15日 患者Dに同薬品を濃度を変え投与 容体急変し死亡するまでの時間に変化なし 次回はもう少し濃度を高め

て投与する


2月19日 あの医者が疑っている 排除する必要がある 私の実験は邪魔させない


数カ月にわたり、患者に有毒物質を投与していた記録が克明に記されていた。



「これは……」

「あの改ざんされたカルテ、調べてみたら一人の看護師の名前が不自然に書き換えられていたの。んでちょっと地下を探ってみたら、女子更衣室で見つけたのよ、このノート。その看護師のロッカーでね」

「じゃああの医者は、無実だったってこと?」

「そう、おそらくは彼女が行った、その『実験』の後始末を医療ミスに偽装し医者に押し付けた。彼女を疑い始めていた彼にね。恐ろしく狡猾な相手だわ」

「で、その看護師は今どこに」

アコが新聞記事の切り抜きを手渡す。


…日未明…夜見ヶ丘近くの交差点で、病院に勤務する看護師……が車にはねられ重体……死亡が確認……


薄汚れてところどころ読めなくなっているその記事は、それでも看護師に起こった出来事を明確に示していた。


「亡くなった……」

「そう、ただし『実験』に対する執着は、彼女の死後も消えず、この病院にとどまり続け、この病院をダンジョンへと変えた」

「それが真相」

「アコ様、上の階に気配、どんどん強くなっています」

「いよいよお出ましね」

四人は階段を上った。階段を登ると、そこにはナースステーションがあった。そして、その中にあったのは、そこにあるはずもない手術台だった。



ナースステーションの薄暗い空間に、不気味な存在感を放つ手術台が鎮座していた。金属の表面は錆と血痕でまだらに汚れ、脚部には有機的な管が巻き付いている。空気は消毒液の匂いと、腐臭にも似た重苦しい気配で満たされている。レミ、黒崎、アコ、そしてイヌビスの四人は、手術台を前に一斉に身構えた。

「これが……看護師のエコーか」レミが呟く。

「間違いない。この手術台が、彼女の『実験』への執着を映し出してる」

アコが冷静に分析するが、声には緊張が滲む。

「気をつけろ。こいつは今までのやつとは格が違う」

黒崎が低い声で警告し、影刃を構える。



その瞬間、手術台がギチギチと金属の軋む音を立て、脚部が蜘蛛のように蠢き始めた。手術台の中央から、鋭いメスや注射器を持った管が無数に飛び出し、まるで生き物の触手のように四方八方に伸びる。空気を切り裂く鋭い音が響き、レミは思わず後ずさる。

「ジッケン……オワラセナイ……モット……ジッケン……」

手術台が金属が軋むような声で囁き、触手を振ってナースステーションの仕切りを破壊する。



「あなたね……カルテと魔獣を操っていたのは」

レミが手術台を睨む。

「来るぞ!」黒崎が叫ぶと同時に、メスが一斉に襲いかかってきた。


レミは『共鳴銃』を連射し、光弾でメスを弾き返すが、すぐに次のメスが別の角度から迫ってくる。

「もう、しつこい!」

「イヌビス、迎撃!」アコが叫ぶ。

イヌビスが前に飛び出し、腕をクロスしてメスを弾く。

金属同士がぶつかる甲高い音が響き、イヌビスのボディに火花が散る。

「耐久力テストですか。私の装甲はまだ持ちますよ!」

黒崎は『影刃』を伸ばし、手術台の脚部を狙う。刃が一閃し、脚の一つを切り裂くが、切断面から赤黒い液体が噴出し、床を溶かし始める。「ちっ、酸性の体液か!」

「みんな、床に気をつけて!」アコが叫び、『全能鍵盤』を握りしめる。同時にナースステーションの古いモニターが突然起動し、放電して床を焼き切る。それが酸性の液体を一時的に防ぐが、手術台の動きは止まらない。



手術台がガタンと跳ね上がり、中央から巨大な注射器が突き出た。針先から緑色の液体が噴出し、レミに向かって放たれる。「ひゃっ!」レミが咄嗟に身をかがめてかわすと、背後の床がジュッと溶ける。

「新人、無事か!」黒崎が影刃を振り回し、注射器を切り落とす。しかし、手術台は新たなメスを生み出し、まるで無限に武器を生産するかのように攻撃を続けてくる。


「こいつ、まるで生きてるみたい……!」レミが息を切らしながら叫ぶ。と、彼女の目に、手術台の中心に黒いモヤのような塊が浮かんでいるのが見えた。

「あそこ!エコーの中心だ!」



「なら私が!」アコが叫び、『全能鍵盤』で指示を出す。「イヌビス、アーマーモード準備!」

「了解、アコ様!イヌビス・ザ・グレート、アーマーモード起動!」

イヌビスのボディがガシャンと展開し、紫色の装甲が液体金属のように変形。パーツがアコの体を包み込み、瞬く間に彼女を覆うアーマーとなる。頭部にはイヌビスの犬耳型アンテナが付き、両腕には巨大なクローが装着された。紫と水色の輝きがナースステーションを照らし、アコの姿はまるで戦場の女神のようだった。

「イヌビスアーマーモード、完成!」アコの声が響く。彼女は手術台に向かって突進し、クローでメスを弾き飛ばす。手術台が反撃し、巨大な注射器を振り下ろすが、アコは軽やかに跳躍し、クローで注射器を粉砕した。

「この程度で私を止められると思う?」

手術台が悲鳴のような金属音を上げ、脚部を振り回してアコを攻撃。だが、アコはイヌビスの装甲を活かし、攻撃を全て受け流す。彼女の動きはまるでダンスのように滑らかで、クローが手術台の表面を切り裂くたびに火花が散った。

「レミちゃん、黒崎ちゃん、援護を!」アコが叫ぶ。

「了解!」レミが銃を構え、黒いモヤを狙って光弾を連射。黒崎も影刃を伸ばし、手術台の脚を次々と切り落とす。手術台の動きが鈍くなり、モヤが露出していく。

「今よ、イヌビス!」アコが叫ぶと、彼女のクローが青く輝き、エネルギーが集中。手術台に向かって渾身の一撃を放つ。

「ハアッ!ビーストっ!クロー!」

クローが手術台の中心に直撃し、爆音とともに手術台が砕け散った。ナースステーションに静寂が戻る。エコーの気配が消え、アコがアーマーモードを解除すると、イヌビスが元の姿に戻り、彼女の横に立つ。

「ふぅ、派手な登場もいいけど、こういうフィナーレも悪くないでしょ?」アコがウィンクする。



「めっちゃカッコよかったです、アコさん!」レミが目を輝かせる。

「ふん、派手すぎる」黒崎が呟くが、口元にわずかな笑みが浮かぶ。

「分析完了。エコー反応、ゼロです」イヌビスが報告する。

「よし、待合ホールに戻るぞ。まだ核が残ってる」黒崎が先頭に立ち、四人は中央待合ホールへ急いだ。



待合ホールに戻ると、巨大な黒い結晶が依然として鎮座していた。レミの『共鳴銃』が再び強く輝き、彼女は深呼吸して結晶に近づく。

「今度こそ……」

彼女が結晶に触れると、視界が白く染まり、再びあの白衣の男が現れた。背を向けたまま、肩を震わせている。



「あなたは……無実だった」レミの声が静かに響く。

「患者さんを救おうとしていた。必死に戦っていたよね。なのに、看護師に罪を押し付けられて……」



男がゆっくり振り返る。疲れ果てた顔に、涙の跡が光る。「私のせいじゃない……?」

「うん。あなたは悪くない。あの看護師が、実験のために、自分勝手な好奇心のために、患者さんを犠牲にしてたんた。あなたはただ、医者として命を救おうとしただけだよ」

男の目から涙がこぼれる。「そうか……私は……間違ってなかった……」

彼の体が光に包まれ、ゆっくりと溶けるように消えていく。「ありがとう……君のおかげで……やっと……」



レミが目を開くと、結晶は砕け散り、ホールに静かな光が満ちていた。病院の歪んだ空間が元に戻り、血の匂いや脈打つ管が消え、ただの廃墟がそこにあった。

「ダンジョン化、解除しました」

黒崎が通信機に告げる。

「やった……!」レミが笑顔で拳を握る。

「よくやったわ、レミちゃん。やっぱりあなたの共感力、すごいわ」

アコが肩を叩く。

「このイヌビス、感服しました。レミ様の心は、まるで星の輝きのようです」

「ふん、新人らしい結果だな」

「じゃ、帰りますか」

「はい!」

「あ、冤罪の件は担当部署に報告しとくわ。

 しかしこんな濡れ衣も見抜けないなんて」

「まぁ、これで彼の名誉も回復されるだろう」

四人は装甲車に乗り込み、夜の闇を抜けて本部へと帰還した。廃病院は朝の光を浴び、静かに佇んでいた。



本部に戻ってPCを付けたレミは、新たなメッセージが着信しているのを発見した。前回と同様、発信元は表示されていない。


「お前たちが何をしようが、過去は何も変わらない」


「何も……変わらない……」

レミは高峰に報告することも忘れ、メッセージを呆然と見つめていた。

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