詩のための詩集
1.さて人類
風切る卒塔婆に砂は香り
社殿に染みるは潮の味
胸の合掌にゲノムを映し
波はカオスの艶に死す
つまりは異種融合の成れの果てで
爆破 縮小のつなぎ役
混在のキメラは心に走馬灯を回し
その色とりどりの止まらぬ夢に
泣け 勇め 惚けよ 我が子
と 仰せられんばかりに…
2.成長
「神はミクロに、進化は裏に」
恋するカビと ニャーと鳴く折り紙
無垢な無個性を 吹き付ける風が削り だんだん磨いてゆく
そうして薄くなった頃に 踏ん張る者は自然と折られて
形作れば神の依り代 日時に響く 星座に響く
いよいよ心に色が降りて 虹彩の灯る
視線の先には二本道
幼馴染との恋の終わり
幼馴染との恋の終わり
3.閉鎖された世界
閉じたカーテンを背にして、ため息ばかりは星の数。
白い壁、白い壁、返事はないまま、ただ白いだけの…。
よく見ると壁が蠢いている…ような、ただの錯覚。
観葉植物は部屋の隅で、自分だけの時間を楽しんでいる。
開きっぱなしの小窓から漏れ聞こえるのは鈴虫の歌。
空気は少し冷たいが、私達は住む世界を選べるらしい。
4.真実は苦い
「この世界は残酷だ」
それが最初のトリガーだと思う
人は誰しも認識に蓋をしながら
見たい部分だけを見て
世界全体ピンク一色の平和があると信じて生きる
頑なに
ただし裏側にある本能の領域で
言い知れぬ危機感を抱きつつ…
何かのショックで蓋が外れて
いよいよ"見てしまった"時の感覚がそうだから…
5.トロン
トロンは啼いた
子供が飽きた積み木みたいに
ぞろりと膝から崩れて
暗がりに似合わず華やかに
トロンは啼いた
眠れぬ夜の時計の針の間隔や
閉じたドアが凍るくらいの音量で
日光が届くよりも前に消えてしまった
6.懐かしい人
両手かざせばほわあんと暗黒の気球が浮いてきて
胸の内から出てきたそれの、海のような黒を観る。
深い深い想いの底の、幾つもの怪魚の揺らす底。
その底にあなたそっくりの人影が「助けて」とか
「力を貸すよ」とか、おぞましい光景に佇む割には
案外悪い奴でもありませんでした。
7.渇望
渇望が渇望を呼ぶ、刺激物中毒のループ
人工甘味料の甘さを上回れるのは人工甘味料だけ
乾いた舌だけをナメクジのように突き動かす
満足に身動きも取れないままで
満足感とはいつでも静寂の中にあって
ただそれを忘れてしまっているだけ
8.フラッシュの窓
爪先から這い上がる冷気。
太もも、腹、心臓へ。
笑って白い息を吐いて、「何にも解決していないね」なんて
そんなので嬉しそうにしている君は、三色に別れた僕の影のうちの一人。
「今夜、窓硝子の外は何やら騒がしいね」
「時折、赤や黄色の光で照って小さな劇場だ」
なんて、相変わらず笑っている。
9.秋の音
金商殿のお腰に付いた根付けを引ったくった泥棒。
手の中で綺麗な振動が鳴るのを感じていた。
茂みの裏に入ってそれに顔をまじまじと近付けて、秋の虫の音の真実を知る。
されどもそんなポカンとした顔のままで、まこと厭なことに首は切り落とされてしまい
落ち葉はようよう紅く照り行き…。
100.立つ鳥
ある時のこと
庭に目をやると 見慣れない鳥の姿があった
その体表は濃く鮮やかな藍色をしていて
可愛らしい鳴き声を束の間響かせた
ものの数秒間でありながらも やけに印象的だったその光景
鳥が飛び立ち、残ったものは…
グミの木の枝が揺れる その寂しさだけ
仏壇の中で変わらない 懐かしい笑顔
寂しさの輪郭を撫でていた
かなり久しぶりにログインしてみました。昔に書いたらしい詩が下書きのままになっていたので、恥ずかしいですが、敢えてそのまま公開してみることにしました。お楽しみいただければ幸いです。