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「シイさまー!」
聞き慣れたマルの声が飛んでくる。
「助けてシイさま、ぼくの、ぼくの寝床がー!」
やれやれ仕方ない、シイさまは次の長だ。シイはマルの住む祠に向かい、カラスから寝床を奪い返し追い払ってやった。そんな動物と妖怪の攻防を知らない子どもの声が、向こうの方から聞こえてくる。川遊びから帰るところらしい。
「それって夢の話じゃないのかよ」
「ほんとに水筒から出てきたんだって!」
「嘘つくなよ! そんなちっちゃな狐がいるわけないだろ」
「いたんだってば! 水筒の蓋取ったら、しゅって出ていっちゃったんだよ!」
わいわいと騒ぎながら、子どもたちは山を下りていった。
「ほれ。まったく、カラスぐらい追い払えるようになれよ」
「ありがとう、シイさま!」
マルは寝床にしている大切な竹筒を受け取って抱きしめた。無事に帰ったイトが八咫烏の宅急便に頼んで送ってくれた宝物だ。マルは毎晩この中で眠っている。すっかり暗くて暖かくて、まるで温泉に浸かっているかのように、とても寝心地がいいらしい。
おや、そういえば、こいつ泣いてないぞ。そんなマルを見てシイは思った。ちょっと前のマルなら、宝物を奪われれば泣きじゃくっていたに違いないのに。
「そんじゃ、ちょいと昼寝でもするか」
「はいっ!」
シイが両腕を上げて伸びをし、マルは大きく頷いた。夏はまだまだ、青い空に入道雲を湧き上げていた。