せっかく剣と魔法の世界に行けるのにネット離れと○○〇〇離れができません。
「カタカタカタカタカタカタカタカタ。」
四月一日 登也はこのパソコンが好きだ。
休日には自宅で好きなゲームやったり、SNS、サイトを見に行ける。依存症といっても良いレベルかもしれない。
ひと段落ついた登也は座ったまま背伸びをして立ち上がると、
目を開けるとそこには辺り一面白い世界が広がっている。
どこだここは?
四月一日 登也は疑問に思う。
しばらくすると、目の前にどこからともなく綺麗な女性が現れた。
「私は女神、アルデア。」
「あなたはこれから剣と魔法の織り成す世界「シェリス」に転生する事になりました。」
異世界転生というやつだろう。
元いた世界で散々見飽きた展開だったが、まさか自分が当事者になるとは。
戸惑いながらもテンプレの事を聞いてみる。
「あのぉ、元の世界の俺は?」
「あなたは事故にあったのです。」
登也はその瞬間を思い出そうとしてみるが最後に記憶にあるのは自宅でパソコンを触っていた事だけだ。
すると女神は続ける。
「あなたは立ち上がった拍子にコードに足をひっかけて転び、その上にパソコンが落ちて亡くなったのですよ。」
なんとも間抜けな話だ。誰かを守っての事故死とかではなく一人自宅で孤独死だなんて。
登也は頭の中でため息をつき女神の次の言葉を待った。
「あなたにはこれからシェリスに行く前に一つ特別な物を送りましょう。いわゆるチートアイテムってやつです。」
少しハニカミながら言う女神に可愛いと思う。
女神の口からチートなんて言葉を言うのが少し照れているのだろうか。
登也は念のため、聞いときたい事を聞いてみる。
「あのう、アルデア様、体術強化や魔法は使えるようになっているのでしょうか?」
「ひみつです。」
ニコリと微笑む女神。
「何歳での転生なんでしょうか?」
「ひみつです。」
「種族は?」
「ひみつです。」
登也は答える度にニコリと微笑む女神に苛立った。
おいおい、大体の異世界転生パターンで女神イベントがあったら多少は情報引き出せるだろ。
何で全部秘密なんだよ。
この女神はおそらく質問に答える気はないらしい。
登也は駄目元でどうしても聞いときたい質問をする。
「あの前世の記憶って引き継いでいますか?」
一瞬真顔になる女神アルデア、そして、
「ひみつです。」
とニコリと微笑む。
おちょくってるだろコイツ。
登也は異世界のシェリスに行った後の情報が何も得られない事に苛立つ。
少し趣向を変えてみるか、そう考えるとアルデア自身の事について質問する事にしてみる。
「どうしてアルデア様はここへ?」
「私は天上界での案内人、ハラルド様の命によりこの仕事を行っております。」
ほう、話してくれる事もあるんだなと感心する登也。
「アルデア様はいつまでここにおられるのですか?」
「あなたが持っていく物を決めて、こちらのゲートを通るまでですよ。」
そう言ってアルデアが指す所には虹色のようなドス暗いような色をした異質な空間が現れていた。
成程なるほど。
登也は考える、シェリスに持っていく物かぁ、悩むなぁ。色々欲しい物はあるけどやっぱり一番はこれかなぁ、でもWi-Fiないだろうしなぁ。
インターネットの機能が使えなかったら持っていっても仕方がないしなぁ、それだったら銃、剣などの戦闘兵器やベッド、調理道具などの家電用品のほうが便利かもしれない。
考えても仕方ないので駄目元でアルデアに質問してみる。
「アルデア様、パソコンを考えているのですが、パソコンにはまず電源を付ける電気が必要です。その辺りは大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ。無限の電力を供給しましょう。」
ニコリと微笑むアルデアに初めて苛つかなかった登也。
「では、パソコンではインターネットという機能が使えないと能力の半分も使えないのですが、使えるようにする事は可能でしょうか?」
「大丈夫ですよ。持っていくアイテムの能力は存分に引き出して下さい。」
微笑むアルデア。ほんの少しだけ可愛く見えた。
「インターネットの接続先は現世?」
「あなたのいる世界の物ですから仕方ないですがそうなりますね。」
渋々といったよう表情を浮かべるアルデア。
「あと、パソコンにはマウス、カメラ、マイクなどの外部周辺機器もあるのですがそこらへんの取り付けも大丈夫なんですよね?!」
「だ、大丈夫だと思います。」
何やら微笑みというよりは苦笑いになっているアルデア。可愛い。
「パソコンを使ったインターネットサービスには通販という物があるのですが勿論この機能も使えて買い物した物が俺の元へ届くんですよね?!」
「ぇ、ぇ、ええ。そのはずです、よ?」
アルデアはこの質問の意味がそこまでわかっていないのだろう。この女神、天上の者というが下々の民の生活には疎いと見た!
「あ、そうだ。通販を利用するにはお金という物が必要になるのですがこれの供給もしてもらえますか?」
図々しくもお金までよこせと登也は言ってみるが、流石にお金の事は知ってるアルデア。
「お金は人々が生活の為に労働を対価に得る物です。」
と毅然と言ってくる。
が、登也は諦めない。
「そうは言ってもお金が無ければ通販が利用できない。通販が利用できないならインターネットができなくてパソコンの能力を全然発揮できないじゃないですか。」
そう不満を口にすると、アルデアは困った顔になる。
この女神様は困ると素が出るのだろう、作り笑いの微笑みより可愛さがにじみ出てくるタイプのようだ。
「わ、わかりました。お金も供給しましょう。」
と困り顔で了承するアルデア。
「おお、ありがとう!アルデアを派遣したハラルド様。この女神の基準、ガバガバです!!」
登也は上を見てシェリスでの勝利を確信する。
でも待てよ。シェリスに行ってからこの夢の機能が詰まったパソコンを使う事ができるのだろうか。
そこが大問題だ。さっき質問してもシェリスから始まる登也の状況については教えてくれない。
チートアイテムを一つ持っていく事ができるというのだから恐らくパソコンも付帯してついてくるはずだが、もし赤ちゃんで転生して周りにいる人物に取り上げられたり壊されたりしたら大変だ。
登也は意を決して再度、質問を投げかける。
「アルデア様、シェリスに行った時の俺の初期ステータスは?」
「ひみつです。」
最初の微笑みよりかはどことなく意地悪めいた意図を感じる笑みだ。
女神といっても親密度というパラメーターはあるのだろうか。
登也はそこに可能性を見出した。
10年後
「カタカタカタカタカタカタカタカタ。」
キーボードを叩く心地良い音が白い空間に鳴る。
あの後、登也はパソコンをチートアイテムとして持って行く事に決めて召喚してもらった。
しかし、その後にゲートを潜る事はせずにこの白い空間に居座った。
インターネットでの現世との通信は良好で通販も問題なく使用する事ができた。
「ねぇー。登也、聞いてる?アメリアが新しい玩具欲しいって。」
「んー、わかった。また通販で買っとくよ。」
アメリアとは登也とアルデアの間にできた子供の名前だ。
インターネットで、「女神(本物)の口説き方」というコンテンツを立てたら瞬く間にバズり、色んな意見が寄せられた。
登也は徐々に心を開くアルデアに恋をして、アルデアは女神の仕事という立場を忘れ、インターネットや通販で手に入る娯楽に夢中になってしまった。
そして世界中の口説きの知識を駆使した登也がアルデアとの関係を成就させたのだ。
そんな二人が毎日する挨拶ともいえる会話があった。
「なぁ、アルデア、俺がシェリスに行ったら初期ステータスは?」
「ふふっ、ひ、み、つ♡」
顔を赤くして微笑む女神の姿がそこにある。
私はパソコンがないと詰みます。(*_*;