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Delighting World  作者: ゼル
Break 第六章 トーキョー・ライブラリ編 ~届け、想いの力、鳴り響け勇気の歌~
97/139

Delighting World Break ⅩⅩⅧ.Ⅴ

6章キャラクター紹介(追加Ver.)


ルフ


・性別…男性

・年齢…0歳(クローン体706372代目(六章で死亡する前は706371代目))

・身長…173.1cm

・体重…58.5kg

・種族…クローン体

・一人称…俺


トーキョー・ライブラリで出会った糸目の熊獣人であり、トーキョー・ライブラリの核であるブレインで暮らしているクローン体。


ブレインにはかつて3人の友人と暮らしていたようだが、ルフ以外の3人はクローン体とはならず、年老いて先に旅立ったらしい。

自分の愛する都市を守るためにビライトたちと協力してカタストロフを救うために協力する。


カタストロフ戦ではブレインからの遠隔でカタストロフの動きを封じる貢献を行ったが、衝撃波によりブレインは半壊し、それに巻き込まれて死亡。


クローン体生成装置は地下にあり装置は無事であったため、すぐに新しい個体に魂が移り変わったが・・・?


--------------------------------------


名称解説


・スカイ・ライブラタワー


トーキョー・ライブラリのスミダという地域に存在する、トーキョー・ライブラリ内で最も高い電波塔であり、634mの高さを誇る。


地下にはあらゆるものを分析、計算できるスーパーコンピューターがあり、抑止力の序列もここで分析したものが元になっている。

どんなものでも分析、計算できると言われており、悪用されない為この場所を知っているのは抑止力たちと、ルフのみである。



--------------------------------------


ショートエピソード


~揺らぐドラゴニア~




ワービルトをアルーラに託し、ドラゴニアに滞在することになったヴォロッド。


魔竜グリーディ襲来で被害を受け、復興中のドラゴニア。

グリーディ襲来の被害を受けたワービルト国民は愛国家のドラゴニア国民とは違い、やりどころのない悲しみや憎しみを抱えている。

これによりドラゴニアの復興が遅れていることを知るヴォロッド。


ドラゴニアとは友好な関係を維持したいワービルト国としては、見過ごすことは出来ない事案であったヴォロッドは自らがそれを正そうと出向いたのだ。


失った物や建物は復興すれば戻ってくる。だが命は返っては来ない。

その気持ちも尊重はしつつも、その怒りや憎しみをドラゴニアにぶつけることは褒められたものではない。


ドラゴニアとワービルト、そしてヒューシュタット、3つの大国が協力してよりよい世界を創っていくためには取り除かなければならない問題だ。




ヴォロッドは早速ドラゴニアを視察するため、部下の兵士たちを連れてドラゴニアの街に乗りだすのだった。


―――


「フム…ヒューシュタットの機械を導入しておるようだな。」


「そのようです。我が国からも人の支援は行っておりますが、やはりヒューシュタットの技術は大きいようです。」

「流石の技術力よ。流石我が友が治める国であるな。」

ヴォロッドは自分のことかのように誇らしくする。

ヒューシュタットの機械は巨大で、人が操作することで瓦礫を簡単に運び、移動にも凸凹道などの悪路すらも簡単に超えて行けるものだ。


(我が国の文化を消滅させない程度に、導入を検討したいものだな。)

ヴォロッドはそう考えながら作業現場を見つめる。



ヴォロッドの視察には多くの人々が二度振り向くほど目立ったものであった。


かなり大柄な体格であるため余計に目立つのだが、その王たる風格からヴォロッドのことを見たことがない人でも、「この人は多分偉い人だ」というのが分かってしまうようだ。



―――

ヴォロッドは復興が進んでいなさそうな場所を中心にドラゴニアの街を見て回っていた。

すると…


「困ったなぁ…」

「どうしましょう…」


「ム、困りごとのようだ。」

「そのようです。」


困っている女性の竜人と男性の人間。


片方はドラゴニア国民だが、もう1人はヒューシュタットの人間のようだ。支援で派遣されているのだろう。

目の前には倒壊した大きめの建物があり、周りには竜人の子供たちが大勢走り回って遊んでいる。


「もし、そこの者たち、少しよろしいですかな?」

獣人兵士が2人に声をかける。


「えっ、あっうわっ、はい。」


兵士の方を向くと、驚く2人。


最初は兵士の後ろに居るヴォロッドに驚いたのだと思ったが、この2人は獣人に驚いているようだった。


「あぁ、失礼。怪しいものではないのだ。このお方は我がワービルト国王、ヴォロッド・ガロル様である。」

獣人兵士はヴォロッドを紹介する。


「ヴォ、ヴォロッド王だって…?なんでまたここに。」

人間の男性は慌てているが、竜人の女性は…


「…ねぇ、ワービルトの王様だったら…」

「あ、あぁ…そうだな。」


人間の男性に話をし、そして落ち着かせた上で男性が話を進める。


「えと、す、すいません。驚いてしまって…」


「落ち着いたようだな。何やら困っているようであったが故、声をかけさせてもらった。」

「そ、そうですね…ワービルトの王にこのようなお話をするのは少し気が引けるのですが…」

「…構わぬ、話を聞かせてもらおう。」

ヴォロッドは倒壊した建物の前の段差に座る。

すると周囲で遊んでいた子供たちが寄ってきて…


「おじさんおっきい~!」

「すご~い!」


「あっ!こらこら!この方はとても偉い人なんですよ!ホラ、あっちに行って遊んでいなさい。」

竜人の女性は子供たちを向こうで遊ぶように言う。


「あの子たちはそなたの子…にしては多いな…孤児か?」

この数は約30人程度は居る。

「はい。私は孤児院を管理している者でして…この建物は、その孤児院なのです。」


倒壊した建物は孤児院であった。

「なるほど…あの子たちは…」

獣人兵士が言うと、女性は頷いた。


「えぇ、あの子たちの過半数はグリーディの攻撃で両親を失った子たちです。」

「そう、でしたか…」


「中には深く傷ついている子も居るのですが…この孤児院で預かり育てていきたいと考えております…私に少しでも親代わりができればと…ですが…」

竜人は思いつめたような表情を見せる。


「孤児院の修繕が遅れているのか?」

「そ、そうなんです!」

人間の男性が言う。


「私はヒューシュタットから派遣された者なのですが、修繕用の素材が遅れているのです。」


「物資の流通が上手く回っていないのか。」


「えぇ…その原因が……えっと、ワービルト国民が関わっていると…聞いています。」

ピクっと耳を動かし、表情が変わるヴォロッド。


「フム、私が聞きたかったことだ。私はワービルト国民がこの国に危害を与えていると聞いているのでな。王として見過ごせぬが故、それを調査しているのだ。詳しく聞かせよ。」

ヴォロッドの表情は真剣であった。


--------------------------------------



ヴォロッドは真剣に2人の話を聞いた。


話によると、ドラゴニアに恨みを持つ者たちがヒューシュタットからの救援物資を狙い、流通の妨害をしているようだ。

その数は定かではないが、ヒューシュタットもそれを警戒しているようで、流通数を減らしたり、時間帯を変更したりと苦労が絶えないようだ。


そして、今ドラゴニアの修繕が遅れている場所はこの孤児院や、魔法学園、病院、店舗など、人々の暮らしを豊かにするもの、人を救う場所などの大きな建物が多いようだ。

大きな建物ほど、やはり物資が必要なのだ。

足りない物資で修繕が叶わないのであればその足りない物資でも直せるところを優先して直すようになっているのだ。


もちろん、そのお陰で家に帰れる住民たちも増えてきてはいるが、肝心のライフラインが整わないままでいるため、やはり不便な生活がずっと続いているのだ。



「…なるほど、しかし我が国やヒューシュタットからの救援の全てを妨害出来てはいないということは数はそれほど多くはないのかもしれぬな。」

「しかし、これから数が増えてくる可能性はあります…だって、グリーディの攻撃で亡くなった人たちは…今も悲しんでいますから。」

竜人は辛い表情を見せる。


「…フム、心が沈んでいる時ほど周りに影響を受けやすい。もしも今ドラゴニアの妨害をしている者たちが仲間を増やしているのであれば早急に対策を急がねばならぬな。そのためには…」


「…あの、ヴォロッド、様。」

人間の男性が言う。ヴォロッドは男性を見る。


「私たちヒューシュタットの国民は事の状況をお話でしか聞けていません。まだ私たちの国でも混乱している人、意識がハッキリしていない人たちが大勢いるんです。」

「ウム、ガジュールの精神操作であるな。」


「はい…だから私からはあまり大きなことは言えませんが…私たちの国を救っていただいたドラゴニアのボルドー様や冒険者様たち、そしてワービルトの方々の手助けをしていけたら…と思っている人たちも多いです。その気持ちを…壊されたくないんです。でも、それを壊そうとしている人たちの気持ちも分かってあげたいんです。だから―――」


男性はたじたじながらも、思っていることをヴォロッドにぶつけた。

この男性は優しい者だ。だからこそ今の状況を辛いと感じるし、妨害をしている人々の気持ちも分かると同時に、憤りも感じているのだ。


「ウム、私もこの状況を何とかするために来たのだ。多少手荒なことはするやもしれぬが、必ず改善に向かうようにしよう。それまではしばしの我慢をしてもらうことにはなるがな。」

ヴォロッドは自分よりも若く、小さく見えた男性の頭を優しく置き、微笑んだ。

「ありがとうございます…!」

「すみません、ヴォロッド様。どうか、このドラゴニアの為にお力をお貸しください。」

「ウム。任せておけ。」



ヴォロッドは約束をし、また違う場所の視察へと向かった。



--------------------------------------





「―――して、どうであった?」


夕刻となり、ヴォロッドたちは城へと戻ってきていた。

そしてベルガの部屋で報告を行っていた。



「ウム、物資の流れが滞っておる。やはり我が国の者たちが妨害を行ってる故に起こっていることは間違いない。」


「そうか…しかし…我々には何も出来ぬ…力で制圧したところで何の解決にもならぬ…余計に恨みを買うだけだ。」

「そなたは相変わらず優しすぎるな。時には力でねじ伏せることも必要だぞ。」


「…お主も変わらぬな…しかし、私にはもうこの身体すらまともに動かせぬのだ…歯痒いが…私にはただ受け入れることしか出来ぬのだ…」


ベルガも酷く心身が疲弊しているようだった。


クルトも最近は身体に支障をきたしており休むことが多い。メルシィもブランクの世話をしながら出来る限りのことをしているが、ボルドーが眠り続けていることによる不安がどうしても前向きな気持ちを妨げている。


ドラゴニアは国民も、王族も全てが疲弊している状態になっているのだ。


「全く、相変わらずヌルい国よな。」

ヴォロッドはため息をつき、立ち上がる。


「汚れ役は私が買ってやろう。だがもはや我々だけではこの事態を完全に治めることは不可能だ。故に、ホウを交えて三国会議を開くぞ。」

「…そうだな。今こそ我々三大国家が力を合わせなければならぬな…そのためにはまず3つの国の王が今後の方針をまとめ、末端まで指示をしてやらねばならぬな…そして妨害勢力もなんとかせねばならぬ。」


「そういうことだ。ヨシ、善は急げと言うだろう。今すぐホウに文を送ろう。ヒューシュタットの者に依頼せよ。」

「ハッ。」

ヴォロッドは兵士に命じ、ヒューシュタットの人間にホウと連絡を取るように依頼させた。


「ヒューシュタットの技術は凄いぞベルガよ。“デンパ”とやらを使用し、離れた場所でも文や会話を瞬時に送る技術があるというのだ。ドラゴニアからでも瞬時にヒューシュタットに連絡が出来るというのだ。」

ヒューシュタットの技術で、“メール”、“デンワ”と呼ばれるものらしい。


「そうか…ヒューシュタットはやはり我々の想像を超えるほど、発達しておるのだな。」


「我々にもそれぞれ文化があるが、これからは全ての国の技術を壊さぬ程度に共有していかねばならぬかもしれんな。」

「…そうだな…だが、そこは慎重に行うべきだ。今の文化を守ることが最優先だ。」

「ウム。」


ヴォロッドとベルガは軽く雑談を交えながらこれからのことを話しあった。

今、世界はドラゴニアの崩壊とヒューシュタットの解放によって大きな転換期を迎えようとしている。

これから世界は徐々に変わっていくだろう。現在の王である彼ら、そして次期王となる者たちはその問題と深く向き合っていかねばならないだろう。


未来の王たちが苦労しないため、今から今の王たちもそれぞれが新しいことに順応していかねばならない。

これからのシンセライズは課題が山積みのようだ…




―――

それからしばらくし、ホウからの連絡が取れてすぐに向かうと報告があったようだ。


「ウム、ではドラゴン便を手配しよう。」

ベルガの指示でドラゴニアのドラゴン便がヒューシュタットに向かった。


2日もすればホウはドラゴニアに到着できるだろう。


ヒューシュタット、ワービルト、ドラゴニアの三大国家の王が集まり、これからのことを話しあう会議が始まろうとしていた。

これからの未来を生きる者たちの為に、王たちは世界の問題に向き合うのだった。



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ショートエピソード


~ルフのかくしごと~




カタストロフとの戦いを終え、ビライトたちはブレインで休息をとっていた。


激しい戦いだったが故、皆が眠っていた。

起きているのは眠る必要のないアトメントとカタストロフ。


デーガとカタストロフも眠る必要はないのだが、デーガはかなり力を消費したようで、今回ばかりはグッスリと眠っている。




しかし、その中で起きている者がもう一人いた。


リビングや部屋で眠っている一行を起こさないようにこっそりと外に出る者。


「ようルフ。どっか行くのか?」

「うん、ちょっとスカイ・ライブラタワーにね。」


家から出てきたのはルフだった。

ルフは外に居たアトメントを見て微笑むが、そこには少し陰りが見えたような気がした。


「…なぁルフ。一緒に行っても良いか?」

「あー…うん、良いよ。アトメントならスパコンのこと知ってるしね。行こうか!」


ルフは少し迷ったが了解し、アトメントを車に乗せてルフは走り出す。


「しかし、この車無事だったんだな。」

「うん、ブレインの後ろに隠してあったからね。」

ルフの表情は分かりづらいが少し辛そうな顔をしていることをアトメントは見逃さなかった。



「なぁ、ルフ。お前身体大丈夫なのか?」

「うーん…大丈夫だよって言いたかったんだけど、嘘はつきたくないしね。でも詳しいことはスパコンの所に着いてからでいいかな。」

「あぁ、構わねぇよ。」


それからは2人共だんまりだった。

やがてスカイ・ライブラタワーに辿り着いたルフとアトメントは内部に入る。


「あー…すっごい死んでる。」

魔物だ。

カタストロフ戦の時に倒した魔物たちの遺体があちこちに転がっている。


この遺体の多くはよく見ると、共食いによる死だった。

魔物同士が争った跡が多く見受けられたからだ。


「…結構負の力が出ちまったな。イビルライズが俺たちの前に姿を現すようになってきたってことは、そういうことだよな。」

「そうだねぇ…でも、きっとこれから…」

「あぁ、なんとかするしかねぇからな。」


ルフはスカイ・ライブラタワーの端っこに小さなボタンを見つけ、それを押す。


すると手形認証が表示され、ルフが右手を当てる。

すると壁が扉に変わり、地下へと続く階段が現れた。


「無傷、だな。」

「うん、流石にここが壊されちゃったらシャレにならないからねぇ。」


2人は階段を降りていく。

するとその先には広大な空間が現れた。

薄い青色の光が部屋中に照らされており、無機質に感じる。

その中央に位置する大きな端末と大きな液晶画面に謎の球体が浮いている。


「さて…と。」

ルフは端末を操作する。


「トーキョー・ライブラリの損害は…っと。」

ルフは損害をまず調べることにした。


スーパーコンピューターにはAIエーアイと呼ばれる人口知能を搭載している。

調べ物をするならばこのライブラリに保管されてあるデータ、そして計算データなどを引用し、答えを導き出すことができるのだ。


「うーん、損害率75%…かぁ…結構厳しい数値だね。とりあえず…自動修復の要請をして…」


「なぁルフ。そろそろ良いだろ?」


「あぁ、ごめんごめん。えっと~…アトメントから見て今の俺はどんな感じに見える?」

「正直あんまり良いようには見えねぇ。魂がグラついてる。」

「だよねぇ…俺もなんとなくそんな感じする。」

ルフは「たはは」と頭を掻く。


「…産まれたばかりの個体がすぐに死んでしまうと無理矢理生成装置が次を産もうとして大きな負荷がかかっちゃうんだ。しかもその不具合は今後の個体にも全て響いてくる。つまりだね~…」


「寿命の現象、魂の離反の限界が近くなる、ってことだな?」

「そうだね~今の俺は多分持って1年が限界だろうねぇ…そこから徐々に伸びていくと思うけど、前の個体のような約10年個体離反には今後ならないと思うよ。精々伸びても5年個体じゃないかなぁ。」


ルフにとっての今回の早すぎる個体の死は装置に大きな負担をかけてしまったようだ。

ルフの個体は平均10年程度の寿命を持っているが、今回の件で1~5年という非常に短い期間に縮まってしまったのだ。


そして死ぬ度に新しい個体が生まれる為、量産される個体も倍以上に増える。

それだけ身体が入れ替わるのだから、最終的に訪れるであろう、身体と魂の離反により完全な死を迎えてしまうタイムリミットが大幅に縮まってしまったのだ。


「…どんだけ持つ?」

「うーん…こうなる前が1万年ぐらいだったけど、今回ので5000年持てばラッキーぐらいになっちゃったかなぁ。」

「そっか…5000年でやれんのか?トーキョー・ライブラリ完全自動計画。」


「うーん…どうだろうね…難しいかもしれない。」

ルフが目指しているのは、いつか自分が死んでしまった時にトーキョー・ライブラリが無人でも消えずに残り続けるための都市完全自動化だ。

完成には近づいている実感はあったが、今回の事件でトーキョー・ライブラリの7割以上が壊滅してしまった。


完全自動化計画は大きく後退してしまったのだ。


しかし、ルフは難しいとは言ったものの、まだ諦めてはいないようだ。


自動修復できる場所を可能な限り手配し、そうでない部分についてもこれから進めていきながら、完全自動化計画も進めていくつもりだ。


「…アトメント、カタストロフとデーガには内緒にしてね。」

「…――」

ルフは話を続ける。


「カタストロフは人的被害を避けるために抗って抗って無人のこの地にとどまった。でもトーキョー・ライブラリは壊滅。これだけでもカタストロフは俺にも、みんなにも罪を感じている。デーガだって表には出さないけど、きっと思うところがあると思う。なのに俺の寿命の話までしちゃったらさ、かわいそうじゃん。」

ルフはそう言うが、身体が少し震えているのが見えた。


「憤り感じるよな。」

「仕方ないよ。もう起こってしまったことは変えられない。だったら前に進むしかないじゃん。俺たち生物はそうやって理不尽を乗り越えていく生き物なんだからさ。」

ルフはそう言いながら端末を操作し続ける。


「…全く、世界ってのは不完全だな。」

「はは、ホントにね。俺たちも、この世界も何もかもが不完全で理不尽だよ。」

ルフはうっすらと目を開く。

「でも、だからこそ俺たちは生きていける。完璧じゃないから正も負も生まれるんだよ。その中で生きて生きて、生き抜いて輝けるんだよ。それが俺たち生物なんだよね。」

「…だな。つくづく退屈しねぇ生き物だよ。」



大きく寿命を縮めてしまったルフ。

しかし、彼の目はまだ諦めてはいない。己の抱く理想を目指して何度でも生まれ、何度でも立ち上がる。

大切な場所をこれからも未来永劫続けていくために。


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ショートエピソードⅢ


~これからの未来~




「…ン…あれ…あたし……」


カタストロフの心を救ったビライトとレジェリーは気を失っていた。

2人はブレインへと運ばれ、一行は休息の為眠りについていた。



1人目覚めたレジェリーはベッドで眠っていた。

2つのベッドがあり、もう1つにはビライトが眠っており、そのビライトのベッドに突っ伏してヴァゴウが眠っていた。

そして部屋の隅ではクライドが壁にもたれて眠っている。


(…ヴァゴウさん、クライド…ずっと見ててくれたのかな。)


レジェリーは一息ついてゆっくりと起き上がり、ベッドに座る。


「そ、そうだ…カタストロフは…?」

レジェリーは辺りを見渡すがその姿はない。

(…どう、なったんだろ…)

もしかしたら救えなかったのか。そんな不安がよぎるが、その不安はすぐに払拭された。


ガチャッと共に扉の開く音が聞こえ、その先に居たのはカタストロフだった。

「…!」


「あっ…」


持っていたのはタオルであったが、カタストロフはそれを床に落とす。


「…レジェリー。」

「お、おはよ。」


「…ハァ……」

カタストロフはホッとした顔を見せる。相変わらず表情は汲み取りにくいがカタストロフは確かに安心した顔を見せていることが分かる。


「レジェ…」

「シー…」

レジェリーは指を口に当てる。


「ム…?」

「みんな眠ってるし…外、行こ?」


「…承知した。」

カタストロフはタオルを拾い、レジェリーと共にビライトたちを起こさないようにそっと外に出る。


リビングにはデーガが眠っていたが、こちらもグッスリ眠っているようだった。

(ホントに分かれちゃったんだね…)

レジェリーはデーガとカタストロフが別の個体として動いていることを新鮮に感じた。一心同体であった彼らは今や1つの魂ではなく、2つの魂として生きているのだ。



カタストロフはタオルを台所に置き、レジェリーと共にブレインの外に出る。


「…うわっ、綺麗…」


「…あぁ…」

時刻は夕刻、オレンジ色の太陽が河川敷をオレンジ色に染め上げていてとても美しい様であった。


「そういえばアトメントとルフは…?」


「ルフは無事だ。そしてあの2人は出かけている。我は留守をしていた。」

「そうなんだ…あれからどのぐらい経ったの?」

「2日だ。」

「…ずっと、見ててくれたの?」


「…」

カタストロフは頷いた。


「ありがと。」

「ウム…イヤ、当然のことだ…」

カタストロフはレジェリーに面と向かい頭を下げた。


「カタストロフ?」

「すまなかった。レジェリー。」

レジェリーに謝るカタストロフの声は力無い。


「どうして謝るの?」

「お前があんなにも我に諦めずに生きよと言ってくれたのに我は何度も諦めてしまった。だが、お前やビライト、デーガ、ヴァゴウ、クライド、そしてルフ。多くの者が我を諦めずに救い上げようとしてくれた。我は…たくさん、迷惑をかけたのだ。ルフの都市を破壊し、お前たちにも多くの被害を与えた。だから、すまなかった。」


「その、我にできることであれば、なんでもするつもりだ…」

カタストロフは本気で謝罪の気持ちを抱えているようだ。


「…あなたって本当に低姿勢なんだから。」

レジェリーは顔を上げて欲しいとカタストロフに頼み、カタストロフは顔を上げる。


「あなたが言う言葉は“ごめんなさい”じゃないわよ。だってあたしたちはあなたを助けたいから助けたんだもん。だったら…ね?あたしがあなたにして欲しいことは、それだけだよ。」

レジェリーは微笑んだ。


「…そう、だな…あぁ、そうだ。我がお前にかける言葉は…」


カタストロフは微笑んだ。


「“ありがとう”、だな。」

「うん、よく言えました。カタストロフ、おかえり。」

「あぁ…ただいま…レジェリー。」


レジェリーとカタストロフは夕日を見ながら涙を流した。


会いたかった。こうやって話がしたかった。

そして…


「あっ、なんでもするって言ったよね!じゃぁあたしからのお願い、聞いてもらえるかな。」

「ム…な、なんだ?」

少し身体をビクッとさせるカタストロフだが、レジェリーはカタストロフの身体をぎゅっと抱きしめる。

1.5倍以上の体格差があるため、全てを包むことは出来ずとも、レジェリーは精一杯抱きしめた。


「レ、レジェ…何を?」

焦るカタストロフだが、レジェリーは構わず下を向いて、呟いた。


「もう絶対に命を粗末にしないこと。」

「…あぁ。」


「師匠やみんなと仲良くしてね。」

「…あぁ。」


「あたしの友達…キッカちゃんをイビルライズから助ける為に力を貸して欲しい。」

「…ウム、必ず力となろう。」



「…あとは…その、あたしと、“生涯の友達になってださい!!”」

レジェリーはカタストロフの顔を見て微笑んだ。

「…レジェリー…それは…」


レジェリーはカタストロフのことを恋愛という意味で愛することを諦めていた。

カタストロフは抑止力だ。これからも世界の為に生き続ける。


「えへへ、あたしね。カタストロフのこと種族を超えて結婚したいぐらい大好きだよ。でもね…あたしとあなたでは住んでる世界が違いすぎるもん。」

「…」


レジェリーはただの人間だ。いつかは死んでしまう。

それに、彼とレジェリーでは住んでいる世界も違う。だからこそ、レジェリーは愛人としてではなく、生涯の友人としてカタストロフを好きになることにしたのだ。


「カタストロフのこれからの人生にとって、あたしが居た時間なんて一瞬かもしれない。たった100年にも満たない小さな命だけど…あたしはこれからのあなたの魂に刻まれたいの。ずっと、あなたの中で生き続けられるぐらい…」


「レジェリー…そう、だな。それならば…我は…ウム、そうだな。」

カタストロフはレジェリーを包み込む。


「約束しよう。どんなことがあっても我はお前と共に在ろう。生涯の友として。そして…忘れられぬほど多くの思い出を刻もう。」

「うん。約束だからね。」


「あぁ…約束だ。」



たくさんの約束を交わした2人。

これからカタストロフは生まれ変わったかのように新しい命を歩き続けることになる。

傍に居るのはレジェリーだけではない。

デーガやビライトたちもまた、カタストロフと共に歩き続けるのだ。


いち、生物として、世界最後の純血魔族として、抑止力として。


彼の新しい人生が幕を開けた瞬間であった。




―――




そして、その光景を後ろで見ていた人物たちがいたことに2人は気づかなかった。



「ひゅーひゅー熱いねぇ。」

「…」


「フェッ!?あ、あんたたちなんで!?」

「ム、居たのか。」

そこに居たのはデーガとクライドであった。

レジェリーは顔を真っ赤にして慌てているがカタストロフは平然としている。


「コイツに無理やり連れてこられたのだ。全く…」

クライドはデーガに掴まれていたので、無理やり連れてこられたのだろう。


「全く、イチャイチャしやがって。勝手に盛り上がってんじゃねぇっての!」

デーガはニヤニヤしていたが、レジェリーに対しては真剣な顔となり呟いた。


「レジェリー、コイツの思い出になってやってくれるか?」

「…うん、勿論。師匠も大好きだよ!」

「ケッ、俺はお前のことめんどくせぇ奴としか思ってねぇっつーの。」

「あー、酷いんだ~。師匠のツンデレ。」

「誰がツンデレだ…」


笑うレジェリー。デーガもまんざらでもない顔をしている。



「大事なものに出会えたようだな。」

「うん。」

クライドはレジェリーの顔を見て呟く。

「大切にしろ。失いたくなければな。」

「素直に受け取ってあげる。ありがとね。」

「フン。」


クライドはかつて、大事な仲間を失い孤独になった。

今でこそ、ようやく今まで縛られていた掟から解放され自由の身となったが、失ってしまったものは戻ってこない。

新たな大事なものをこれから見つけていくクライド。そして、大事なものを見つけたレジェリー。


一度失ったことがあるクライドだからこそ、失った時の悲しみが分かるのだ。だからこそ、レジェリーに大切にしろと言葉を贈ったのだ。


レジェリーはクライドの過去を本人が語らない為知らないままだが、その言葉には重みを感じたため素直に受け取ることにした。



―――



「と、いうかお前恥じらいとかねぇの?」

デーガはカタストロフに言うが、カタストロフは首をかしげる。


「恥じらい…?」

カタストロフは首をかしげて「ウーーム…」と悩みだす。

レジェリーは顔を赤くしているが、カタストロフは平然としているため、今の状況に恥じらいはないようだ。


「…あぁ、これが噂の“ハズカシー”というやつなのだな。昔聞いたことがあった。なるほど、こういうときはそういうものなのか。難しいものだな…」

(何の噂だよ…)

カタストロフは勝手に解釈して勝手に納得してしまった。



「レジェリー、我は恥ずかしがれば良かったのか。」

「え、えーと…その~…」


「…」

あまりの純粋っぷりにレジェリーは言葉を考えてしまい、クライドは硬直してしまう。


そしてデーガはため息をついてレジェリーの肩を叩く。


「お前が色々教えてやれ。」

「ちょっ、あたしに丸投げ!?」


「コイツ、これまでも色々出向いたりしてた割に色々知らなすぎなんだよ。てかお前が責任取れ。生涯お友達なんだろ?」

「え~…」


レジェリーは何故かカタストロフの保護者のようなことになってしまったのであった…。


最も、生きた時間は明らか…なのだが。


――


それからブレインに戻ってくると、ルフとアトメントが戻ってきていた。


「あ、おかえり~。」

ルフは何事も無く振るまっている。


「おう。レジェリーは目覚めたみたいだな。よかったぜ。」

アトメントもスカイ・ライブラタワーでの話はいったん心の中にしまい、レジェリーの目覚めを喜んだ。


「ビライトはまだなの?」



「あー…そのことだが、ちと面倒なことになっちまった。」

アトメントは頭を掻き、呟いた。



「え?」



アトメントはビライトの眠る部屋にレジェリーたちを連れて行く。


するとそこには険しい顔でビライトを見るヴァゴウが座っており、ビライトを見つめていた。

ビライトはまだ眠っているようだが…


「…何だこの感じ…さっきまでは感じてなかったぞ。」

「…この気配…我は知っている。」

デーガとカタストロフはビライトに違和感を感じているようだ。


ヴァゴウは既に事情を知っているようで、腕を震わせている。




「…ビライトが―――













イビルライズの残滓に干渉されてる。」








「―――え?」





ビライトに巣くう蠢く闇は、心を侵食していく。


--------------------------------------


次回のDelighting World Break!!!!



カタストロフである。


我を救ってくれたビライト・シューゲンが目覚めぬ。


我も心配であるが…レジェリーたちはもっと心配している。


目覚めぬ原因…それはイビルライズの干渉だ。


ビライトは恐らく我の中で出会ったイビルライズの残滓に何かをされてしまったのだろう…もしくは、ビライトは元々イビルライズの器であった。

ビライトの中にはイビルライズの残滓がまだ残っていたのやもしねぬ。それがイビルライズの力の貯えと、今回の事件が重なり大きな影響を受けてしまった可能性が高いのだ。



我は、また更なる迷惑をかけてしまったようだ…いいや、また落ち込んでいてはレジェリーやデーガに叱られてしまうな…

信じて待つ、それでいいのだろうか。


我に出来ることは、無いのだろうか。




ビライトは、今何を見ているのだろう。

イビルライズとの記憶、そして…対立。


その先に待つのは、やはり完全なる決別なのか。


次回、第七章


追憶の残滓編 Episode ビライト・シューゲン ~ボクのトモダチ~






我が友が悲しんでいる。

必ず、帰ってくるのだ。そして、お前にも…礼を言わせて欲しい。待っているぞ。ビライト・シューゲン。



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