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Delighting World  作者: ゼル
Break 第六章 トーキョー・ライブラリ編 ~届け、想いの力、鳴り響け勇気の歌~
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Delighting World Break ⅩⅩⅧ.Ⅸ ~忘却の少女と忍びる闇~

私は今、悩んでいる。


この惑星で新たな管理人となって1000万年以上の時間が流れていた私にとって、この惑星で永遠に生きることは決まっていることであり、決して変えることのできない運命のようなものだと思っていた。


だけど、今この時になって私は悩んでいる。


―――



どういうわけか1000万年以上、ずっと誰も迷い込んでこなかったこの惑星に一人の竜人がやってきた。

その竜人の名前はボルドー・バーン。


彼はシンセライズで死んでしまったが、彼の仲間の魔法で肉体、精神、魂の一部だけをシンセライズに残した中途半端な状態になった。


そしてその中途半端な存在になったが故に、この惑星に失った肉体、精神、魂の情報を再構築して迷い込んだ。

これが偶然なのか、誰かの差し金なのか。それは分からなかった。



私は、最初は彼に何の関心も無かった。だって、彼は中途半端な死によってここに居るだけ。そして彼を蘇らせるためにシンセライズでは頑張っている仲間がいる。


つまり、すぐにシンセライズに帰ってしまうということ。

私にとって、ずっとここに居ないのならそれは無価値だった。


何故そんなことを思うのか。私は…心の中にずっと“寂しい”という気持ちを抱えていたからだ。

ボルドーの前では強がっているけど、1000万年経ってもこの気持ちは消えない。

この惑星の管理人になったとき、エテルネル・シンセライズから私はシンセライズを見ることができる目を貰った。疲れるからあまり使わないけど…



でも、時々見ているとやっぱり私は、シンセライズで生きる人たちを羨ましいと感じる。

辛いことも、悲しいこともあるのは知っている。私だって元々は死竜として統合前の世界を生きていたのだから。

死竜戦争という大戦争の真っ只中を生きてきたのだから、分からないなんてことはない。それが生きるということだから。

私は、悲しいことも辛いことも無く、一生死なずに生きることができるこの惑星で生きることは果たして生きると言えるのだろうかと考えていた時期もあった。

でも、考えれば考える程、私は何故ここにいるのだろうと考えるようになって、怖くなってしまう。だから、いつしか私は考えることを辞めてしまった。



私がここに居る理由。それはガデンのため。


ガデンは私が管理人になる前の管理人の老竜。

当時記憶が無く、迷い込んできた私を受け入れ、一緒に暮らしてきた私の大好きな恩人。


そんなガデンに託されたこの惑星を失わせないように、私はずっと生きてきた。

最も、それだけではないのだけれど…あの時はまだ記憶も戻ったばかりで、選択を悩む時間もほとんど無かった。


でも、大好きなガデンに託されたのだから。それはとても嬉しいことだった。


大好きだからこそ、ガデンが守った惑星を私が守るんだと。そこには確かに使命感のようなものもないわけじゃなかった。



……でも、やっぱり私は寂しかったんだ。

だから私が真っ先に消したのは感情だった。きっとボルドーが始めて私を見た時は淡泊な奴だと思ったと思う。



考えることを辞めてる方が苦しくなくて済むから。


私は、諦めた。



―――でも今…私はシンセライズで生きることが選択できる機会に恵まれている。

もうこんなチャンスは二度とないと思う。


そんな機会を…ボルドーが作ってくれた。


ボルドーがシンセライズに戻ることができるようになった。

そして、彼は…私を一緒にシンセライズに連れて行けるようにしてくれたんだ。


抑止力であり八神の1人、ナチュラルは惑星ごと私をシンセライズに連れて行くことが可能だと言った。


だけど、それは私の管理者としての力は消え、普通の人間とドラゴンの混血として生きることになるということだった。

そう、私の持っている永遠の命は消え、年老いていくことになる。


これは簡単に決めて良いことではなかった。


あの時のように時間が無いわけではない。だから私は悩むことにした。

これから、私がどうしたいのかを。後悔の無い選択をするために。


ボルドーだって早く戻りたいはず。だけど、ボルドーは戻らなかった。私を放っておけないと言った。

大雑把で豪快で変な人。

でも…とても、とても優しくておおらかな人。


だからこそ、私はボルドーを信用している。出会えてよかったって心から思ってる。


ボルドーにはシンセライズに妻と息子を残している。だから一刻も早く帰りたいはず。

なのに、ボルドーは私の為に帰ることを先延ばししてくれている。一人はさせてくれない。一緒に考えようと言ってくれた。


そこまでしてくれるのなら、私はそれに応えたいと思った。だから、絶対に後悔しない選択をすることが、ボルドーの気持ちに応えられる唯一のことなんだ。



ボルドーは私がシンセライズに行くのなら、絶対に最後まで守って見せると言ってくれた。私だって守られてばかりは嫌だけど…でも初めての世界だもの…少しぐらいは甘えても良い…と思ってる。




私は、シンセライズに行くべきなのかな…ガデン。

あなたの守りたかった惑星を捨ててでも、その価値はあるのかな…これは、私のわがままで決まって良いことなのかな…

寂しい気持ちも、全部私の都合だもの。それで、良いのかな。



私はもう少し、向き合わなければならないようだ。


--------------------------------------






ガデンが消えた場所は惑星の中でもひときわ大きな大木。

ここは他の場所よりも魔力が濃く、この惑星の中でも核に近い場所。



私は大木の寄り添いながら考えていた。



(…私は、どうしたらいいと思う…?)


自分の気持ちをそのまま押し通せば、きっと私はボルドーと一緒にシンセライズに行くと思う…

だけど、これは私のわがままではないかという気持ちが抜けなかった。



だからこそ、私はいつまでも答えを見つけられない。

ボルドーはあえて私を一人にしてくれている。

ボルドーの言葉で私が決めることをしない為だ。ボルドーの言葉で動いてしまっては意味がないからだ。私が、私であるために、私がどうしたいのかをしっかり決めるために、私は一人で考えている。



でも、この時私は―――1人になってしまった。



だからこそ私は、この後――――



「…ガデン…」





ぽつりとつぶやいた言葉。その言葉に応える様に大木が淡く光り出したのだ。

「えっ…」


私の目の前に現れたのが幻影だろうか。うっすらと見えるそれは、年老いた老竜。


「ガ、デン…?」

立ち上がりふらりとガデンに近づき、触れる。


「…触れる…どうして?」


「―――カナタ、久しぶりだね。」

「…ガデン…!」

私はガデンに抱きつき涙を流す。


大好きだったガデンが帰ってきた。どうして帰ってきたのか分からないけれど、確かに私の知っているガデンがそこに居た。

「ガデン、会いたかった!」

「儂もだよ、カナタ。」

私の心は1000万年の時を一気に遡ったかのようだった。あの時の時間が一気に蘇っていく。


「あのね、ガデン…私…」

「あぁ、分かっているよ。迷っているのだろう?カナタ。」

「う、うん…知っているの?」

「もちろんだとも…君のことはなんでも知っている。」

ガデンは小さく微笑んだ。


「カナタ、君はこの惑星を捨ててシンセライズに行くかどうかを迷っているんだね?」

「捨てる…うん、そう、かも…私は捨てようとしている。この惑星を。」


私はこの惑星を捨てようとしているんだ。

今までの思い出と共に消し去り、そしてシンセライズで新しい人生を歩もうとしている。


「私、あなたと同じぐらい大事な人ができたの。」

「ボルドー・バーン。」

「うん、そこも知ってるんだ…でも、どうして、そんな寂しそうな顔をしているの?ガデン。」


ガデンは悲しそうな顔をしている。





「カナタ、君は…騙されている。」

「――――え?」


私の心が大きく揺らいだ。


「カナタ、君は知っているはずだ。シンセライズは辛いことや悲しいことが多い。そして、そこで生きる者たちは簡単に裏切ることだってあるのだよ。」

「ボ、ボルドーは…そんなことしないよ…」

「本当に、そうかい?」

ガデンは私に問いかける。


「そ、それは…」


「自信はあるのかい?ボルドー・バーンが裏切らないという自信は…?」

「―――」


ボルドーとはそんなに長い付き合いじゃない。私にとっては本当に一瞬のような時間での出会いだった。

でも、ずけずけと人の心に入ってきて、何もかも諦めていた私を引っ張ってくれた…優しい人だ。そんなボルドーが裏切るなんて…


私は首を横に振り、悪いことを考えることを辞めようとするが…


「カナタ、もしボルドー・バーンが味方でいてくれたとしてもだ。向こうの世界で味方になってくれるのが彼だけだったらどうする?」

「えっ…」


「彼の国は竜人の国だ。君のような人間が家族として迎え入れられると思うかい?」

「…」


「それにボルドー・バーンには家族が居る。今のように君だけのことを考えてはくれなくなる。だって、君は…彼にとっての1番ではないのだから。」

「…私は…」


何も言い返せることがなくなってしまった私は沈黙してしまった。

そして―――



「カナタ、君は―――ここに居るべきではないのかね?」


「……ガデン…」


「大丈夫、儂はずーーっと君の傍に居る。君を裏切らない。君を1番に考えよう。」



「……」

「カナタ、もう一度よく考えるんだよ。」

ガデンはそう言い、消えてしまった。

「ガデン!待ってガデン…私は…ッ……」





--------------------------------------








--------------------------------------



「…そろそろカナタの様子を見に行くとするか。」

あれから数日経った。


俺様はそろそろカナタの様子を見に行くため、大木の場所へと向かった。


「様子見に行くの~?」

一緒に居たナチュラルは相変わらず小動物たちにもみくちゃにされてやがる…

「おう、ちょっとな。」

「じゃぁここで待ってるね~。」


ナチュラルを待たせ、俺様は歩き出す…




だが…歩くたびに何か妙な違和感を感じていた。

「…あん…?いつもと魔力の流れが…」


俺様は一度引き返した。ナチュラルに尋ねる為だ。

ナチュラルの元に向かおうとするが…

「おわっ!」

「あっ、ごめ~ん。」


途中でばったりと遭遇し、ぶつかりそうになる。

慌てて後ろに下がる俺様とナチュラル。

「ワリィ、ナチュラル。」

「あ~いいよぉ、ボクも君と合流したくてぇ…」

ナチュラルは遠くを見つめている。


「…感じるか?」

「うん~…な~んか変な感じがするんだよねぇ~…」

ナチュラルは手を胴体の下に当てて、悩む。

「カナタが心配だ。行こうぜ。」

「う~ん…」



カナタの元に俺様達は急いだ。


そして大木の元に辿り着いたが…そこに居たのは、項垂れていたカナタの姿だった。


「カナタ!」

カナタの肩を持ち、声をかける。


「カナタ、大丈夫か?妙な気配がするんだ、コイツはどうなってやがる…?」

「…」


カナタの目からは涙が流れ落ちる。


「…カナタ…?」


「…ねぇ、ボルドー…私…






シンセライズには行けない。」





「…」


カナタは押し殺すようにして、その言葉を吐いていた。



「…カナタ、それはお前の意志から出た言葉か?」

「…」

カナタは…頷いた。



だが、すぐに分かった。



これは本心じゃない。




「…お前が本心でそう決めたなら俺はお前の意志を尊重する。けど…すまねぇ。俺には…お前のさっきの言葉と頷きが…本心じゃないとしか思えねぇんだ。」


「…ッ…違う。これは…これは私の意志だよ…だから…もう良いの。ボルドー、あなたはあなたの帰るべき場所に早く帰るべきよ。」

カナタは歯を食いしばり、そして強く訴える。


違う。

これは、違う。絶対に、カナタの意志じゃねぇ…!



「カナタ!!正直に自分の気持ちと向き合えって言った筈だ!お前、何があったんだ!」

俺様は明らかに様子のおかしいカナタをなんとかして本心を聞き出そうとするが…


「ボ、ボルドー、落ち着いてよぉ。」

「離…ッ…いや、すまねぇ…」

ナチュラルが俺様の肩をつかみ、落ち着かせてくれた。


「…ッ…ちげぇんだ…こんなのはちげぇ…」

「…ボルドー、ちょっと良い~?」


俺様はカナタを大木にそっと座らせ、ナチュラルについていく。


カナタは蹲ってしまった。


―――

しばらくして俺様は深呼吸して自分を落ち着かせた。


「…ボルドー、落ち着いた~?」

「…ッ…すまねぇ、取り乱した。」


「良いよぉ、誰だってそうだもん~。でも、おかしいね。あまりにも急な変化過ぎる気がするよぉ。きっとこれ、何か理由があると思うなぁ~」

ナチュラルはカナタの変化には何か理由があると言う。


俺様もそう思う。さっきから感じる妙な気配。妙な違和感。

決して気持ちがいいものじゃねぇ。


「…ボルドー、原因を探ろうよぉ。あの大木から、少しだけ悪い気配がするんだよねぇ…」

「…どうすれば…探れる?」

ナチュラルは考えるが…


「大木さんに聞いてみよう~」

「…は?」


「聞いてみるんだよぉ。えへへぇ~ボクはぁ、自然を司る神様だよぉ~?自然とお話なんて簡単簡単~」

ナチュラルは自信満々に言うが…そんなこと可能なのか…?いや、コイツ神様だし、全然あり得そうだ…


「…ナチュラル、このままじゃカナタは絶対に後悔する。アイツの本心を聞けないまま帰れねぇ。だから力を貸してくれ。」

「もっちろ~ん。じゃぁさっそく大木に語りかけて見ようかぁ。」



ナチュラルは蹲って全てを拒絶するカナタを横目に、大木に触れる。



「ねぇ、ちょっとお話聞かせてねぇ。」

ナチュラルが触れた大木が淡い光を発する。薄い緑色の優しい色だ。


「…!」

やがてそれはナチュラルと俺様を包み込み…

フッと姿を消してしまった。



蹲るカナタだけを残して…





--------------------------------------







「…ッ…なんだってんだ…」

「見て見て~ボルドー。」

「あん…?」

ボルドーはナチュラルが示す場所を見る。


この空間は大木の中なのだろうか。

神聖な雰囲気を感じるぜ。美しい大自然に囲まれた洞窟で、辺りには高濃度の魔力のフワフワが漂っている。中央には小さな湖があり、その上には…年老いた竜が眠っていた。


「こいつは……?」


「ガデン。カナタのお友達~そして、前のこの惑星の神様だよ~」

「…コイツが…ガデン…」


湖の上で浮いている老竜はガデンだった。

しかし、そのガデンの身体からは神聖な気配がする。さっきまであった妙な悪い気配は感じねぇ。


だから分かった。目の前に居るのは正真正銘本物だ。



「…ナチュラル様…で、ございますか…?」

「うん、ちょっと姿が違うと思うけどぉ、ナチュラルだよぉ。」

老竜は口を開かずに喋りかける。


「そうですか…そして…君は……嗚呼、儂は君を知っているよ。久しぶりだね。」


「あぁ…?俺はアンタのこと知らねぇぞ…?」

俺様のことを知っている…?


「覚えていないのだね…そうか。あの時の若き君は君はすぐに死を拒んだからね。」

「…拒んだ?死を?…って、んなことは良いんだよ!あんたがガデンだろ。カナタのことは分かるな?カナタが今…!」

「分かっているとも。」


俺様はこのガデンの言うことはよく分からなかった。


だが今はそれどころじゃない。自分の事なんてどうでもいい。


俺様は必死にガデンにカナタの状態を訴える。ガデンはそれを承知でいるみてぇだ。



「さっきまでカナタは普通だったんだ。だけどよ、今のカナタは変だ。何か知っていることがあったら教えてくれ!」

俺様はガデンに問う。

ガデンは辛そうに声を出す。


「…すまない、良くない者に目を付けられてしまった。其の者が…儂の姿を模して、カナタの心を誘惑してしまったようだ。」

「…そいつは…そいつは何処に居る?何者なんだ。」

ガデンは呟いた。





「―――イビルライズ。」



「…!」

「う~ん…やっぱりかぁ~…」




イビルライズ。

ビライトが追っている存在で、キッカを奪った者。

そして…世界の負を司る、世界の脅威。


それが…カナタに干渉した…だと…?



やはり、カナタの意志では無かった。

イビルライズが、カナタの心を揺さぶったんだ。


一生懸命考えて結論を出そうと前向きになったカナタの心を再び閉ざしてしまったんだ。許せねぇ…!!



カナタ…もしお前が苦しんでるなら、必ず助けてやる。


イビルライズなんて俺様が打ち払ってやる。だからガデンから情報を集めて戦うんだ。


俺様のやれることを、やるんだ。



―――イビルライズを巡る戦いが始まる。




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