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-ADS-【警視庁 対ダンジョン化症候群対策室】  作者: すくらった
The Sorrow Of The Past

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第四話 白野美術館②

少し時は戻り、ADS。

「――ふむ、つまり熱川くんが触れることによって、一瞬で外部からの破壊なしに核が崩壊したと」

「その通りです、室長」

星川姉妹がダンジョンと化した美術館の探索をしている時、レミと黒崎は室長のデスクの前で「公立学校ダンジョン化事件」の経緯を報告していた。

警視庁対ダンジョン化対策室室長、高峰静流は白髪交じりの頭を撫でつけ、細い目をさらに細めながら黒崎の報告書を読んでいた。

「黒崎さんからしたら、一瞬に見えたかもしれません。けどあたし、確かにいじめっ子達を追い払って、それであの子を」

「熱川くん」

「はっ、はい、室長」

「ははは、そんなに緊張することはない。昨日は急用で席を外していてすまなかった。緊急事態とはいえ、初日から大変だったね。お疲れ様」

「いえ、そんな」

「そういえば君に支給されたアーティファクトは『銃型』のものらしいね。ああ、らしい、というのは私もこの報告書で初めて知ったものでね」

「え?初めて?」

「何だ黒崎君、説明してないのかね?」

「……説明したところで、という感じなので」

「君らしいね」

やれやれ、と苦笑いを浮かべると、高峰はレミに向き直った。

「君は任務の初めに、黒崎君からジュラルミンケースを受け取った。開けると銃が入っていた。そうだね?」

「はい」

「実はあのケース自体が『アーティファクト』なのだよ」

「!」レミが息を呑む。

「あのケース、知らない間に大きさが変わってたりなど、どうにも説明のつかないところがある変なやつでね。中は外見以上に広いこともあれば、見た目通りのこともあり……とにかくよく分からんブツだ。だが、一つだけ、おそらくこうであろう、と言えることは」

高峰はほうじ茶を一口、口に含んだ。

「一度きりだが、あれは開けたものの『魂』を具現化した、そんな装備が出てくる道具だということだ」

「魂……」

「君は時に、人の閉ざした心に風穴を開け、時に共感を持って心を揺さぶる、そういう心の持ち主なのかもしれないな」

「そ、そんな……」

レミは思わぬ褒めに、身をくねらせる。



「報告書で特に面白いのがここだね。『熱川レミのアーティファクトは、感情の残響が特に強まっている場所、つまり核が存在する可能性の高い場所で共鳴し、グリップに刻印された紋章が輝く』……この光は『核』と『君の心』が繋がろうとしているサインと捉えることもできる。とにかく、外部から核を破壊するのではなく、共感して……そうだな、オカルト的に言うなら『成仏』させる。こんな方法は前例がない。君は何か特別な力があるのかもしれない」

「特別……」

(新人、顔が緩んでいるぞ)

黒崎が横からつつく。

(ちょっとくらい良いじゃないですか。スペシャルって言われたんですよ)

(なに英語に直してんだ)

「コホン、とにかく話は分かった。また何かあれば報告してくれ」

「分かりました、室長」

黒崎が静かに答えた。



席に戻ると、レミは黒崎に話しかけた。

「先輩」

「なんだ」

「アーティファクト、っていうのはあのケースを開けた人の心を表した装備なんですよね」

「さっき室長が言った通りだ」

「じゃあ先輩の伸び縮み剣『影刃』も、何か先輩の心を表してるんですかね」

「かもな」

「うっす、興味うっす」

「実際興味ないんでな」

「もう先輩、せっかくこんなミステリーでサスペンスな仕事に就いてるんだから、もっと考察とかしましょうよ。あ、わたし漫画の考察とか大好きでよく動画を……」

「足りなかった……届きたかったから、かもな」

「え?何か言いました?」

「別に」

「せんぱ……」

「黒崎君、熱川君、緊急事態だ」

高峰が二人に厳しい顔で呼び掛ける。

「白野美術館のダンジョン化調査に向かっていた星川姉妹から応援要請が入った。悪いが至急向かってくれたまえ」



数刻後、二人は美術館に向かう車に乗っていた。

「今回ダンジョン化したのは、『白野美術館』だ。画家、白野健作により建てられた」

黒崎が手短にレミに告げる。

「あっ、ニュースで聞いたことある。確か画家が、名画の贋作を描いて、それを画廊やオークションで販売していたっていう」

「そう、その白野だ。その白野が贋作を売りさばいた金で建設したとされているのが、白野美術館だ。言っておくが彼が収集した美術品、これは紛れもなく本物だ」

「へぇ……」

「画商は逮捕され白野は信頼と仕事を失い、建築した美術館は「ニセモノ美術館」などと揶揄され、彼は失意のうちに病床で亡くなった。白野の罪悪感と無念、そういうものが引き金になってダンジョン化したのだろうとADSでは見ている」

「星川姉妹って、どういう方たちなんですか?」

「美術館、芸術品に特化したチームだ」

「ああ、警察学校時代、何か聞いたような。それが星川姉妹なんですね」

「美術や芸術は人間の念が残りやすい分、エコーやダンジョン化の引き金になりやすい。二人はその系統のエコー対処に特化した装備を所持している。だがその二人が『美術館』で救援要請を出した。なかなか手ごわいと見ていい」

「専門職の方がやられるエコー……これは強敵だ」



「着いたぞ」

黒崎は車を停めた。

霧の中、ぼんやりと美術館が浮かび上がっている。

「こちら黒崎・熱川組。これより白野美術館に突入する」

通信を入れ、黒崎は軽々と正面ゲートを乗り越える。

「わわっ、先輩待ってくださいよ!あたしそんなに身軽じゃありませんて!」

「………」

黒崎は無言で黒い鉄のゲートに飛び乗り、レミに手を差し出した。

「す、すいません……」

レミはバツが悪そうにゲートを乗り越えた。

「行くぞ」

二人は足早に美術館に入っていった。



美術館は、不気味な光を放ちつつ、沈黙を守っていた。

「このダンジョンのどこかにお二人が……先輩、早く行きましょう!」

「待て、闇雲に動くとエコーを刺激する可能性がある」

「そんなの、全部倒してから探せばいいじゃないですか」

「今解析班が動いているから待て。無駄な消耗は避けろ」

「でも!」

「冷静になれ、新人」

レミはその時、黒崎の横顔に一筋の汗が流れたことに気づいた。

(汗……先輩も動揺してるんだ)

「先輩……ごめんなさい私」

その時、黒崎の通信機のコール音がなった。

「こちら黒崎」

「やっほー黒崎ちゃん」

通信機の向こうから聞こえてきたのは、妖艶さを醸し出す若い女の声だった。

「水沢か」

「お待たせ、星川姉妹が持っていた通信機のトラッキング完了。三次元的に美術館の構造と照合して彼女たちが通ったルートを割り出したわ。そちらの通信機にデータ送信しとくわね」

「助かる」

「それと、新人ちゃんいる?」

「……隣に」

黒崎は通信機をスピーカーモードに切り替えた。

「ハロー新人ちゃん、ADS解析班、水沢アコよ。あなたが来た時間、運悪く外部の研究所にいたの。会いたかったー。んで帰ってきたらこれだもん。アコ、もーびっくり」

「は、はぁ」

「黒崎ちゃんのこと、よろしくね。彼、強くてしっかりしてるように見えるけど意外と」

「切るぞ」

「あんっ」

黒崎はブツッと通信を切断し、水沢からのデータを確認する。

「第一展示室、廊下を通って第二展示室で交戦中に応援要請。なるほど、向かうぞ」

黒崎は静かに、そして迅速に移動を開始した。

「はい」レミも後を追う。

(意外と……なんなんだろう)

追いかけながら、レミは水沢の言葉をぼんやり反芻していた。



『第二孤独室』

「……名前は変わっているが、ここで間違いはない」

部屋名のプレートを見上げながら、黒崎は呟いた。姉妹を閉じ込めたキャンバスは消えている。

「新人、最大限警戒しろ。突入するぞ」

二人が部屋に踏み込んだ瞬間、仄かに光っていた部屋の照明が消え、暗闇が二人を覆う。

「!」

「先輩!」

レミは部屋の天井に向け、光弾を数発発射する。

天井に撃ち込まれた弾丸は、ポウッと明かりを発し、部屋全体を照らしだす。

「やるな」

「へへっ、前の任務で弾丸が光ってたこと思い出して、これならで…き…」

黒崎とレミの前に照らし出されたのは、絵の中に閉じ込められた星川姉妹だった。



「アオイ!ミドリ!」

二人は目を閉じ、手を胸の前で組み合わせた状態で、眠るように目の前の巨大なキャンパスに「描かれて」いる。

「先輩!」

姉妹の「絵」の周囲で、複数の色彩の円が広がり、実体化してべちゃり、べちゃりと床に落ちる。

「カカセテ」「カカセテ」「カカセテ」

床に産み落とされた『絵の具』たちが各々呟きながら距離を詰めてくる。

「はっ!」

黒崎は影刃を伸ばし、『絵の具』たちを切り裂く。レミも次々と射撃し、潰していく。だが色彩豊かな不定形たちは、次々に湧いてくる。

「このままじゃ消耗するだけだ」黒崎の額に汗が滲む。

「カカセテ」「カカセカカセテ」

「?」

『絵の具』たちが部屋の中心に寄り集まっていく。

「まさか……!」

『絵の具』たちは一つに混じり合い、3メートルはあろうかという巨大な『色彩の魔人』へと変貌を遂げた。

「カアアカアアセエエロオオ」

『魔人』は巨大な拳で一撃を放つ。黒崎とレミが緊急回避行動をとる。轟音とともに鉄筋の壁が大きくへこむ。

「ひえっ、なんてパワー……」

その時、黒崎はレミの銃のグリップに刻まれた紋章が輝いているのに気づいた。

(あの時と同じだ……!)

「新人!」

「は、はい!」

「俺が巨人の気を引きつける。お前は額縁のどこかにある『核』を見つけろ!そして触れろ!『核』に!」

「そんないきなり言われても……」

レミが真横にある額縁を見ると、装飾の中に学校で見たのと同じ、黒いクリスタルが見えた。

「あ!これだ……!」

レミは躊躇なくクリスタルに触れる。


瞬間、光が、弾けた。


気がつくと、レミは真っ白な空間にいた。目の前にキャンパスに向かう一人の老人が座っている。

「あなたが……白野健作さん?」

「私は……私は……多くの人を騙し、失望させてしまった。自分の絵を、売れないからと捨て、皆のための美術館を作るためとは言え、犯罪行為に走ってしまった……私には……画家を名乗る資格なんてない……」

「そんなことないよ……あなたが贋作を作る前に描いていた本当の絵……それを美しいって感じていた人も、いるはずだよ……」

「本当の……絵」

「あなたが悪いとしたら、贋作を売ったことじゃなくて、自分の『本当の絵』を捨てたこと、あたしはそう思う」

「君は……?」

白野はようやくこちらに気づいたのか、顔をあげた。

「でもそれなら、これから自分の絵を大事にすればいい。やり直せるよ」

「バカをいうな。何もかも手遅れだ」

「手遅れじゃない!」

白野は驚いたような顔を見せたが、やがて皮肉な冷笑を浮かべた。

「君がそこまで言うのなら、当ててみてくれ。どちらが本当の私の絵か」

レミの前に、2枚の絵が現れる。

「片方が私の絵、もう片方がある絵画の贋作だ。私の絵を当ててみなさい。正しければよし、だが、もし間違えば、君もあの姉妹のように絵になってしまうだろうね」

「うー……あたしそういう美術センスないんだけどな……」

いいながらレミは2枚の絵を一生懸命見比べる。

「……うーむ、こっち!」

しばしの逡巡の後、レミが片方の絵を指さした。

ある朝の風景を描いた油絵。

「どうしてそう思った」

「んー、よくわかんないけど、この絵の朝の空気感、好きだなって。あたし田舎生まれでさ、朝は大体気持ちいいんだけど、その中でも1年に1回くらいほんとうに『最高の朝』があるんだよ。こんな青空に、キジバトの声、川の冷気が朝の空気に混じっててさ……思い出しちゃった。でも芸術なんも関係ないや、へへ」


おお……その言葉に白野が声を震わせる。


そうだ、誰かに、その人にとって「大切なもの」を思い起こさせる。私はそういうものを描きたかった。どうして、忘れていたんだろう。そして、私はきっとどこかでそれを成し遂げていたんだ……


白野が優しくレミを見つめる。

ありがとう、お嬢さん。

私は、『画家』だったんだ。

『画家』でいていいんだ。

白野の体が光り輝き、そして……


「熱川!」

レミが気づくと、自分を覗き込む黒崎と星川姉妹が目に入ってきた。

「やった!」

「目を覚ましたよ、クロにぃ!」

「あなたたちは……」

「ああ、あたしたちは星川アオイと」

「ミドリです」

「救援ありがとな。芸術専門チームが、みっともないところ見せちまった」

「『贋作』に惑わされるなんて、まだまだ経験不足だわ私たちも」

「俺たちには何が起こったか分からないが、とにかく『額縁』は無力化した。よくやった新人。だが」

美術館が全体が激しく揺れ出す。

「ゆっくり話している時間はない。ダンジョン化が解除されつつある。まずは脱出するぞ」

四人は急いで美術館から立ち去った。



入り口付近。振り返ると霧と建物のゆがみは消え、美術館は元の姿を取り戻していた。

「状況終了」黒崎が告げる。

「いやー、ほんと助かった、えっと、ごめん、名前なんだっけ君」

「熱川レミ」レミとミドリが同時に答える。

二人は思わず吹き出した。

「なんだよミドリ、覚えてるなら教えてくれよ」

「覚えてないと思わないんだもの。ねっ、レミちゃん」

「うー、すまん、レミね、レミ。アオイ覚えた」

「全然いいですよ!これからよろしくお願いしますね、先輩!」

「くぅー!なんていい子ちゃんなんだ」

アオイが感涙にむせぶ。

「いつまで喋ってる。こっちは連勤で疲れてるんだ。帰るぞ」

「復帰早々に迷惑かけて、ごめん、クロにぃ」

「……よく頑張ったな」

ボソッと告げると黒崎は装甲車に向かって歩いていった。

「ああいうとこ、好きなんだよな」

アオイはニッと笑って黒崎を追いかける。

「レミちゃん、アオイのアプローチはなかなか情熱的だからね。うかうかしてると取られちゃうよ」ミドリも後を追う。

「とられちゃ……いやいや、そんなんじゃないですから!」

レミも慌てて追いかけて車両に乗り、拠点に戻っていく。


やがて、夜が明けた。

白亜の美術館は、朝の光を浴びて輝いていた。



本拠地に戻りPCを付けると、自分宛てにメッセージが一件届いているのにレミは気付いた。

「何だろう……?」

確認すると、送信元も件名も表示されない。

ただ「本文」には一言、こうあった。

「お前の仕事に、意味はあるのか?」

「室長」

すぐに高崎を呼び、画面を見せる。

「なんだこりゃ。『お前の仕事に意味はあるのか』か。あるに決まってるじゃないか」

「室長……」

「タチの悪いイタズラだね。記録は取っておくが、気にすることはないよ」高崎は優しくほほ笑みかける。

「そう……ですね……」

レミはぼんやりと光るモニターに映し出されるメッセージを、じっと眺めていた。

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